🔮と🐏の逃避行 (浮奇視点のお話)ep.6
「おやすみ、ふーふーちゃん」
自分を置いてあっという間に眠りについた隣の男の寝顔を眺めて呟いた。
彼は眠気にめっぽう弱いようで、ビジネスホテルについてからはどこかぼんやりとしたまま過ごしていたFulgerを浮奇は回想する。
ホテル前で買っておいた替えの下着と薄い生地のTシャツを手渡すと半ば閉じかけている目を擦りながら下着だけとってシャワーを浴びて出てきた。俺が先にシャワーを浴びさせて貰ったので着替えたあとに洗面所でスキンケアをしたいたら
途中ごっ と鈍い音が浴室から響いて来たので驚いてつい浴室のドアを開けて中を覗いてしまった。
綺麗な赤と銀と肌色で構成された男が湯けむりの中、前屈みになって鏡に頭をつけながらシャワーを浴びていた。
片手に泡立てネットを持っているが両の手はだらんと下げられていたので大丈夫かと聞くと
普段の声からは想像できないほどふにゃふにゃとした声で大丈夫だと返って来る。
体を洗おうとしたら体がふらついたので頭を鏡につけて安定させようとしたがうまくいかなかったらしい。
存外子供らしい事をするかれを可愛いとおもってしまう。
どこか怪我したら危ないと思って早めに出るように言ってそのあとはしばらくは心配で彼に引っ付いていた。
いつもなら多少邪魔なそぶりを見せるが今回はその思考すら浮かばなかったのか俺がやる事を好きにさせてくれていたので、ふーふーちゃんが浴室から出てきて髪を乾かしている時もほとんど目を閉じながら歯磨きをしている時もおれは彼の背中にピッタリとくっついていた。
それでも時たま悪態をつこうとして何やらもごもご言っていたが言葉が結ばれる事無く全て眠そうなあくびに消えていっていた。
「あーもう、はなれろって、これじゃあ俺が...ふあぁ」
のような調子である。
しまいには髪を乾かしながら首をガクッとおって眠ってしまったので後ろから鏡越しのふーふーちゃんを堪能していた自分はびっくりして思わず彼の肩に載せていた頭を勢いよくあげてしまった。
船を漕いでいたから肩の上にあったふーふーちゃんの頭を俺の頭が直撃したがそれでも彼は寝息を立てていたので仕方なく前に回って代わりに髪の毛を乾かしてあげる。
ある程度終わったところで悪戯心から耳の上の毛を編み込みにしてあげようと思ったが髪質がサラサラすぎて難しかったので諦めた。
持っていたドライヤーを彼の赤い腕に握らせて、自分は後ろに周り肩に改めて頭を置いて耳元で名前を呼ぶ。反応がないので、浮奇がちょっと大袈裟に耳に息を吹き込んだらFulgerはわっと声を上げて目を開けた。
しばらく状況が把握できてないように目を瞬かせ、自身の手にあるドライヤーと乾いている銀の髪を見る。
俺は何も言わずに鏡越しにふーふーちゃんの顔を見てニコニコと笑っている。
彼は自分が自分の髪を乾かした後に寝落ちたのだろうと結論づけたようだった。
その後の歯磨きでも途中寝かけたのでさすがに危ないと思い途中からベッドに座らせて磨かせる。
幼子の様なその姿に普段の彼とのギャップを感じ、その姿を自分が見れたことに嬉しくなった。
その上風呂上がりでしっとりとした彼の肌と柔らかな銀糸を堪能できたので俺自身は大変満足だった。
うがいを済ませた彼の背中にピッタリくっつきながら、歩きにそうにベッドまで進む彼について行く。
途中で楽しくなって脇を擽ってみたら苦手なのか飛び上がってそのままベットに倒れこんでしまった。コアラの様に後ろに引っ付いていた俺も一緒に倒れて、2人でケラケラと笑う。
パジャマ着ないの?と聞いたら「良い夢を」と返されてしまった。
きっと何を言ったのか聞こえてなかったのだろう。
ふーふーちゃんはそのまま眠りについたので俺が布団をかけてあげる。本来ベッドは2つあったがひとつがセミダブルぐらいだったので一緒に寝てしまおうと思っていそいそと潜り込む。彼は左側を下にして寝ているので俺には背中が向けられていた。遠慮なく彼の背中に抱きついて眠る。
