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    wamanaua

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    一応グエスレ。ラウダ君視点。ラウダ君の口がクソ悪い

    求婚の日「改めて求婚をしようと思う」
     にいさんが夜中に弟の部屋を訪ねてきて、そんなことを言った。ドア前で深刻そうに「話がある」とかいうから何かと思ったのに。こんなことなら門前払いしておけばよかった。にいさんは勢いで動くから本当にたちが悪い。
    「なんで?」
    「求婚の日だから」
    「それ今日じゃない。今日中に? もう23時だけど」
    「ああ、だから求婚をしようと思う。今から」
     どうしちゃったのかなぁにいさんは。養老先生も「3年ぐらいで治る奴」とかいってたけど、今すぐ治ってくれないかな、この恋の病とかいう奴。医者に行ったらパっと消えてなくなったりしないだろうか。こんな時マザー2の病院はうらやましいと感じる。
    「とりあえず状況を整理したいな。ここはジェターク寮だよね」
    「ああ」
    「水星女がいるのは地球寮」
    「そうだな」
    「そこまで行くわけ? 深夜に? よくないと思うし、あの辺鄙なところは行くだけで結構時間かかるよ。今日中には無理だから、やめたほうがいいと思う」
    「だが俺は今日中に求婚したい」
     僕は眉間のしわをもんだ。にいさんか瞬き一つせずこっちを見ている。怖い。
    「電話は?」
    「番号しらない」
    「メールは?」
    「アドレス知らない」
    「やめたら?」
    「だが求婚をしようと思う。今日は求婚の日だから」
     こいつバカなんじゃねぇかな? にいさんにそう思うのはよくないと思うんだけど、最近ときおり……よく……思ってしまうので、何とかしたいな。
     多分にいさんは正常じゃない。目がちょっと血走っている。なんか変なものでも飲まされたのかもしれない。あとは……何か目覚めたのかも。やめてほしい。とりあえずにいさんの首元に鼻を近づけて嗅いでみたけど、アルコール臭はしなかった。しててほしかった。
    「突然どうして? 別に求婚の日だから~で、そんなことをしなくてもいいじゃないか」
    「水星女が今日の昼間、言っていたんだ」
    「妄想?」
    「いいや、廊下ですれ違ったときに地球寮の女と話をしていた。求婚の日にプロポーズなんて、ロマンチックだよね、と……」
    「じゃあなんでその時にしなかったの?」
    「知らんうちにこんな時間になってた」
    「やめたら?」
     それでもにいさんは行きたいと言う。地球寮の女……もしかしたらあのやけに人気のある、リリッケ・カドカ・リパティかもしれない。彼女はこのジェターク寮でも慕われていて、ファンの男どもが「彼女は恋の話が好きなんだ」とか馬鹿らしいことを言っていたから、それでそんな話題を出したんだろう。水星女が、あの田舎者が求婚の日なんてものを知っているとはとても思えないし。
     それにしてもそのリリッケとやら、迷惑なことをする。そしてにいさんは優柔不断過ぎる。なんでこんな時間になって言い出すんだ。その時後ろから抱きしめて愛してるとでもいえばいいのに。
    「あいつはいつも傍らに狂犬を連れているから手を出しづらい」
     あのピンクわたあめか……ジェターク寮の生徒も何人か病院送りにされているからな……。というかにいさんは僕の心を読まないでほしいな……。
     話をしているとどんどん時間が過ぎていく。僕はもう寝たい。でもにいさんは目がらんらんとしている。面倒くさくなってきた。
    「なんかさ、にいさん、こんなこと相談してないでさ、行ったら? もう。地球寮。それで門前払いされて帰ってきなよ」
    「そうなんだ」
    「何?」
    「直接行ったらどうにもならないと思う。だがあいつの連絡先も何も知らない。俺はどうしたらいい?」
    「知らねーよ」
     口が悪くなってしまった。それはそれとしてクソどうでもいいことで僕をイライラさせないでほしい。フェルシーとかペトラとかに話聞けよ。なんなんだよマジで。
    「なんか……何をどうしても……無理じゃないかな。だからやめたらいいと思う」
    「無理でも伝えたいんだ。それがロマンチックということなんじゃないか?」
