emeth 療養庭園にはその日、珍しい人物の来訪があった。
季節ごとの花々が咲き誇る花壇からは一段奥、作業用の道具などをまとめている一角には樹木と岩石を組み合わせた静かなスペースがある。その中でもひときわ大きな岩の前に、鎧を脱いだサルカズの女性がひとり座り込んでいた。
「すまない、作業の邪魔だっただろうか」
「いや」
マドロック。カズデルの古い家系の血を引く岩と土の主人。噂とは尾ひれがついて回るものとはいえ、彼女についてはあまりにも荒唐無稽な内容のものが多かった。そのためエンカクなどはおおむね話半分でしか信じていなかったのだが、いざ本人を目の前にするとなるほど根も葉もない噂話の十や二十生まれるわけだと美しく整った横顔に妙な得心をえたのだった。
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