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    Hyiot_kbuch

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    2022/12/18 Liars agitation のWeb無配です。

    #門南
    menan

    手袋を外して 今日も無事に立会いを終えた俺は現場の後始末を終えるとひとつ小さく息を吐く。暴を使う場面こそなかったものの、互いに武力を誇示したまま行われた賭けはなかなかに手に汗を握るものだった。
    「南方立会人」
     これから帰ろうかといったところで呼び止められた声に俺は振り向いた。会員同士の賭けだったということもあり、立会人はもう一人いた。よりにもよってとしかいいようもない相手だ。
    「なんでしょう、門倉立会人」
     門倉が立会人と呼んできたのでそれに合わせて返す。すると僅かに面白がった様にその隻眼が細められた。
    「もう帰られるのですか」
    「ええ。……って、いつまでその話し方すんじゃ」
     変わらず続けて問いかけて来る門倉に、周りに部外者がいないことを確認して口調を崩した。本部にいても門倉にこのような口調で話しかけられることは滅多にないため少し居心地が悪い。そんな俺の様子に耐えきれなくなったのか門倉は喉を鳴らして笑った。
    「いや敬語の南方も悪うないな思うて」
    「なんじゃそれ」
     屈託なく笑う門倉に毒気を抜かれた南方はついつい口元が緩んでしまう。互いの気も緩んだことをいいことに門倉が小首を傾げ尋ねてきた。
    「なぁ、今日は南方の家行ってええ?」
    「ええよ」
     強請る様な門倉の口調に快く承諾する。周りには公言していないため知られていないと思うが門倉とは恋人といった関係なのだ。最初に家に呼んで以来居心地がよかったのかなんなのかちょくちょく来ていいか聞いてくるようになった。俺としてはなつかない猫が家に居着いたようでなんとなく気分がいい。
    「車は?」
    「賭郎ので来たけぇない」
    「ならウチのに送らせるわ」
     俺の家に行くことが決まればあとはとんとん拍子で話は進み、門倉のところの黒服に家まで送ってもらうこととなった。今日の運転手だという黒服の元まで行く門倉について行けば門倉は俺を指さして言う。
    「これも一緒に頼む」
     これとはなんだと言いたくなるも、余計な口は挟まない。黒服がひとつ頷いたのを確認すると彼が運転する車へと向かった。

     駐車場へ着くと門倉に続いて後部座席へと乗り込む。何も言わずに運転席の真後ろに陣取った門倉の隣へと腰を落ち着けた。足を組んでも余裕がある広さに流石は門倉が乗る車だと関心しながら、俺の家の場所を知らない黒服へと道を説明する。
    「下道でいいか?この道を北上してくれ」
     門倉の方をちらりと見ると特に話す気はないのか何も言わず窓の外を見ていた。この関係を公言しないのは他の立会人にバレたら面倒だということもあるが、このように門倉が黒服等の前では必要以上に話しかけて来ないのも大きい。もちろん必要とあれば人並みには話すし、他の相手よりかは砕けた口調に同郷故気安いところがあるのだろうとは思われているだろうが。
     そんなことを考えながらも運転する黒服に自宅までの道を指示していれば、太ももの横に置いていた手に何やらさらりとした触感が走った。門倉の足と触れるほど狭い車内ではないはずだと手元に視線を向けると門倉の手の甲が俺の手の甲へ当たったようだ。
     きっと偶然当たったのだ。隣に座っているから意識しすぎだと自身に言い聞かせていた矢先、再度門倉の手が俺の手の甲を擦った。先ほどよりもゆっくりと擦り付けられる滑らかな布と冷たい鋲の感触がくすぐったく思わず手が小さく跳ねてしまう。
     二度目でこんな触れ方をすれば、俺にだってこれは意図的にやっていることくらいわかる。だが、何のつもりだと門倉の表情を伺おうにも眼帯で覆われた半分しか見えず何を考えているのかはわからない。
     今は手の甲を擦り付けられているだけだし、わからないことを考えたところでしょうがない。道案内をせずには家にはたどり着かないため門倉のことはいったん置いておいて指示を出し続ける。
    「その先のふたつ目の信号を右だ…っ」
     あまり反応を示さないのに焦れたのか指示を出す途中に腿と手の間に門倉の手が滑り込んできた。そのまま軽く握られる手に思わず黒服らにも関係を隠しているのではないのかと焦りに息を飲んだ。すぐに冷静になって考えればバックミラー越しでもこの手の位置は見えないことに気付く。そのことに少しだけ安心するもその間に握られた手を門倉の膝の上へと乗せられてしまい、平静を装うも内心困惑しっぱなしだ。
     門倉は俺が抵抗しないのをいいことに握っている手へと指を絡めてくる。所謂恋人繋ぎといった形。運転する黒服には変わらず指示を出し続けてはいるものの、手袋越しに伝わって来る門倉の熱にどうしても意識を引っ張られてしまう。
     それでも握られているだけであれば問題ないかと好きにさせれば、ゆっくりと指が解かれた。これで解放されるのかと少しばかり心寂しさを覚えた刹那、指の間を撫で上げるように門倉の指が這った。ぞわりと背筋が粟立つような感触に咄嗟に空いている手で口元覆い吐息が漏れるのを防ぐ。
     指の間を撫でた指が今度はフェザータッチで手のひらをくすぐったかと思えばまた指を割開く様に絡めとられる。執拗に手首から先にだけ与えられる情事のような刺激のせいで俺の手のひらはじっとりと汗を滲ませていた。
    「この先Y字路みたいなんですが、どちらへ行けばいいです?」
     門倉から与えられる刺激に意識を奪われている所に前方から質問が飛んできた。確かにこの先はY字路だ。俺はバレないように呼吸を整えると黒服からの質問へと答える。
    「……左方向だ」
     黒服は特に何も気付いた様子もなく指示通りY字路を左へと曲がった。それとほぼ同時に門倉が俺の手を離す。今度こそ解放されたのか。醜態を晒さずにすんだ安堵と手のひらに感じる温かさがなくなった寂しさにゆっくりと手を門倉の膝の上から下そうとしたタイミングで先ほどより熱い手が俺の手を掴んだ。
    「その次の交差点は?」
    「えっと……」
     すぐそこの次の交差点について聞かれても勝手知ったる道のはずなのに答えがすぐに出てこない。それもそのはず、俺の意識は手袋を外した門倉の手から伝わる熱へと向けられていた。手を引こうとしたことを咎めるように力強く押さえつけてくる様は組み敷かれた時のことを思い出させどうにも頭がうまく回らない。
    「直進じゃ」
     言い淀む俺に代わり隣から道を示す声がした。門倉の声だ。ミラー越しの黒服はそれに違和感を抱いた素振りも見せず礼をいうように小さく会釈して運転を続ける。その間も門倉は押さえつけた俺の手に指を絡ませ、乾いた指先で手の甲を撫でるものだから思わず声が漏れそうになるのを咳払いして誤魔化した。