    「夜中に呼び出されて告白の相談受けてる今が一番ロマンチックだからこれで満足してくれない?」
    「弟相手に?」
    「じゃあここで僕が『僕が一番にいさんのことを好きなのに』とか言ってベロチューして押し倒すからそれで満足して?」
    「……そこまで関係を発展させるつもりは」
    「本当に押し倒すぞ」
     にいさんは腕を組んで考え込んでしまった。僕の告白が効いたのだろうか。ところで僕はにいさんと別に付き合う気はないけどそうなったらそれはそれで大満足です。
     気を紛らわせたくて時計を見たらもう23時30分だった。時が過ぎるのははやい。もうこのまま24時まで粘って寝かせてやりたい。いや僕はもうすぐに寝たいんだけど。にいさんは床を見ているがその目はやっぱりちょっと怖い。
    「……ディランザで乗り付ければ間に合うか?」
    「馬鹿? それ出す間にもう翌日だよ」
    「どうにもならなくなってきたな」
    「だから早く寝なよ」
    「しかし……」
     にいさんは考えて……そして頭から豆電球を出した。殴りたくなるぐらい能天気なお顔、ジェターク寮の宝物です。このまま元気にたくましく育ってほしい。そこに水星女はいらないんだよな。あいつはやく死なないかな。
    「やはりバイクか」
    「言っとくけど出させないよ。ジェターク寮のホバーバイク管理してるのは副寮長の僕だからね」
    「盗んだバイクで走り出す、青春じゃないか?」
    「頭イかれてんのか? 15の夜はもうすませたでしょ。大人なんだからさぁ」
    「俺は大人じゃない、学校も通ってるしな……!」
     ホバーだ! そう言ってにいさんは僕の目の前を突っ切り窓に……窓!?
    「理想の愛!」
     叫びながら窓ガラスを突き破って外に出た。寮から卒業させてやろうか。
     慌てて窓から下を見たが、もうにいさんは走り出していた。僕が利便性のみを重視して2階に部屋を構えたのがよくなかったのかもしれない。いや、これで10階とかから後先考えず飛び降りるよりはいいか。ともかくこのままではにいさんが特攻しにいってしまう。もうそれはそれで面白いし眠いしいいか、と一瞬思ってしまったが、追いかけることにした。でも飛び降りるのは大変なのでとりあえず廊下に着の身着のまま出た。寒い。
     駐輪場についたが、すでにバイクが一つなくなっているようだった。しかもメーカーKANEDAの赤くてでかくて速いばっかりのモンスターマシンだ。あれに追いつくとなると難しい。
     僕はすべてをあとで考えることにして、寮の管理人用のテスラで出た。宇宙世紀にもテスラがある。凄いね。カギはまぁその、いろいろとやりました。
     ジェターク寮が抱える車はオート操縦が標準だが、安全のために一定以上のスピードが出ない。僕はとりあえず寮の敷地から出るのまではオートにして、その先は自分で運転することにした。敷地内は複雑だけど外は一本道だから、僕でもアクセル踏んでるだけで大丈夫。
     ヴォンッ! と加速音、横に伸びる窓の外。通り過ぎていく現在。
     ちょっと後悔し、すぐに加速を止めてオートにもう一度切り替えた。まぁ多分にいさんには追いつくだろう……。眠すぎて何が何だか分からなくなってきた。もう23時50分だ。もう嫌になってしまったのだが、ここまで来たからには顛末を見届けなければいけない。僕は諦めて地球寮の敷地内に入った。
     粗末な建物のどこにいるのか、とりあえず外を回ってみるか……と車から降りてみると、すぐに赤いバイクを見つけた。そしてちょっと先にうちのバカ……にいさんの姿があった。
     にいさんは何を思ったのか石を部屋の窓に投げつけて回っていた。こいつマジでくるってんじゃないのか!? 止めさせようと近づこうとしたが、窓が開く気配がして、思わずそこら辺に立っていた木に隠れてしまった。
    「おいなんだ不審者が! アーシアンだからってなめてっとぶっ殺すぞ!」
     よりにもよって狂犬ピンクわたあめだった。にいさんは声を上げた。
    「水星女はいるか!」
    「ア!? 誰かと思えばクソジェタークのクソボンボンじゃねぇか! 何しに来た!? カチコミか!? 殺されてぇのか!」
    「深夜にすまない! 水星女に用がある! 出してくれないか!」
    「ンダゴラテメェ! 何の用があるってんだ! ことと次第によらなくても警備に突き出す! 待ってろ今警備に連絡するから!」
    「水星女……スレッタ・マーキュリー!! 話がある!!」
