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    15saihasaikou

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    15saihasaikou

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    ピクシブにあげてたのと同じやつです

    夏休みの間だけ田舎に住んでいたロナルド少年が、「病弱な男子に女装をさせて育てる」という人間の風習にあやかり、ネタ半分で女装をしていたドラルク(外見年齢10代前半)に初恋を奪われる話です
    ドラルクは死にやすい上に外見的年齢が育ちにくい体質という設定です

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    ロナルド少年が女装をしていたドラルク少年に初恋を奪われる話 ロナルドの初恋は年上の笑顔が可愛い女の子だった。
     ほっそりとした子で、ふわふわのフリルが溢れんばかりについた可愛らしいドレスから頼りない腕や足が見え隠れし、顔色も悪かったが、大きなリボンのついた帽子がその表情のほとんどを隠していた。それでも見える口元はいつも微笑んでいた。

    「ねえ、いつかきっと会いに来てね」

     少女は花のように笑ってロナルドにそう言った。その笑顔にロナルドは撃ち抜かれ、それからずっと、恋に落ちたままでいるのだった。

     ロナルドは小学生低学年くらいの時に埼玉の田舎で過ごしたことがある。遠縁の親戚の家で過ごしたのだが、それがどういった事情だったのかは覚えていない。一時的なものだったし、その親戚もそれから数年のうちに亡くなってしまい、ロナルドはその地との縁を失ったのだった。ともあれロナルドは一時的にその田舎で夏休みを過ごした。
     兄は勉学に大人の手伝いにと忙しく、妹とは別行動をしたい年頃だった。ロナルドは同年代の子供と遊んで過ごした。そしてその子たちから「吸血鬼が出るという噂の城」の怪談話を聞かされ、俺は夜中に忍び込んだことがある、僕だってある、おい都会っ子おまえにはそんな度胸なんかないだろ、と煽られたロナルドは「あるに決まってるだろ!」と豪語して、夜中にその城へ忍び込むことになった。
     実のところ彼らは忍び込んだことなどなく、忍び込む前に大人たちから「あの城に入ってはいけない」ときつく言い聞かされて見張られていたのだが、ロナルドにそれを言う大人はいなかった。

     夜中に見る城はおどろおどろしく、門はがっちりと閉まっており、周囲を囲う壁はとんでもなく高く頑丈に感じた。城の近くまで果敢にもやって来たロナルドは尻込みした。忍び込むなんて怖くてとてもできない、いや、みんなもやってるんだし、俺にだってできるはず、と迷っていると、城の窓にちらりと白いものが見えた。

    「きゅ、吸血鬼!?」

     ロナルドが身を乗り出すと、すぅっとその白いものも近づいてきて、城の窓がギィッと開いた。
     そこには女の子がいた。大きな白いリボンについた帽子に、ふわふわの白いフリルがついた紫色のドレスを着ていて、絵本のなかのお姫様が飛び出してきたかのようだった。
     帽子の下からのぞく口元は三日月の形をしていて、その奥にはぽっかりと闇がひろがっており、どこか薄ら寒いものを感じたが、それゆえに美しかった。ロナルドは吸い寄せられるようにふらりと城に近づいた。

    「こんばんは。良い月夜だね」

     少女は思っていたよりもハスキーな声で言った。夜に似合う、耳に心地よい低音だった。

    「子どもがひとりで出歩いたら危ないよ。こっちにおいで……」

     ロナルドはふらりふらりと吸い寄せられ、いつのまにか開いていた門を通り抜けた。「そちらのほうに庭園があるからそこで待っておいで」と窓から声をかけられ、ロナルドはそれにぎくしゃくとうなずいて、促された方向へと素直に向かった。

     その庭園には大量の向日葵が並んでいた。夜中に見る向日葵は少々不気味で、ロナルドはふと我に返ったが、後ろからふわっと優しい甘い匂いがして、また浮ついた気持ちに戻った。
     振り向くとそこに白い少女がいた。
     ロナルドよりも背が高い。近づいて見た少女はロナルドの兄と同じくらいの年頃――つまりロナルドにとっては大人に見えた。おとなのお姉さんだ、でもお姫様だ、とロナルドはどきどきした。

    「あ、あの」
    「うん?」
    「ひとりで住んでるの? ここ……」

     吸血鬼が出るらしいから危ない、と言おうとした。しかしその前に少女がするりと言葉を発した。

    「ううん。忠実な騎士と一緒に住んでいるんだ」
    「そ、そ、そうなんだ」
    「でも彼は子どもが苦手だから、私とおしゃべりしてくれる?」
    「うっうん」

     ロナルドが顔を真っ赤にして頷くと少女は嬉しそうに笑みを深めた。
     少女の声はどこか冷やかさを含んでいたが、舞い上がったロナルドには気づくことができなかった。少女は庭園を案内しながらロナルドに質問を投げかけ、しどろもどろに答えるロナルドを面白そうに眺めた。あっという間に庭園を一周し終えると少女はロナルドを門の方向へと促した。

    「そろそろお帰り。あまり長居すると気づかれてしまう」
    「あ、あの、昼間もここに来ていい?」
    「私は体が弱いから日差しのあるところには出てこれないんだ」

