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    Hyiot_kbuch

    @Hyiot_kbuch

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    Hyiot_kbuch

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    11/23の無配です。
    一応CPなしですがひろしまは仲良しです。

    三列目奥から四番目の机一番上の引き出しの 夢を見た。
     とても短くどこか不思議な夢だ。誰もいない薄暗い空間の中、たった一人で何かを組み立てる夢。
     一本の太い太い支柱とそれを支える四つのパーツを組み立てたところで目が覚めた。
     普通の夢とは違い目覚めても尚、その重さ、質感まで記憶に残っている。そのあまりの鮮明さに先程まで本当にやっていたのではと錯覚するほどだ。
     そんな奇妙な夢から南方が目を覚ましたのは賭郎内の仮眠室でのことだった。

     話は少し遡り前日の夜。南方は警視庁での仕事を終え、賭郎の本部があるビルへと来ていた。
     なんでも警察内の搦手から気になる情報が渡されたのだ。それを賭郎内の情報と照合し、必要に応じて報告をしなければいけない。
     立会人達が報告書を作成するフロアに到着し、空いている適当な席を探す。フリーアドレス制だの謳ってはいるが、単に個々の確執を考慮して座席決めするのが面倒だっただけだろう。所々物が置かれ、私有化されている机も見られる。
     南方はそんな私物が置かれていない机のひとつを選ぶと机に備え付けられた賭郎内のサーバーに繋がるパソコンを立ち上げた。早速データベースへアクセスし情報を探す。
     検索エンジンにいくつかのワードを入れてやれば南方の望む情報は直ぐに出てきた。やはりこれは報告の必要があるようだ。
     南方はそのまま報告書の作成を始めることにして、メモを取るためになにか紙とペンがないだろうかと机の引き出しを開ける。するとそこには賭けの報告などを挟むバインダーが一つあった。
    「誰だ置きっぱなしにしてるのは……」
     こういった報告書のバインダーはフロア内での閲覧は自由だが見たら戻せと立会人となってすぐ教えられる。機密情報も多分に含まれているため日々に紛失していないかを管理されているのだ。
     そんなものがこの引き出しに入れっぱなしになっていたということは、自分が来る前にこの席にいた立会人がしまうのを忘れたのだろう。
     南方は警察署内なら始末書ものだぞと思いながらそのバインダーを同じようなバインダーが並ぶ棚へと適当にしまう。元の場所は分からないが探すとしても引き出しにあるよりもよっぽど見つかるだろう、なんてことを考えながら。

     そうして南方が報告書をまとめ終えたのは日付も変わる頃という時間だった。疲れきった頭では運転したくはなく、終電の時間も過ぎている。明日は遅出というのもありタクシーで帰るほど急ぐ必要もない。それならば一度寝て帰るかとなった南方は仮眠室で眠ることとし、冒頭で話した夢を見たのだ。
     目を覚ました南方は先程の夢は何だったのかと首を傾げながら起き上がった。夢とは脳の情報整理によるものの断片だ。しかし、あのようなものは昨日見ただろうか。
     そんな疑問は時計を見た瞬間に消し飛んだ。時刻は八時半。完全に寝過ごしている。慌てて携帯を開くと真っ黒な画面。セットしていたアラームは充電切れによって不発に終わってしまったようだ。幸いにも遅出ということもあり、仮眠室に併設されているシャワーを浴びてまっすぐ登庁すれば間に合うだろう。
     そう考えた南方は慌てて携帯を充電器に差してシャワー室へと向かった。そうして、夢のことなどすっかり忘れて警視庁へと向かう準備を始めたのだった。


     
     その日の深夜。適当に業務をこなした南方は二日ぶりに自宅へと帰り着いた。夕食は付き合いで外で済ませたということもあり、まっすぐ浴室へと向かう。
     入浴をシャワーだけで済ませ、ベッドへ入る前に冷蔵庫を開けビールを一缶空けた。そして、もう一缶開けるか少し悩んで辞める。
     明日は非番ではあるが、昼前から立会いの予定が一件あるのだ。また今朝のように寝坊する訳にもいかない。
     適度なアルコールに眠気が誘発されたこともあり、南方は空き缶を片付けると歯を磨いて寝室へと向かった。そのままベットへと潜り込むとアラームをセットして携帯を充電器へと繋ぐ。
     心地の良い寝具に直ぐに意識は微睡み、そのまま深い眠りへと落ちる。が、そう時間が経たないうちに意識が明確になってきた。
     何も無い部屋に太い支柱が一本。そしてそれを支えるパーツが四つ。これは夢だ。昨日と同じで少しだけ違う夢。続きから組み立てろとばかりに他のパーツが地面へと並べられている。
     支柱よりは短く細いが、しっかりとした鉄柱が一本と筋交いのようなパーツが三つ。そしてリールのようなものが一つ。昨日初めてみたものではあるが、南方には不思議と組み立て方が分かった。
     まずはこれからだと、鉄柱をもちあげる。ずっしりとしているかと思いきや合金だったようで見た目ほどの重さはない。 踏み台を使い支柱の頂点部分の窪みにそれをゆっくりと嵌め込む。手を離しても落ちないことを確認し、踏み台から降りた。
     L字を逆にしたような形となったものを眺め次は支える金具を付けないとと材料と共に並べられていたレンチで支柱と鉄柱に空いた穴にネジで留めていく。
     一つ二つと順調に作業は進み、三つつけたところできちんと固定されているか確認を挟む。大丈夫だ。人ひとりの体重程度であればちょっとやそっと暴れても問題なく支えられそうだ。
     最後にリールのようなものを支柱の中程にある窪みに嵌める。こちらもネジで固定し、問題なくハンドルが回ることを確認する。
     あと少しで完成だ。
     そう思ったところで南方の目が覚めた。二日連続で見たよく分からない夢に何故だかとても嫌な予感がした。



