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    うさぺろP

    @pinefriendyuu

    hrak 切爆 / 爆切
    うさぺろの妄想の吐き出し口です🐰
    話によって左右が違うのでキャプション注意⚠️
    リアクションありがとうございます😢♡

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    うさぺろP

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    夏の終わりが寂しくなった切島の話。
    大人なってから付き合う二人もいい。
    私が海が好きなので、二人を海に連れて行きがち…😙

    #爆切
    BakuKiri
    #hrak腐

    【爆切】ブルーモーメントの追憶「海に行きてぇ。」
    なんの脈絡もなく、ため息を吐くように低く掠れた声で、切島が呟いた。
    晩夏の候、蝉の声が鈴虫の声に変わった、涼しげな風が吹く夜のことだった。



    ブルーモーメントの追憶


    ザザァ…と音を立てて、足元に白波が寄せる。
    その合間にザク、ザク、と細やかな砂を踏み締めて歩く音が響かせながら、夕日に照らされたひとけのない砂浜に足跡を残した。

    「海、綺麗だな。」

    振り返って柔く微笑んだ口元から鋭い歯を覗かせる切島に、勝己は相槌を打つ。
    そうしてまた、夢遊病のようにあてもなくふらりと歩き出した切島の後ろをついてしばらく浜辺を歩いた。
    自然の音に耳を傾ける穏やかな時間が、日々の激務で疲れ切った心身を癒していく。人間、たまには何も考えず、時間に囚われず、適当に過ごすブレーキの“あそび“のような部分が必要なのだと、ようやくこの歳になって理解した。
    ——まぁ、何も言わずに前を見てただただ歩く切島は、今この瞬間をどう捉えているのか分からないが。
    そのまま浜辺の端まで来ると、開けた岩場に出た。

    「ちょっと休憩しようぜ。」

    そう言って切島は「どっこいしょ」とおっさんくさい掛け声をしながら岩場の一角に腰を落とした。そして、ここに座れと隣の空いたスペースをぽんぽんと叩く。
    勝己は促されるがまま大人しく隣に腰掛けながら、昔はこんな目的のない時間なんて、それどころか前を歩かれるだけで苛立ってしょうがなかったのにな、なんてどこか他人事のように考えた。

    とりとめのないことをぽつりぽつりと話す夕焼けに照らされた切島は、燃えるような色をした髪、何年経っても変わらない童顔、そして分厚い筋肉を纏った体をした、見慣れた暑苦しい姿だ。
    …なのに、ぼんやりと見つめるその姿が、まるで華奢で今にも泡になって消えてしまいそうな、夢幻の人魚がそこにいるような心地がした。
    幾分涼しい海風に吹かれる中、その熱い体温を確かめたくなって、わざと肩をぶつけるように座り直す。
    布越しに伝わる体温に安心して、それでもまだどこか息が苦しくて、波の向こう、果てしなく広がる水平線へ目を向ける。そして、底が透けて見えるほどの透明度の高い海を見つめた。

    夏の終わりの海は、水温の低下と北西風の影響で夏に溜まった濁りが解消され、深層のきれいな海水が流れ込むため、透明度が向上する。
    だが、目の前に存在している膨大な量の水が澄み切って見えるのは、そんな科学的で論理的な理由だけではない気がした。

    「もう、9年か—...」

    感慨深そうに呟かれた言葉が沁みる。
    あの学舎を卒業してから、もう9年が経つ。
    隣にいる男は、変わった。
    昔はもっと落ち着きがなくて、何度怒鳴っても馬鹿みたいに話しかけてきて、ガキ臭くて、一つの目標に対してがむしゃらに突っ走っていくタイプで、周りが見えなくて、なんと言っても暑苦しかった。そして、“シアン“なんて言って思い悩むことはあっても、こんな危うくて儚い雰囲気を纏うことなんてなかった。
    いや、隣にいる男は、変わらない。
    今も“漢気“とやらを信条に掲げ、どんなときも絶対に倒れず、人々を守るために一直線に前を見据えて走り続けている、熱いヒーローのままだ。切島鋭児郎の根っこの部分は、今も変わらず深く地面に根付いている。
    自覚はないが、きっと俺もこいつと同じで、変わったことも変わっていないこともあるのだろう。
    しかし確実に前へ進んでいることだけは確かだ。
    惹かれ合う磁石のようにずっと隣にいた学生時代、遠く離れた土地でそれぞれの目標に向かって邁進していたSK時代、独立して再び隣に立つようになったプロヒーローの今。この9年、俺たちはさまざまな時を刻んできた。
    …今も昔も、どの記憶を辿ったとしても、こいつが俺の唯一無二であることは間違いない。