     少女の口元がまた三日月の形になった。

    「だから夜になったらまた会いに来て。これは、ふたりだけの秘密だよ」

     秘密という甘美な響きにロナルドは一も二もなく頷いた。
     そうしてロナルドと少女の夜の密会は始まった。ロナルドは少女に会うたびに舞い上がってしまって、彼女からの質問に答えるのが精いっぱいで、ロナルドから何かを尋ねることはあまりできなかった。名前すらも聞けず、少女もまた、ロナルドに名前を聞くことはなかった。

     ある時は「きみはとっても勇敢だよね。怖いものって何かあるのかい」「エ!! なっない!!」「そうかぁ、じゃあ強そうだなって思うものは?」「うーん……目からビームとか……」「目からビーム?」と夢のある話題に花を咲かせた。

     またある時はお弁当箱いっぱいに詰められたオムライスを少女から差し出され、「人間の男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」「好き!! あっでも近所のあいつは卵が嫌いって言ってたからみんな好きってわけじゃないかも……」「へぇそうなんだ、個体差があるんだね」「お、俺は好き!!」「うんうん、よかったよ」「お、女の子は何が好きなの」「うん? 個体差があるんだろう?」と夢のようなひと時を過ごした。

     会えば会うほど少女は優しく、親しげになっていった。最初は薄ら寒いと感じた笑みも、段々と温かみのある笑顔になっていき、声色はどんどん甘やかになった。

    「私、人間の子どもと接する機会って今までなかったんだ」
    「そうなんだ……」弟や妹がいないんだな、とロナルドは思った。
    「大人の人間は見たことあるけど大人しい人ばかりであまり興味もそそられなかった。なんでお父様たちは人間に友好的なんだろうって不思議で……でもお父様たちが仲良くしてるんだから仲良くしてあげようって思ってたんだ。けど君と出会って考えを改めたよ。人間って面白いね」

     そう言って少女は優しく微笑んだ。
     ロナルドはもう崖っぷちにいた。ここから落ちるともう人生の大切なものを捧げますよ、というギリギリラインのところに立っていた。
     そこで足踏みしながら夏休みを過ごし、そして、別れの日がやって来た。

    「明日帰る。もうここには来れなくなるんだ……」

     ぼろぼろと泣きながら告げたロナルドに対し少女は冷静だった。そうなんだ、残念だな。少女の声は全く悲しんでおらず、ロナルドの胸にずきりと突き刺さった。

    「顔をあげて」

     ずきずき痛む胸を押さえて、なんでこんなに苦しいんだろうと混乱のままロナルドが顔をあげると、少女の両手がすぅっと近づいてきて、ロナルドの目尻をぬぐった。ひんやりと冷たい手が優しく撫でてくる。

    「ねえ、いつかきっと会いに来てね」

     大きな帽子の下、少女は花のように笑っていた。
     その笑顔はロナルドを崖から突き落としたのだった。


     それから二十年ほど月日が過ぎた。ロナルドは吸血鬼退治人として華々しく活躍し、県をまたいで依頼が来るまでになっていた。「子どもが吸血鬼に攫われた」として持ち込まれた依頼のその場所は埼玉の田舎で、ロナルドは到着するや否や初恋の記憶を思い出した。二十年前の面影を残したその地はロナルドを小学生低学年の頃の気持ちに戻すかのようだった。

    「吸血鬼の城ってあの城かよ! 吸血鬼なんていなかったけど、もしかしてこの二十年で……」

     さっとロナルドの顔が青くなった。あの初恋の少女は無事なのだろうか。今はもう自分と同じ大人だろうが、この大人になるまでの間に、あの病弱な女の子は吸血鬼に住処を奪われて泣いていたのかもしれないのか。
     ロナルドは慌てて依頼人たちと別れ、一人で果敢に吸血鬼の城へ乗り込んでいった。
     少女の名前を呼んで探したいが、少女とは名前も交わさずに別れたのだった。それで代わりに依頼人から聞いた吸血鬼の名前を叫ぶ。

    「おい吸血鬼ドラルク――どこにいやがる!!」
    「砂ァ!」

     バーンっと扉を押し開けると、扉の後ろから子どもの叫び声が聞こえた。……子ども?

    「なんだ!? おい誰かいるのか!? 大丈夫か!?」
    「なんだはこっちのセリフだが!?」

     砂がナスナスといいながら子どもの姿をとった。その異様な光景と、そしてその子どもの姿に、ロナルドはびしりと固まった。ほっそりした頼りない細い体。血色の悪い肌。大きな三白眼。初恋の少女――が、男の子の服装で、そこにいた。大きな白いリボンやフリルはなく、赤く細いひとつのリボンが首元にかけられ、半ズボンからは膝小僧がのぞいている。

    「お、お前……」
    「んっ? 銀髪に青い目……君……」
    「もしかしてあの子の息子……?」
    「は?」
    「なぁ、お前の母親ってお前そっくりか?」
    「いや全然似てないが?」
    「え?」
    「え?」

     そこからお互いの誤解や大爆笑や砂祭り、そして自己紹介などが行われ、ロナルドの初恋は意外な展開に転んでいくことになるのだが、それはロナルド青年の話だ。
     ロナルド少年はそれからもずっと崖から落ちたままでいる。


    ヌン
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