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    エヌ原

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    エヌ原

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    アイドルマスターSideM古論クリスに感情があるモブシリーズおわり

    #vs古論クリスモブ
    vs.OldTheoryChrisMob
    #古論クリス
    oldTheoryChris
    #SideM

    筆頭者の男 私はそのメールを神妙な気持ちで開き、accept、の文字を見て、ほっと一息ついた。投稿してから半年以上、ずいぶん長く待たされた。そのあいだに前期は終わってしまい、私は彼に何の報告もできないままだった。エディターからは翌々月の雑誌に掲載する、という旨が簡潔に書かれていた。私はプアイングリッシュでそれに対する例を書いた。彼のことに触れようかと思ったが私の語学力ではどうにもセンシティブな問題には触れられない。ありきたりのメールを送信し、同時にラボのメーリングリスト(大学というものはいまだにメーリングリストが十分に機能している)に採用の知らせを送った。すると机に置きっぱなしのスマートフォンが学生や院生、助手たちからのLINEでぶるぶる震える。ここ数年でコミュニケーションはだいぶフランクになった。私はそういう距離感は嫌いではない。なにせ船の上で二ヶ月三ヶ月顔を合わせ続けるのだ、しかつめらしい態度をとっていてもしょうがないではないか。
     それからラボにいたメンバーを集めてオレンジジュースで乾杯をした。一歩が小さくとも大きくとも前進したときには祝う、それが私のラボの、いや、この大学のこの分野での風習だ。なにせ相手は自分が立脚している大地あるいはそれを覆いかくす海、人間の微々たる進歩はいちいち喜ばないと覚えていられないのだ。
    「センセー、これ結構デカいニュースですよね」
    「うんまあ、ふつうくらいだとは思うが、小さくはない」
    「記者会見とかするんですか」
    「それはせんだろうな、基礎研究だしな」
    「またそういうこと~」
    「先端のやつらばっかマスコミ呼んでずるいでしょ」
     私は紙コップに残ったオレンジジュースを飲み下して、助手をよびつけ、関係者を集めて慰労会を開くように指示した。急がなくてもよく、場所も居酒屋でもレストランでもどこでもよく、金銭的にはわりとゆとりがあるが、できれば「全員」集まれる日程で。
     助手は少し顔を曇らせて「全員ですか」と言った。
    「確認しますけど、名前がある全員、じゃないですよね」
    「そうだね」
    「事務所通せとか言われねえかなあ。とりあえず学内とJAMSTECのほうはさっと声かけて様子みますよ。あとは……NZのチームは呼ばないですよね?」
    「それは彼以上に難しいだろうね」
    「はは」
     助手は適当に笑って、パソコンの前に戻る。私も机に戻り、学部生のレポートの採点を再開する。といっても自分の書いた本を読ませてそのアブストラクトを書かせる、という内容だから、こちらはほとんど何も考えなくていい。だから私の脳は違うことを考える。
     今回の論文は、幸いほとんど瑕疵がないとみなされたのか、時間はかかったがスムーズにピアレビューを通り抜けてくれた。筆頭者は私だが、着想、構想、実験、結果の図示をやったのは私ではない。さっき話題にのぼった彼の仕事である。
     論文は彼がD3時代から手掛けていた南洋の海底資源調査の総まとめにあたる。もっともそれは彼のメインストリームではなく、手広くやっていたことのひとつに過ぎない。このラボの正規のメンバーではなかったし、彼は所属ということがかなりものをいう世界で、遊軍的な動き方をしていた珍しい研究者だった。もちろんそれが許される背景には、彼の深い洞察と斬新な切り口が、陳腐な言い方だがあった。私は彼の影響を好ましいものだと思ってラボに自由に出入りしてもらったし、実際に実地調査を渋っていた学生が勢い余って遠洋に連れていかれる、ということも何度もあった。研究者かくあるべしとは思わないが、そうあってもいい姿のひとつだったと思う。
