ロランス隊の怪談「怪談をしよう!」という提案は例年になく暑さが続いているある夏の夜に
アメリーから飛び出した。
ユーゴは以前リゼットから聞いた海岸沿いの村に伝わる少女の怪を語った。
夜な夜な海岸に謎の少女が現れ
翌朝の海岸には犠牲者の着衣のみが残されるという
怪異は少しずつ趣を変えつつも昔からの言い伝えではあるらしい。
レオとともに聞いた際にはそれなりに背筋が涼しくなった話だった。
ところが語っている最中からどうにもファルクの様子がおかしい。
まるで百面相のように表情をクルクル変えたかと思うと、頭をガシガシ掻きながら
「あー、その話かよ。幽霊ならもういねえぞ」ときっぱりと否定してきた。
昔、孤児院から脱走した時、
路銀が心もとなくなった際に、酒場帰りの酔っぱらいをターゲットに
少女に扮したファルクが一緒に泳がないかと誘い服を脱いで水に入ってきたところを狙って財布をいただき
泳いで逃げるというなんとも古典的な方法で稼いでいたらしい。
引っかかった者は己の間抜けさに真実は語れず、
昔からの言い伝えに責をおっかぶせてきたのだろう。
「えええーそれじゃあ怖い話じゃなくなっちゃうよー暑い~」
机に突っ伏し手足をばたばたさせるアメリーを見ながら
幽霊の正体見たり枯れ尾花ってこういう事を言うんだろうね。
ユーゴはそう言うとため息をつきつつまだまだ続くであろう、うだるような熱帯夜に思いを馳せた。
その夜、暑さで寝付けず今日あった出来事などをつらつらと反芻していて
ハッとした。
ファルクが孤児院から逃げたというルート上にあの海岸沿いの村は無い。
窓の外から少女の笑い声が聴こえた気がした。