結構な至近距離だったが彼の冷たい金属の腕が蒸し暑くなってきた夏の夜にちょうどよかった。
翌朝、起き上がると隣に彼の姿がなくて慌てて部屋の中を探した。でもすぐに彼のちょっと崩された細い字で書かれたメモを見つけて安堵の息を吐く。
軽く日焼け止めを塗って髪をセットし、ウインドブレーカーを着て部屋を後にする。
海に面した狭い町だから上から探せば見つかるだろうと思って高台にある途切れた道路の上に腰を下ろす。
もうすぐ夜が明けようとしていた。
だれか知らない人が考えた劇を、みているような気分だった。
自分とFulgerが共に逃げている、何から逃げているかは分からないがとにかく目的を共にして一緒に知らない世界に飛び込もうとしている今があまりに非現実すぎて
ハリボテの舞台装置の中で必死に役を演じる自分たちの姿が浮かんできた。
実際は操り師も用意された舞台も存在しないが。
自分の髪の毛より柔らかい色の紫と灰色の空の変遷を眺めながら考えに沈む。
頭の中には目の前のお手本のような日の出よりも一昨日自分が行った事で占められていた。
軽くネットをさらったがそれらしいニュースは見つからず、ひとまず安心して画面を落とす。
この場合俺の罪は殺人罪と死体遺棄、障害致死あたりだろうが、ふーふーちゃんは狭義の共犯と教唆、 幇助行為の罪にとわれるのだろうか。
法律でも俺と関連付けられているふーふーちゃんが可哀想でたまらなく愛おしい。
そもそも俺の幸せを壊そうとするからこの世界から退場させられたのだ、と自身が手にかけたクラスメイトの顔を思い浮かべる。
彼の実家が公務員のお堅い家系で、もうすぐ他国に転勤するらしいということは噂話で知っていた。
と言っても部活の奴が嬉しそうに言っていたことを小耳に挟んだだけだったが、いじめっ子で噂好きな彼はペラペラと細かいことまで話してくれていた。
彼はよくそのクラスメイトを虐めていたため色々と件のクラスメイトには詳しい。
ずっと彼を泥棒と呼んで何かにつけて仲間はずれにしたりものを隠したりと幼稚なことをやっていた。なんでその呼び名がついたかは知らないが、大方鈍臭い彼がせっかちな彼らの逆鱗に触れることをしたのだろう。
浮奇は泥棒くんとの交流は無しに等しかったがFulgerがかれを何かと気にかけていたから嫌でも顔を合わせる回数は多かった。
Fulgerの様に「優しい」人は泥棒くんのような人を放っておけ無かったのだろう。途中からその泥棒くんがふーふーちゃんをそっちの意味で好きになっていたことも気づいていた。
だけど浮奇は自分の方が気に入られていることを自覚していたからモヤモヤとはしたが敵視はしていなかった。眼中になかったというのが正しいか。
しかし2日前のあの日、浮奇のそのもやもやははっきりとした殺意に変わった。
まず部活がいつもより遅く終わったので
待たせてしまっているだろうFulgerを迎えに図書館に行ったらそこに彼の姿が無かった。
慌てて図書館の利用者リストを確認すると確かにそこに名前はあったが当の彼はいつもいる城に居ない。
最近彼が借りていた本のタイトルを必死に思い出して図書館のPCを勝手に拝借し、貸出者名簿を呼び出す。
パスワードは事前に手に入れていたので問題なく閲覧出来た。
1番下、直近の所に愛しのFulgerの名前があった。貸出は今日の16:30に行われていたので少なくとも40分前は彼は図書館にいた事がわかる。教室かなと思いながら何気なく同系統の書籍のリストに目を走らせていると
予約者リストにまたFulgerの名前が載っていた。
話の種にしようとタイトルを確認すると現在貸出中の人の欄にあの泥棒くんの名前が見えた。
言葉にできない不快感が背中を這い上がって行った。
なんで彼が借りたいと思っている本を先に借りているのか、元々彼は頭があまり良くないからこんな難解な本は好んで読むとは思えない。
となると目的はふーふーちゃんと仲良くなるためだろう。
あいつは、俺のふーふーちゃんに何をしようとしているんだろう?