     その彼から論文を引き取ってほしいと言われたのが去年の9月だった。すでにその概要をほぼ明らかにしていた論文には、当然私のラボの学生が多くかかわり、私も内容を把握していた。派手さはないが貴重な資料、明晰な分析、処女地に足を踏み入れる論文になるだろうと思っていた。うまくいけば何かの賞に引っかかるかもしれないし、科研費だってとりやすくなるだろう。そう思っていた矢先の、提案だった。
     私は最初、引き取ってほしい、という言葉の意味がわからなかった。論文とは研究者の生き方の証拠である。何を考え、見聞きし、手に取り、理解して、新たな鉱脈を見つけ出したか、それが論文にはかならず記されている。それを「引き取る」というのは、口悪く言えば「横取り」であり、本人公認の「剽窃」ですらあるかもしれなかった。
     ラボのフロアに続く非常階段の踊り場で、彼は私に大学を去る意思があることを告げた。それ自体は薄々感じ取ってはいた。彼はあまりに研究者としての適性がありすぎて、学部の一般教養の講義をうまくこなせずにいた。そしてそれを必要以上に自責していた。私や年のいった教授たちは、1パーセント、1パーセントでも興味を持ってくれる子がいたらいいんだよ、2年後にラボに来てくれる子がいたらいいんだよ、と繰り返し言っていた。そういう意味では彼は教育者としては焦りすぎるところがあったのだろう。だが研究の場に大学を選んだのもまた彼なのだから、導き手としての仕事ははたさねばならなかった。そしてそれができないなら、大学に籍を置くことは、双方に良くないことだった。
     だがしかし、大学から離れたからといって、論文を「引き取ってほしい」と言い出す状況を私は想像できなかった。彼ならば民間でもどこでも引く手あまただろうし、研究は究極を言えばひとりでだって続けられる。それが、学者の魂ともいえる論文を、「引き取ってほしい」、それはどういうことなのか。
     私は彼からわずかずつでも話を聞きだすべく、今日はもう研究はやめて居酒屋に行きましょう、と言った。彼もうなずき、私たちはそれぞれの後始末をして、大学のそばの朝5時まで営業している居酒屋に入った。なぜだかはっきり覚えているが、私はそこで鍛高譚を、彼はコークハイを一杯目に頼んだ。そしてこう言った。
    「それで、どうして論文を諦めるようなことを言うんだ。ここまでやってきたのに」
     私の話の切り出し方は、そうまずいものではなかったと思う。しかし彼は口元に手を当ててうつむき、まるで学生が口頭試問で言葉に詰まったときのような態度で、固まってしまった。
     私は桝に溢れ出た焼酎をすすり、そういえば最近ストレートの焼酎なんかついぞ飲んでいなかったことを思い出しながら、違うアプローチを試してみた。
    「諦めてはいないということかな?」
     返事はすぐに返ってきた。
    「諦めてはいません。あれは価値のある研究です。世に出したい」
     そう言う目は獲物を見つけた肉食獣のように輝いている。研究者の目だと思った。その光をなくして、どこかに文字通り消えてしまう学生や院生、ポスドクたちを私は見送ってきた。
    「ならどうしてそれを、うちに、なんて言うんだ」
     重ねると、彼はまたうつむいてしまった。長い髪が肩から流れ落ちる。この髪は潮で傷まないと、ラボの学生たちがうらやましがっていた。そう思いながら私はちびちびと焼酎をすすってグラスを空け、ジムビームのハイボールとえいひれを頼み、グラスを半分ほど空けた。次のえいひれをつまもうとしたとき、彼の唇が動いた。
    「……研究を、離れようと思っています」
     私が箸を取り落とした音がやけに大きく響いた。慌てて卓の縁で転がる箸を受け止めて、私は彼の顔を見る。