     結局あの後、門倉の案内で自宅へ向かう間ずっと俺の右手は好きなようにされるがままだった。手首から先にしか与えられなかった刺激にもどかしさを感じながらもただただ手のひらから伝わる熱に浮かされることしかできない。しかしその時間も自宅に着くまでのもので、門倉はあれほど扇情的に握り触っていたにも関わらず、自宅の前へ車が止まった途端何事もなかったかのように手を離し車から降りた。突然離れた手に置いて行かれたように感じてしまい俺も慌てて門倉を追って降りる。そんな心境が表情に出てしまっていたのか、それとも慌てた様になのか、車から降りた俺を見た門倉はくすりと笑った。
    「そがいに追わんでもワシは逃げんよ」
    「いやそういうわけじゃ……」
     図星を突かれしどろもどろに言い訳しようとするも門倉には見抜かれていたようで、からかうような色が隻眼に写っている。
    「それともなに?手だけじゃ物足りんかった?」
     さらに追い打ちをかけるような言葉に困惑を隠せない。一瞬忘れていた焦らされたことによる熱が右手に戻ってきたような錯覚すら感じる。
    「部屋で可愛がったるけぇ……な?」
     そう言ってスーツの隙間から入って来た門倉の手がするりと胸板を撫でる。まさかこんなところでと俺が振り払うよりも先にその手が離れた。あっさりと離れたことに疑問を抱きつつ、歩き出した門倉を目で追えば手には見慣れたキーケース。やられた。内ポケットに入れていたはずの家の鍵を手に門倉がエントランスの中へと入っていく。
     すぐにその背を追おうかと足を踏み出しかけてその前にせめて礼くらい言わなければと思い直した。門倉に弄ばれ、うるさい心臓を深呼吸して鎮め、助手席側の窓を軽く叩く。するとこちらを見た黒服は俺の意図を察したのかほどなくして窓を開けた。
    「送ってくれてありがとうな」
     そう俺が礼をいうと黒服は少し驚いた様にこちらを見て固まっていた。礼も言わない人間だとでも思われていたのだろうか。驚いていることから聞こえなかった訳ではないだろう。
    「……いえ」
     そんなことを考えていると少し遅れて黒服からは反応が返ってきた。俺はこれ以上引き止めるのも悪いと車に背を向け門倉を追った。

    「遅かったね」
     鍵を持って行ったことから先に部屋に入ったのかと思いきや門倉はエントランスホールで待っていた。
    「なんかあいつと話しとったん?」
     あいつとはここまで送ってくれた黒服のことだろう。別段隠すことでもないしと俺は素直に答える。
    「送ってもらった礼だけな」
    「ほーん」
     本当にそれだけかと少し怪訝そうな目をして門倉が相槌を打つ。どうもすぐに俺が追って来なかったことが不服らしい。
    「追わんでも逃げんのじゃないんか?」
    「追うなとはいうとらん」
     へりくつとしか言いようがない門倉の言葉に俺は思わず口元を緩めた。そして、そっぽを向いてしまった門倉の手袋で覆われていない方の手を、今度は自分から掴みにいった。車の中で何度もされたように指を絡めた後、引き寄せると指をほどいて手のひらへ口付ける。
    「……今日は可愛がってくれるんじゃろ?」
    「はぁ……南方の癖に生意気じゃ」
     口ではそう言いながらも機嫌は直ったらしい。繋ぎなおされた手がそのことを証明している。繋いだ手をそのままにボタンを押すとすぐに開いたエレベーターへと乗り込んだ。

     その晩の出来事については俺の名誉のために黙秘させてもらうが、次の日は一日腰痛に苛まれたとだけ言っておく。
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