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    side_Is_8

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    side_Is_8

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    黒猫・白猫どこを歩いていても
    誰と話していても
    視界隅々まで映え、耳は万人を追う。
    立っているだけで仕事になる。
    この技術と情報が金に変えられることを、猿飛あやめは知っている。

    人と話す時、揺れる目線に気がつくのは同業だけだ。
    「疲れてんじゃない?職業病、ばれちゃうわよ?」
    幼馴染は視線をくれもせずに笑う。

    「あんたは忙殺されてると落ち着くタイプなのかしら」

    殺されるほど、忙しい
    ということはない。
    手足も頭も癖で動いてしまうので日々無駄な感情に独占されることがない。しかしポーカーフェイスで武装しているわけではない。

    どこまでも忍なので

    感情が優先しようが手足は動く。

    「あんたは場合によっては頭より無慈悲かもね」
    「あいつと私はタイプが違うの」
    「言われてみたらそうかも」
    脇カオルは明日の発注のためにショーケースの花たちと相談をしている。

    「あたしはどっちタイプかしら」
    「脇カオルタイプ」
    「なあに?それ」
    脇は楽しそうにくすくす笑う。
    脇は脇で納得しているはずで、忍と呼ばれるものたち個々全て、そのはずなのだ。
    だから、
    猫なのだと。


    花屋に訪れたこの一瞬で多くの情報を誰にも知られることなく共有してきた脇は
    一度も猿飛と目を合わせることなく、接客に向かった。

    忍にはクライアントがつく。
    同郷の忍であっても異なるクライアントのもとで仕事をすれば、それは敵同士となることがある。
    しかし所詮、仕事は仕事。
    いざ仕事中に鉢合わせてしまったとしても、お互いに無害な情報であれば交換をし解散することもある。とはいえ、縄張りの探り合いには神経を尖らせざるを得ない。分が悪い相手、というものがあるのだ。時には「予感」という天性のものが基準になる。


    枯れそうな植木について延々アドバイスを求められ続けていた脇がようやく解放されると
    猿飛は一言礼を言った。
    「まるで生まれた時から花屋みたい」

    「当然よ」

    「この世界、本業、だなんて言葉は通用しないでしょ?」






    ➖➖➖


    「情弱」
    「盗み聞きは良くねえぞ」

    「なにものよ その白猫ちゃんは」
    「世話になってる近所の爺さんの黒い猫がいなくなった旨、相談してた。この方は今しがた初めて顔あわせた猫さんだよ」

    「通じるの」
    「らしいぜ。猫には猫の連絡網がある」

    「言っとくけど。」
    かぶりをふる
    「情弱、ではねえよ。気まぐれなの。俺も猫ちゃんだって言ったろ」
    「こんな世の中で気ままに猫ちゃんやってられるのはあんたぐらいよ」
    「ほう 棘がある言い方だな」
    のらりくらりと返事をする服部全蔵はもう今日は完全に店じまいの様子である。

    「そのご近所さんと将棋さすとき、わざと負けてるでしょ」
    「そんなとこまで見てなくて良いぜ」
    「あんたについてのことは、なるべく、知らないことがないようにしておきたいの」

    まってましたとばかりにケラケラ笑う。
    猿飛が素直に手の内を明かす時、それが気まぐれではないことを全蔵は知っている。

    「まあ、やましいことがあったらこんな街中に堂々と構えて暮らしてねえけどな」
    「やましいことは私にも見えないところでやってるからでしょ」
    「お互い様だろ。猫ちゃんなんだから」

    「まじいな。今日は切り上げだ。呼び出されてる」
    「やましい仕事?」
    「聞くだけ無駄だね。お前は”飼い猫”だ」
    「感情はあるのよ」
    「感情があるのによく言うことを聞く猫ってのはレアだろ」

    縛られる身にもなってみろ
    彼は幼い頃、夢中で我が身を縛り上げる猿飛に渋々言った。

    たまには縛られる側の気持ちにもなりなさい。
    捨て台詞は飲み込む。

    具体的な単語を出さずとも、会話も情報交換も成り立ってしまう。これも職業病である。私情をチラつかせることさえもブラフであるとき、そういう様が哀れであるのだと猫たちは滑稽に頷き、我が身を嗤う。

    「・・・全部この猫ちゃんに聞かれちまったじゃねえか」
    「こんな猫ちゃん猫ちゃんしか言ってない会話、猫ちゃんに理解できるわけないでしょ」

    猫は知らぬ顔であくびをしている。

    「おい猫、寝ぼけてんな。マフィアの娘の結婚話はおじゃんだぜ」
    「やましいじゃない」
    「おじゃんになっちまったからもうやましくねえのよ」

    どうやら、嫌な鉢合わせを回避したらしい。直感が猿飛に囁く。


    どこいったかね。黒は。
    全蔵はごろごろ言う白を撫でる。

    あまりに平凡な画で、肩の力が抜ける。

    「猫もだろうけど、鳩も使いこなすとすごいらしいわ。ネット通信より強靭だって」
    「なに。北のほうの話してんの?知らねえよああいうドーピング集団の話は」
    「ジョン・ウィックでモーフィアスが言ってたわ」
    「ジョン・ウィックにモーフィアスは出ねえだろうがよ」

    「そういえば俺になんか用?」
    「・・・特になし」
    「ああ、道端で黒いの見つけたら、はやく爺の家に帰れって言っといてくれ」
    「猫ちゃんの連絡網に私を入れんじゃないわよ」
    「じゃよろしく」

    全蔵が悠々と去った後も白猫は素直に「撫でろ」と直訴した。
    さらに肩の力が抜ける。

    「あんた、かわいいじゃない」


    翌朝、連絡網は正常に機能した。
    黒猫は無事、家に戻ったとのことだった。

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