    「ああ、大丈夫ですか。取り換えましょうか」
    「大丈夫だ。それより、離れるというのは」
    「……私は、道を誤ったとは思っていません。学部と院でキャリアを積み、こうしていまも好きな研究を続けられています。また、大学の講義も――これはもしかしたら、悪い噂になっているかもしれませんが、私は好きです。未知の世界を拓く扉になれるのであれば、私はなんでもしたい、そう思って今まで大学に残りました。それを後悔はしていません」
     彼がそう語る口調は、学会発表の時のようなおちついた口ぶりだった。そう、すでに結果がわかっているときの。
    「ですが、……いえ、敗戦の将が多くを語るのはみっともないですね。私が先生に依頼申し上げたいのは、どうかあれを磨き上げて、世に出していただきたい、その一点だけです」
    「私はよくわからんが、学生たちに聞いたところでは、もうほとんど仕上がってるというじゃないか。……その、やめるのは、それを出してからではいけないのか」
     彼は首をゆっくり横に振って、迷いがあってはいけないのです、と言った。
    「研究は迷うべきです。けれど人を導くものが、その手法に疑義をもちながら教えるべきではない。私は迷いのない先生方に教えをいただきここまでこられた。芽を摘んではならないのです」
    「なら、どこかの研究所に行くとか、そういう道があるんじゃないのか、君なら」
     私はハイボールに口をつけてから、もちろん考えているだろうが、と付け足した。彼ははいとうなずき、少し迷ったような様子を見せてから、えいひれをつまんで七味マヨネーズを少しつけ、一口かじった。こくりと嚥下の音がして、彼がまた口を開く。
    「大学を選んだのは、私の愛するものをもっと人々に知ってもらいたかったからです。それが、ここではうまくできなかった。ですが私はそれを諦めたくない」
     そうして彼は私になにかを隠すように、次のことは考えてあるのです、と言い、けれどそこでは研究は今までのように続けられないから、だからあの論文だけは、先生とみなさんにお渡しして、どうか日の目を見させてやってほしい。そう言った。
     その場で私がうなずいたのは、この男が、学部生のころから柔軟に頑固で、一度決めたことを翻すことはほとんどなく、執拗に執拗にアプローチを繰り返して答えにたどり着く、その手管をよく知っていたからにすぎない。
     それから酒の場は具体的な引き継ぎの話になり、私は手帳を取り出して久しぶりにたっぷりノートをとり、彼は新学期の始まる前にほとんど引き上げることで既に話がついていることを明かした。私は相変わらず仕事が早いものだと思い、彼が学生たちにはたしてこのように十分に話ができたかを少し心配した。
     それから半年ほど、彼から連絡はなかった。こちらからも進捗を報告するようなことはしなかった。彼の研究室の学生たちのほとんどを私は受け入れ、ただ一度だけ、私用のアドレスですと渡された連絡先にメールを入れた。彼の名前を、論文に載せるか否か、私は肝心なところを確認しそびれていたのだ。
     メールはめずらしく二日ほど返ってこなかった。急ぐことでもないので放っておいたら、返事がきた。
    〈どうか、私の名前は削ってください。その名誉は未来ある研究者に、学生諸君に与えられるべきです〉
     私はそれを見て、プリントアウトした表書きに朱書きをいれた。筆頭にあった彼の名前に二重線を引き、彼の望むように、若い研究者の名前を二人ほど付け足した。並んだ名前の一番上には私がいた。自分が着想したわけでもない論文なので足の裏がむずがゆくなったが、かといって彼以外のだれもそこにはふさわしくなく、ならば私が引き受けるのが妥当なところだった。
     そして今日、論文は受理され、これから雑誌に載る。ようやく役割を果たしはじめるそこに、やはり彼の名前がないのはおかしいことだと思うが、それが希望なのだからしかたない。