     立会いを終えて昼。本部に戻ってたまたま出会った門倉と昼食へと向かう。
     サッと済ませようと入ったのは町中華。二人して餃子に炒飯、拉麺と炭水化物フルコースを頼み、最低限の言葉だけ交わし黙々と食う。
     一通り食事を終えて腹がくちくなった頃、喫煙可能の店内で南方は煙草に火をつけながら思い出したように話し出した。
    「そういや、昨日今日と変な夢を見たんじゃが」
    「おん」
     同じく煙草に火をつけながら門倉が興味なさげに相槌を打つ。
    「なんかを組み立てる夢でな支柱があってそっからL字を逆にしたように棒が出とって」
     黙って聞いていた門倉は南方の言葉を聞き進めるうちに顔が険しいものに変わっていく。そうして携帯を触りだしたので、つまらない話だったかと南方が話を止めた。直後門倉が携帯の画面をこちらに見せてくる。
    「なぁ……南方それこがいなもんやなかった?」
     画面をのぞきこんだ南方が見たものは夢で見たものと同じものが写った写真。いや、正確には夢で作っていたものの完成した姿と言った方が正しいだろう。そこには夢の中の南方がまだ設置していない太く輪になったロープがしっかりと掛けられていたのだから。
    「……そう、じゃけど、これは?」
    「ハングマン。絞首台というた方がわかりやすいか?」
     絞首台。自分はそんなものを作っていたのかと思わず南方は息を飲んだ。あれほどリアルな感触を覚える夢でそれがもし完成してしまったら、そしてその縄を首にかけられたのならと思うと背筋に冷たい汗が流れる。写真からすると完成まであと少し、それが今夜にでも起きないとは言いきれない。
     なにか他に知っている情報はないのかと門倉の方を見る。すがるような目をしてしまっている自覚はあるが今はとにかくこれから逃れる糸口が欲しい。そんな思いが通じたのか門倉が再び口を開く。
    「二日前。三列目奥から四番目の机」
    「え?」
    「一番上の引き出しにバインダー入ってたじゃろ」
     二日前。報告書を作成した日。言われてみれば座った席はその辺だった。バインダーが引き出しに入りっぱなしだったのを適当に棚へ戻したことはしっかりと覚えている。
    「おん、入っとったから棚に……」
    「それじゃ」
     南方が全て言い終える前に門倉が言葉を挟んだ。原因がわかったと独りごちる門倉に南方は何が何だか分からないと目を瞬かせるしかない。
    「解決しに行くぞ」
     そう言って吸いかけの煙草を灰皿に押し付け門倉は立ち上がった。自分の分だけ会計を済ませ、さっさと向かおうとする門倉を南方は慌てて追いかける。もちろん支払いは済ませてだ。
    「解決しに行くって何するんじゃ」
     門倉はすたすたと本部へと戻り、立会人が報告書を作成するための机があるフロアへと足を進めていた。南方も少し早足で門倉の後を追いかけていく。
     そうして報告書のバインダーが収められた棚へとたどり着くと何かを探している。話の流れから考えると南方がしまったバインダーだろう。自分ですらどれか覚えていないのに門倉が見つけられるわけがない。
    「……あったわ」
     南方がそう思った矢先、門倉が一つのバインダーを手に取った。
    「なに、それ」
     一見普通のバインダー。しかし、背表紙に分かりやすく御札のようなものが貼ってあった。こんなにわかりやすいのに二日前の自分はよくも気付かなかったものだ、と思考を飛ばしかけるのも仕方ない。
     そんな南方の様子をみて門倉はため息をついて口を開く。
    「新人やけぇ知らんかったか。『三列目奥から四番目の机の一番上の引き出しのバインダーはそこに置いておかねばならない』」
    「なんで」
    「知らんけどそういうもんじゃ」
     聞こえてきたのは一見意味のなさそうなルール。咄嗟に聞き返すも理由は知らんと宣う門倉にそういうものかと何故か納得してしまう。学校の七不思議もこんな感じだったしなと思ってしまうのもバインダーの背に貼ってある御札のせいだろう。
     とにかく、この夢が終わるのであればと南方は門倉に言われるがままバインダーを受け取り、三列目奥から四番目の机の一番上の引き出しを開くとそっと置いた。引き出しをそっと閉じても何かが変わった気がしないが。
    「ワシの友達、連れていくなよメカ」
     そう小さく呟いた門倉の言葉は、これで解決したのかと安堵の息を吐く南方には終ぞ届かなかった。
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