ただ可哀想だからって共感してもらって、彼の意識を少しでも割いてもらったからって何を付け上がっているんだろう?
浮奇はその整った顔を憤怒に染め上げて足跡荒く教室を目指した。
あいつがいつも放課後に残ってふーふーちゃんの机の上で勝手に自習しているのを知っていたからだ。
まだそれだけなら許してあげれなくも無いと思っていたが、これ以上線を越えようとするなら野放しにしておく訳には行かない。
俺が彼に気持ちを伝える前に泥棒くんというしこりができてしまうのは好ましくない。排除しないと。
階段よりもエレベーターのが早いのでちょうどよく来ていたものに乗り込んだが途中でカウンセラーのshu先生が重そうなテレビを持ってのりこんできたので、スペースを譲って途中から階段で上がった。
俺たちの教室が見えてきた時にFulgerの話声が聞こえた。思わず踊り場で足を止めて様子を伺う。
傘立ての前でふたりが顔を近づけて話しているのが見えた。
何やらふーふーちゃんが壁際に追いやられている。
何してる
俺のFulgerに誰の許可をとって彼に触っているんだ
その手を離せ。今すぐだ。
激情が頭の中を巡っていた。体温が上昇しているのを感じる。ためらわずに踊り場に設置された火災報知器を押す。
けたたましいサイレンがなって追い詰められたふーふーちゃんが逃げて走り出したのが見えた。
先生方が何事かと慌てているのが階下から聞こえる。
俺は妙にさえた頭を抱えてそのまま階段を登りきって教室の前で呆然としている泥棒に声をかける。
元々馬鹿なやつなので今見た事を親に話す、と脅すとあっさり俺のあとについてきた。
時代は多様化しているがやはり公務員の親から産まれると思考も固いまま成長してしまうんだな、と脳内で蔑む。
さてどうやってこの不届き者を舞台から引きずり落とそう。
一切の足がつかない方法でなくてもいいだろう。
どうせ真犯人は見つけられっこない。
ひとまず校舎裏の元焼却場に連れていく。
彼は怯えながらも黙って着いてきていたが、行く先を察すると彼の顔から血の気がひいて言った。
泥棒くんがよく殴られていた場所だから彼にも馴染み深くていいだろう。
頭の中で昔教わったいくつか殺し方を思い出す。今の体格で1番効果的な方法を吟味しつつ周りを見渡して手頃なえものを探した。
ここはよく不良が集まって昼を食べているからあちこちにコンビニの袋が落ちていた。後ろを振り返ると泥棒くんが目をつぶってその場でブルブル震えているのが見えた。おそらく暴力を振るわれている時の抵抗は逆効果だと知っているのだろう。
浮奇は思わず白い歯を見せて笑ってしまった。
そんな殴られ慣れている男がどうやってふーふーちゃんを満足させるんだろう。
こんな奴は精々同情を買って終わりだろうと思い浮奇の中の敵を排除する気持ちは消えていた。敵として認めるのも躊躇われる程度の生き物だった。
しかし泥棒くんが犯した罪は彼にしっかり償ってもらう必要があった。
近くに落ちていた1枚の袋を手に取ってゆっくりと彼に近づく。
地面をふみしめる音に反応したのか泥棒くんは音がなりそうな程強く目を閉じ直した。
「目を開けてよ、殴ったりなんてしないよ」
聞いた人に安心感を与えるであろう声で呼びかける。自分の声は大人数で騒いでる時には聞こえにくいが1:1の時は驚く程影響力を持つ事を浮奇は知っていた。
泥棒くんがおそるおそる目を開ける。
「タオル持ってたりする?さっき傘触って濡れちゃったんだ」
憐れな獲物は恐る恐ると言った様子でポケットに手をのばしてそこをまさぐった。
しばらくするとタオルが2枚出てきた。
そのうちの右側に持たれた1枚に見覚えがあったから浮奇の内心はまた波立った。