     私は淹れてもらったコーヒーを飲みながらレポートをめくり、指示した通りの体裁でないひどく読みづらいものを老眼鏡を上げ下げしてようやく読み、AだとかDだとか評価をつけて脇に置く。
     と、携帯のアラームが鳴る。画面をタップして耳障りな音を消し、私はテレビをつけて5チャンネルに回す――いやもう回すという言い方は古いな。そこで始まる音楽番組にわたしはまったく詳しくない、出てくる女性アイドルたちは学生以上に見分けがつかないし、私はそもそも音楽にあまり興味がない。アラームをかけてまで見る理由はひとつだけだ。
    「始まりました?」
     院生がおーいと声をかけて、学生たちがぞろぞろテレビの前に集まってくる。助手が遅れてやってきて間に合いましたか?と聞くのでまだ出てきてないよと答える。彼らが誰かの新曲や98年(98年!私はとっくに大学にいた)のヒットチャートに首をかしげるのを見ながら、私は残りのレポートを採点する。
    「あ、センセ、きましたよ」
    「今日はトークねえのか」
    「そういやあのちっちゃい子学生らしいよ」
    「へえ」
     レポート用紙から顔をあげると見知った彼が着飾って立っている。スパンコールを縫い付けられた衣装を着て、それは私が見慣れた姿ではないが、学生たちはとっくに順応して、その、アイドルになった彼を眺めている。私たちは彼の出る番組が決まるたび、こうやって画面ごしにその雄姿を見つめてきた。襟のよれたTシャツ姿でデータを睨んでいた姿とは似てもつかないが、歌う声も、人目を惹く容姿も、間違いなくここにいた彼だ。
     アイドルになった、という話を私は学生から聞いた。ラボに新しく入ってきた学生の同級生がそういった話題に詳しく、ここにいたって本当ですか? 論文とかあったら写真撮ってきてほしいって言われたんですけど、と言われたことでようやく知ったのだ。考えていると言っていた「次」が突拍子もない選択肢であったことに私は面食らい、それからたしかに論文なんぞ書いている暇はないだろうと、桜田淳子や松田聖子、小泉今日子あたりの顔を思い出しながら思ったのだった。
     それからその親切な同級生を経由して彼の活動の様子はわたしの耳に入り続けた。コンサートをやったり、トークショーをやったりという私の想像のつくアイドル活動のほかに、科学未来館や科博でのイベントの司会や、深夜番組での専門領域についてのトークなど、それは彼の外見などに興味を持った若い女性たち(いや、男性もいるのだろうか?)がついていけるのか、多少心配なこともあった。しかし彼の方位磁針はずっと同じ方角を指しているらしい。自分の愛するものをより広く知ってもらうこと。
     彼の出番が終わると、学生たちは三々五々自席に戻る。私は彼らの背中を順繰りに見回す。それぞれテーマを持ち、己の信じた筋をたどり、時に間違え、時に壁にぶつかりながら、突き詰めていく。彼が手放した学究の世界はなるほど地味で、苦労ばかりで、いいことなどほとんどない。けれど彼はそれを否定したわけではない。それは、手渡された論文を見ればわかる。
     と、助手がスマホを確認して、慌てた様子で画面を見せてくる。
    「先生、大変ですよこれ」
    〈おめでとうございます!お祝いの会には是非ともお邪魔させていただきたいと思います。真鯛を仕入れますのでお造りにいたしましょう!〉
    「……うん、これは、出演料とかはいらないのかな」
     私が呟いたひとことで察した学生たちがわっと沸く。色紙買おう、チェキ借りよう、他の二人は来ないよねまさか。
    「いやいや、アイドルとして来るのではないからね、あくまであれは彼の描いた図を、君たちが具現化したから呼ぶのであって」
    「わかってますよ! 写真とかツイッターにあげたりしませんから」
    「いやー特権っすね、つうかあの、論文の話聞いていいですよね。僕次のやつでデータ引用したいとこあるんすよ」
    「それはいいだろう、彼も喜ぶ」