    「こんなに長い間隣にいるのに、海、一緒に来たことねぇなって思ってよ。」

    確かに言われてみると、切島と一緒に海に来た記憶はない。高校時代にプールには一度行ったような気がするが、なんせ通常ではあり得ないほど濃い時間を勝己達は雄英で過ごした。一般的な高校生の遊びの類いをする余裕なんてほとんどなかったし、卒業後も然り、だ。

    「俺、海好きなんだ。…なぁ、夏の終わりってさ、寂しくならねぇ?」
    「ならねぇ。」

    また、脈絡なく放たれた言葉に、すぐに短く返事をする。
    切島は俺の返事なんて分かりきっていたのだろう、驚くことも悲しむこともせず、「そっかー」とカラカラと笑った。
    …この男はこう見えて、感受性が豊かだ。
    人の些細な気持ちの変化も敏感に感じ取り、優しく、強く、寄り添うことができる。
    それは天性のものに加えて、逃げずに自分と向き合い、己の弱さを飲み込んで乗り越えてきたからこそのものなんだろうと、勝己は勝手に思っている。
    そして、切島が受け取るのは人の思いだけではない。取り巻く全てのものに心を寄せ、そして砕く。俺にとってはどうでもいいことでも、こいつにとってはどうでもいいことではないらしい。そうやってこいつは、個性とは真逆の柔らかい心を痛めるのだ。

    「俺は、なるんだ。生まれてこの方、一度も夏が来なかった年なんてねぇのにさ、…もう二度と、夏が来ねぇような気がすんだよ。どうせ寒くなったと思ったらあっという間に冬が来て、桜が咲いて春になって、また気付いたときには嫌になるくらい暑い夏が来るのに、な。変だよな、…寂しい、なんて。」

    切島がこつん、こつん、と履き古したスニーカーの踵を岩に当て、砂を落とす。
    勝己はそれを見て、いつの間に自分が俯いていたのか不思議に思った。顔を上げると、切島は深い藍色になった海とブルーモーメントへと変わった空の狭間を真っ直ぐ見据えていた。
    もう夕日はほとんど海の中へ落ちていて、深い青色に染まっている。

    「夏に特別なことがあるわけじゃねぇ。まぁ、寒いのよりは暑い方が得意だけど、他の季節と同じようなことを繰り返してるだけなんだ。それなのに、夏だけ。俺はこの夏、何ができただろう、何かもっとできたんじゃねえか、もう終わっちまう、終わってほしくねぇって、どこか焦っちまう。…はは、自分でも何言ってるか分かんねぇ。わりぃ。」

    ここまで付いて来てもらっといてごめん、と薄く笑った切島の表情は、珍しく下されたままの長い髪のせいでよく見えなかった。

    「…この先何度夏が来ても、“同じ夏“は二度と無ェ。」

    出会ってから初めて一緒に過ごしたあの夏も、こうして海を眺めるこの夏も。
    夏がまた巡ってきても、“同じ夏”を繰り返すことはない。
    勝己は、切島の顔にかかる赤髪に手を伸ばした。
    そのまま横髪を梳くと、ぴくり、と肩が跳ねて、指の間からさらさらと流れ落ちていった。
    あんなに毎日ワックスでガチガチに固めてカラーシャンプーでガシガシ洗っているくせに、なぜこいつの髪がこんなに指通りがいいのか分からない。
    そのまま何度か髪を梳いて、今度は横髪を掬いまるっこい耳にかけてやった。すると真っ赤なままの髪の向こうから、これまた真っ赤な耳が現れる。

    「“この夏“だって、これっきりだ。だから、別に…そういうのも…まぁ、いんじゃねえの」

    切島はふい、と勝己とは反対方向に顔を背け、「…うん」と小さく頷いた。やっと見えた大きな目は少し伏せられて、波の反射で光が散り潤んでいるように見える。

    …仕事帰りにアポ無しで家にやってきて、『海に行きたい』なんて言い出したときから。
    普段の熱を体の奥に押し込めたかのようにひたすらに静かな切島を見て、きっとまた何かを“シアン“しているのだろうことはすぐに分かった。そして、かなり限界まで煮詰まっているのだろうことも。

    その原因が勝己にとってどうでもいいちっぽけなことだとしても、決して無碍にはしたくなかった。
    夏が終わるのが寂しいとか、寂しくないとか、正直今までの人生で一度も考えたことはない。
    しかし、その代わりに唐突な、誘いとも言えない独り言のようなそれに頷き、やっとのことでもぎ取った休日に愛車で迎えに行き、助手席に乗せて冷えたコーヒーを手渡し、好きでもない海の浜辺でふらふらと歩く後ろを黙って追いかけるくらいには、この男は大切だった。