「ねえ、なんでお前がふーふーちゃんのタオル持ってるの?」
声が低くなりすぎないように、なんでもないことのように聞く。
泥棒猫は置かれた状況を忘れたのか急に顔を染めて
Fulgerが怪我をした彼にタオルを貸したことを説明し始めた。
浮奇は自分の中に渦巻く怒りの感情を自覚しつつも至極落ち着いていた。
ゆっくりと獲物の方に歩を進めていく。
夢見がちな表情でタオルの思い出を話す奴は動き出した浮奇に気づかない。
そのまま彼の左手からFulgerのものでは無い方を奪って何も察せない馬鹿の口に詰めこんだ。
瞬き1秒に満たない時間で浮奇はその頭にビニールを被せて流れるように首を締める。
"それ"は助けを求めるように両手を前に出したが宙を虚しくかくだけで、しばらくすると力が抜けて手はだらんとあるべき場所に戻って行った。
素早く右手に握られていたFulgerのタオルを回収する。
汚れがつかないようにポケットに丁寧にしまった。
ビニール袋の取っ手部分を動かな書くなった"それ"の首でちょうちょ結びをし、重たい"それ"を引き摺って壁際に進む。
壁から1m離れた所に立たせた状態で顔を正面に向けさせる。
首のちょうちょ結びに指をひっかけて様子を見て見たら"それ"はまだ僅かに痙攣していたので指を離すとその物体は重力に従って壁に激突しにいった。
泥棒くんだったものは手を伸ばして壁と顔の衝突を避けることなんて出来ないから、ぐちゃりと音がして彼の顔が壁に削られていく音が聞こえる。
なんどかちょうちょ結びに指を入れては離すを繰り返しているとそれはピクリともしなくなった。
雨が早速壁の血を流してくれているのを確認して浮奇はスマホから電話をかけた。
そこまで回想すると後ろから微かな金属のかすれる音が聞こえた。
俺が愛おしいと思える唯一の金属音。
無意識に閉じていた目を開けると眼前に色が濃い空が広がっていた。
ふーふーちゃんならもっとマシな表現するんだろうけど俺には色が濃い以上の感想が出てこないし、どちらかというと夕暮れの方が好きだ。
ゆっくりと彼の方に顔を向ける。
彼のその美しい灰色の瞳に朝焼けが映っていて
まるで世界の始まりのような美しさを含んでいた。
2人でならんでそのまま空を眺めた。
彼が急に俺のスマホのキーボードの設定にイチャモンを付け始めたのであとで見せようと思っていたホーム画面とロック画面を見せるのはやめておこうと思い直す。どっちも昨日のお気に入りの彼で埋まっていたのでかれが写真に慣れた頃に見せようと頭に書き留める。
2人で朝ごはんを食べて海で遊んだ。
赤い彼の手足は青い海と朝焼けの空によく映えていて、優秀な完全防水の仕様に心から感謝した。
歌いながら貝を探していた時、彼が俺の目の色みたいと言って桜貝を見せてきた。俺は人と色が違う上に左右で色を揃えることも出来ない自分の目が嫌いだったが彼の目にそう写っているのなら好きになれそうだった。
こっちも彼に似た可愛い貝を見つけたので渡したら彼は大仰でかしこまった言葉で、さらに不思議な節をつけて挨拶をするものだから思わず吹き出してしまった。
俺につられて笑うふーふーちゃんの笑い声がまた面白くてさらに笑う。
そのあとはひたすら電車に乗った。
海に行ったなら山にも行きたいという理由で選んだがかなりの距離があって午前中は主に電車移動で潰れてしまった。
どの電車も平日なので人が少なく、俺は堂々とふーふーちゃんの肩に頭を預けて朝の疲労を回復する。
途中目を開けると彼も俺の頭の上に頭を預けていて、あまりも可愛かったものだから向かいの座席に映る俺たちを撮ってしまった。
この旅は沢山の写真が撮れる。
途中の駅で俺がパフェを食べていると