    「叫ぶんじゃねぇ! 殺すぞ!」
     もう23時55分とは思えないうるささ。他の地球寮の面々も「なんなんだよ……」と窓から顔を出していた。そしてその中に、水星女はいた。
    「あっあの、……迷惑! です! なんなんですか!」
    「水星女ァ!」
    「だっだから! なんなんですか!」
    「今日は求婚の日だったな!」
    「はァ!?」
    「だから来た! 俺と結婚してくれ!」
    「ええ!?」
     もうめちゃくちゃだよ。水星女がにいさんを見て目を白黒させている。他の面々は頭からハテナを飛ばしている。そして……ピンクのわたあめが窓から飛び降りてきた。なんでこいつらみんな飛び降りるんだ。
    「何が求婚の日だ! 今日は国際ホロコースト記念日だ! この戦争の道具売りがよォ!」
     そしてにいさんに突っ込んでいった。僕はあわててその間に入ろうとして、ぶん殴られて大地に伏せた。
     空白の時間が僕だけに訪れていた。喧騒なんて遠くのように感じる。実際はすぐ真上で殴り合いが発生しているのだけれど。キン……という耳鳴りがザザザザというさざ波にかわり、だんだんと音が戻ってくる。兄がわたあめにぶん殴られている。それを水星女が止めに来ていた。
    「だめです! チュチュ先輩! いくらわけわかんなくても、だめです!」
    「止めんなスレッタァ! こういう時に人を殴らないでいつ殴るんだよ!」
    「殴らないでください! ほ、ホロコ……記念日なんですから!」
     戦いを避けるべき日なんですよ! 水星女はそう言ってわたあめをなだめて、そしてにいさんのボコボコにされた顔に手を添えた。
    「……水星女」
    「なんなんですか、ホント……」
     僕は、ふと腕時計を見た。秒針は一歩一歩進んでいるが、まだ23時59分だった。
    「グエル・ジェタークさん、あの」
    「……スレッタ・マーキュリー」
    「ええと」
    「俺と結婚してくれ」
    「……それ、記念日終わったらもう、意味ないんじゃないんですか?」
     ピーッ。
     僕の腕時計から間抜けな音が鳴り響いた。24時。もう1月28日である。
    「……グエル・ジェタークさん」
    「……」
    「ちなみに今日は宇宙からの警告の日。1986年にスペースシャトルが大爆発して、乗務員全員が死亡した……という日だそうです」
     ある意味、お似合いなんじゃないか……と不謹慎ながらも僕は思っていたのだが、水星女はにいさんの手を取って、言った。
    「だから、来年の求婚の日まで求婚は待てますよね?」
    「……スレッタ・マーキュリー」
    「それまでは……あの……ほら……えっと……前段階……」
     私から言わせるんですか!?
     水星女が叫んだところを、にいさんが抱きしめて何事か叫んで、またわたあめがそれをぶん殴っていた。
     僕は地面に倒れながらそれをみていたわけだが、そばにやってきた女の子が手を貸して立ち上がらせ、「大丈夫ですか?」とハンカチまでくれた。リリッケ・カドカ・リパティ……モテるだけはある……。僕は思わず見直してしまった。ハンカチはいい匂いがした。
     地球寮は大盛り上がりだったが、寮長のマルタンが「うるさい! 明日試験なんだよ! もう寝て! ジェタークの人たちはどんだけいるのか知らないけどはやく帰って!」と窓辺から叫んでお開きになった。にいさんは水星女をもう一度抱きしめてなにがしかを言ってから離れていった。連絡先は聞いたんだろうか。聞いてないだろうな。
     そして僕に「相談に乗ってくれてありがとうな」と言って、赤いバイクでさっさと帰っていった。
     僕は疲れたので、テスラに乗ってオート操縦で寮に帰った。途中寝てしまい、起きたら3時ぐらいで本当に嫌な気持ちになった。部屋に戻ったら窓が割れてたのを思い出して、なんというかもう、散々だったが、どうしようもなかったのでベッドに入って寝ることにした。
     ちなみに1月28日は逸話の日でもあるそうで。僕は起きたら学校でにいさんの酷すぎる告白を言いふらしてやろうと思う。その前に寮の管理人に昨日騒いだことを謝ったり窓とかバイクとかテスラの話もしておかないといけない。そういった面倒くささとにいさんの幸せ、天秤にかけたら幸せが大事なのかなぁ。僕の幸せはどこにあるんだろう……。考えているうちに、夢の中。
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