我らたとえ群れずとも 心は常に共にありリュンヌ攻防戦から少し後、帝国軍の駐留キャンプ救護テントのベッドには珍しい人間が寝かされていた。
遊撃部隊ロランス隊の副長ファルクである。
ウー・チルチル・クドゥフンという、この辺りではなかなか見かけない珍しい獣に長時間張り付かれていた結果指の先を動かすこともできないほど衰弱していた。
いつものように指令など無視し、単騎で暴れまわっていたところにロランス隊が追い立てた獣が反対側からやってきたのだがその中に人に化ける獣ウー・チルチルがいたというわけだ。
普段のアメリーに化けていたのならすぐにおかしいことに気が付いたのだろうが、悪いことに手負いの獣は「瀕死の」アメリー隊長に化けていた。
それと知らずファルクは本隊と合流するまでウー・チルチルを背負っていたのだという。
ウー・チルチルの生態を知るユーゴがいれば防げた事態でもあった。
それにしても発見時には歩いていたというのだから大した精神力といえるだろう。
「ありあわせのもので作った雑炊だけど」と前置き
「はい」
と差し出された一匙にファルクは少し気恥ずかしそうにしていたが素直に口を開けた。
口の中にほんのりとした塩味とカニの旨味がじんわり広がる。
「こんな辛気臭い食べ物より、肉でも持ってきやがれ」
なんとか嚥下するとほっとしたことを気取られまいとするかのように悪態をついた。
「憎まれ口をたたけるようなら、安心したよ」と笑いかけながらユーゴはもう一匙口に運んでくる。
「狼将補様は暇なのかよ」
「怪我が治りきるまでは君と同じく救護テントから出るなとのお達しなんでね」
そういうと、カニ雑炊の皿を片付けてからユーゴはちょうどファルクと背中合わせになるよう隣り合ったベッドに潜り込んだ。
「デッケェ手柄立てたんだってな」
静かになり眠ったと思っていたファルクからの声に思わず身を固くする。
「あれは…手柄なんてものじゃないよ、ただの一方的な虐殺だ…。」
長い沈黙の後ファルクへの返事というにはあまりに小さな声が救護テントの天井へ消える。
「へこんでる場合かよ、あのおっさんが何考えてるか解らねぇのなんて端からわかってたことだろうが」
「利用されたのが悔しいのなら簡単だ、あいつより偉くなりゃいいんだよ帝国はそういうところだ」
普段より明らかに饒舌なファルクは彼なりに自分を励ましてくれているのだろう。
ユーゴは幼い頃、辛いことがあった時背中合わせで話を聞いてくれた幼馴染を思い出していた。
「おい、ユーゴ聞いてんのか?てめぇがぐずぐずしてるなら俺様が直ぐに追い越して顎でこき使ってやるからな」
「ふふ、動けるようになってから言ったらもっとかっこよかったね」
「あァ?!」
『僕は仲間に恵まれているな…』とユーゴは
静かに頬を流れる涙を感じながら目を瞑った。