向かいに座ったふーふーちゃんがパフェにささったプレッツェルを二枚とって目の辺りに持って行き、真顔で
「パンダ」と言うもんだから腹筋が捩れるんじゃないかって位笑ってしまった。そのままプレッツェルを口に入れて紅茶で流し混んでるのを見て余計に可笑しくなる。
俺がパフェを食べるのが遅いからかふーふーちゃんは紅茶だけでは足りなかったようでそのまま屋台にたこ焼きを買いに行った。
戻ってきた彼はお兄さんかっこいいからオマケね、と3個もおまけしてもらった事を嬉しそうに俺に話した。
彼のかっこよさなら屋台丸ごとあげても足りないだろうと思いながらも嬉しそうな彼にこっちまで嬉しくなって思わず笑顔の彼を写真に収めた。
Fulgerは一瞬怪訝そうな顔をしていたがすぐにたこ焼きに興味を戻してはふはふと食べ始めた。
2回目の乗り換えではゲームセンターに寄った。
ステップでスコアを稼ぐタイプの音ゲーと太鼓の音ゲーを楽しむ。前者に関しては俺は全くの初心者だったので軽々とこなすふーふーちゃんがいつもよりかっこよく見えた。
太鼓を口ずさみながらやっているとふーふーちゃんが歌声を褒めてくれた。俺がふーふーちゃんの方が上手だよ、と本心を言ってみたが彼は笑って流してしまった。
そのまま2人でプリクラを撮った。今度はふーふーちゃんが初心者だったようであたふたしながら指示に従う彼とそれをみて爆笑する俺、の構図がコマ撮りのように微妙な変化で4枚並ぶことになった。
クレーンゲームをした。羊の人形 金属のうでとふわふわの🐑
この旅はいつもより沢山表情筋を使う。
そのまま最終の観光地の駅で降りて商店街を練り歩く。
自然豊かなその土地で取れる特産物をふんだんに使った料理やお菓子が沢山あり、店子の人が気さくなこともあって商店街を抜ける頃にはお腹がふくれるくらい沢山の試供品を頂いてしまった。
そのまま蕎麦屋さんに入ってザルそばととろろ牛肉そばを食べる。
後者がふーふーちゃんだったが食べにくそうなトッピングも気にせずに綺麗な所作で食べていた。
お店のおばさんが美味しいアイスクリームの話を教えてくれたのでそばの後はアイスクリームを食べることになった。Fulgerがいかにもないい子なので色んな人に声を掛けてもらっているので浮奇もこの一日だけで知らない人と会話することへの抵抗が薄くなっていた。
アイスクリームは都会の半分の値段で倍の量が出てきただけでも嬉しい誤算だったが、抹茶味とわさび味をFulgerが間違えた時にはその日一番の声量で笑った。
注文時に確認せずにショーケースの緑色のアイスをさしてこれでお願いします、ってクールにいった彼の顔を思い出すだけで小一時間は幸せな気持ちになれる。
そのあとハイキングに向かおうと山の下でコースを確認していると、ふーふーちゃんが恥ずかしそうに声をかけてきた。
「申し訳ないんだが浮奇、俺はハイキングというものを体験したことが無いんだ」という彼を見て俺は嬉しそうな顔をしすぎていなかったか不安になる。
彼の初めての経験が俺との思い出になる事がこれ以上なく幸福だった。
彼はバツが悪そうに、家族で出かけたことが無いこと、もし嫌だったら浮奇だけでも上級者コースに行ってくれてもいいと告げる彼の言葉を遮って初心者コースを選ぶ。
ハイキングで有名な山だが、上級者向けは軽い登山なので早めに変更しておいて良かったな、途中で座りこんでしまったふーふーちゃんを見て思う。
彼は本来運動音痴では無いはずだが、ココ最近の運動不足が祟ってかなり消耗していた。考えて見れば夜明け前からぶっ通しで遊んでいたのでここまで歩けていること自体がびっくりでもある。
休憩所でお団子を食べておしゃべりをして体しばし休ませた。