    切島が決して弱い人間ではないことは、よく分かっている。
    だが、それとこれとは違うのだ。
    こいつがまたバカみたいに明るい笑顔で笑えるなら、なんだってできる気がした。

    「じゃあ、さ。」

    ぱっと切島が立ち上がり、いまだ座ったままの俺に手を伸ばす。
    それが幼かったあの頃の姿に重なって、懐かしい。ぐっと力を込めてその手を握りしめ、立ち上がる。しかし、切島はその手を離すことなく、引き止めるようにもう一度握ってきた。
    今度は指を絡めて、柔く。

    「一度しかない“この夏“が終わる前に、思い出作らせてくんねぇ?」
    「…んだよ」
    「俺、爆豪が好きだ。」

    紡がれた言葉に勝己は僅かに目を見開いて、切島の瞳を真っ直ぐ見つめる。
    苺を煮詰めたような濃い赤色の瞳には、やはり波の煌めきが反射していて、打ち寄せるたびにちらちらと光っていた。
    しばらく見つめ合った後、勝己は眉間に深く皺を刻んだ。

    「…そりゃどういう思い出のつもりだ。」
    「っ、返事の前にそれかよ!ったくもーおめぇは…うーん…えー…そうだな…『爆豪に長年の想いを告白した思い出』、とか?」

    こてん、と首を傾けた切島は、珍しく少し諦めたような顔をして薄く笑っている。
    知らなかった。
    …ふーん、長年。いや、それよりも。
    『告白した思い出』、か。
    欲しいのが『それ』ならば、これでしまいだ。

    「へぇ。じゃ、帰んぞ」
    「え?ま、待ってくれよ!…分かってる、けどよ、返事くらい、聞かせてくれたって、」
    「?なら言い直せ。」
    「は?な、何を、」

    この絶妙なタイミングで察しの悪さを発揮して狼狽える切島に、舌打ちをする。

    「てめぇが欲しいのは、ひと夏限りの『告白した思い出』か?んなもんで満足なんかよ。…違ぇだろうが。」

    浜辺に、夜の帳が下り始めている。
    濃紺に染まった視界の中で、切島の喉仏がごくり、と動いたことだけはやけに鮮明に見えた。

    「言えや。ほしいもん、全部。」
    「っ、!」

    絡んでいた指に、力が入る。
    冷えた風が吹き付ける中、繋がったそこだけが熱を持っていた。

    「俺、爆豪の一番になりてぇ…!」

    ようやく吐き出された言葉は、想像以上で。
    それは思い出とはどこかかけ離れたものだったけれど。
    しっかりと握られ、握り返す手と同じくらい、勝己の心の臓に熱が灯った感覚がした。

    きっと、この胸に抱え続けている思いも、負けてはいないだろう。
    勝己は熱い手を思いっきり引いて、ぶつかるように切島を抱きしめた。



    ——————————————————


    ♩〜……

    家へ向かって、勝己は愛車を走らせる。
    どれほどの時間、あの浜辺で抱きしめ合い、口付けをしていたのだろう。二人が車に戻った頃には、あたりはもう互いの顔すら見えないほどに暗くなっていた。
    隣にいる男は、出発してすぐ勝己のお気に入りのジャズ調のBGMに合わせて船を漕ぎ始め、「ごめん、寝そ…」というと同時に座席に体を預けてすやすやと寝息を立て始めた。
    勝己は、信号で止まるたびにその寝顔を眺めた。よく見ればうっすらと青い隈があり、思っていたより夏が終わる寂しさとやらに精神を蝕まれていたことに気付く。
    一人で抱え込んで訳わかんねぇこと考えてんじゃねぇ、プロヒーローなんだから体調管理くらいちゃんとしろや、という苛立ちと、もっと早く気付いてやりたかった、という自責の念が湧き上がる。しかし、30手前の男には見えないほどに幼さを残す寝顔を見ているうちに、そんな考えは愛しさに塗り替えられた。
    …まぁいい。こいつが望んだように、これから一生、隣で俺がいっとう大切に愛してやればいいだけの話だ。

    テンポの良い自由なピアノのメロディーに、カッチ、カッチ、という車のウインカーの音、シュウン、と風を切ってすれ違っていく車の影、そして切島の穏やかな寝息が重なる。
    勝己の頭の中には、ブルーモーメントの青いベールがかかったような世界で、たった一人、燃えるような赤を纏った男の姿が焼き付いていた。



    ——次は、昼間に海へ行こう。
    今年の夏でも、来年の夏でも、そのまた先の夏でも、いつでもいい。
    この男は、輝く太陽の下で笑っている姿が、一番似合うのだから。
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