     私は助手に押し付けられたスマホで返信を打ち、ラボ全員が歓迎していること、鯛は小ぶりのものを選んで、ちゃんと市場か魚屋で買うように念押しをした。しばらくして短いながら、承知したこと、密漁は命にかけて一度もしたことがないという返事が来た。さっきの歌番組が終わってまだいくらもたっていないのに、こんなメールにかまけていていいのだろうか。
     私は採点が終わったレポートを脇に寄せて、もう一度製本された論文を手に取った。それから鉛筆で、私の名前の上に彼の名前を書き入れた。それでようやく心の整理がついた。この原本は誰に見せるわけでもない。この研究室にひっそりと保存されていく。本当の著者を隠したまま。それが彼の望みならば、そのままにしよう。我々は別の道をゆくが、それは決して訣別ではない。いつでも遊びにおいで。祝賀会ではそう伝えよう。
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    エヌ原

    DONEアイドルマスターSideM古論クリスに感情があるモブシリーズ4/5
    図書館の女 玄関に山と積まれた新聞の束を回収して、一番最初に開くのはスポーツ新聞だ。うちの館ではニッカンとスポニチをとっている。プロ野球も釣りも競馬も関係ない、後ろから開いて、芸能欄のほんの小さな四角形。そこにあの人はいる。
     最初に出会ったのはこの図書館でだった。私は時給980円で働いている。図書館司書になるためには実務経験が三年必要で、高卒で働いていた書店を思い切ってやめて司書補になり、前より安い給料で派遣として働き始めたのは本をめぐる資本主義に飽き飽きしてしまったからだ。
     べつに司書になったからって明るい未来が約束されているわけではない。いま公共の図書館スタッフはほとんどが今のわたしと同じ派遣で、司書資格があるからといって、いいことといえば時給が20円上がる程度だ。わたしはたまたま大学図書館に派遣されて、そこから2年、働いている。大学図書館というのは普通の図書館とはちょっと違うらしい。ここが一館目のわたしにはよくわからないけれど、まあ当然エプロンシアターとか絵本の選書なんかはないし、代わりに専門書とか外国の学術誌の整理がある。でもそれらの多くは正職員がきめることで、わたしはブックカバーをどれだけ速くかけられるかとか、学生の延滞にたいしてなるべく穏当なメールを書けるかとか、たまにあるレファレンス業務を国会図書館データベースと首ったけでこなすとか、そういうところだけを見られている。わたしもとにかく3年を過ごせればよかった。最初はほんとうにそう思っていた。
    8911

    エヌ原

    DONEアイドルマスターSideM古論クリスへ感情があるモブシリーズ3/5
    大学職員の男 秋は忙しい。学祭があるからでもあるが、うちの大学では建前上は学生が運営しているので、せいぜいセキュリティに口を出す程度でいい。まず九月入学、卒業、編入の手続きがある。それから院試まわりの諸々、教科書販売のテントの手配、それに夏休みボケで学生証をなくしただとか履修登録を忘れただとかいう学生どもの対応、研究にかかりっきりで第一回の講義の準備ができてないから休講にしたいという教授の言い訳、ひたすらどうでもいいことの処理、エトセトラエトセトラ。おれはもちうるかぎりの愛校精神を発揮して手続きにあたるが、古いWindowsはかりかりと音を立てるばかりでちっとも前に進まない。すみませんねえ、今印刷出ますから。言いながらおれは笑顔を浮かべるのにいいかげん飽きている。おまえら、もうガッコ来なくていいよ。そんなにつらいなら。いやなら。おれはそう思いながら学割証明書を発行するためのパスワードを忘れたという学生に、いまだペーパーベースのパスワード再発行申請書を差し出す。本人確認は学生証でするが、受験の時に撮ったらしい詰襟黒髪の証明写真と、目の前でぐちぐち言いながらきたねえ字で名前を書いているピンク頭が同一人物かどうかはおれにはわからん。
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