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    Hyiot_kbuch

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    2/16 ひろしまWebオンリー ツメエリ愛の展示です。

    賭けに興じる「……様の勝利です」
     ホテルのスイートルームで行われた賭けに立ち会った門倉が勝利を告げる。今日の賭けは会員の壮年の男がラウンジで捕まえた非会員の若い男と行った賭けだった。
     ゲームはシンプルなポーカー。会員の男は名手と呼ばれた梟ほどではないが、会員権を保持しているだけあって見事なポーカーフェイスで演じてみせた。軽く遊ぶつもりだった対戦相手の男は対照的に蒼白な顔をしている。
     口座の金も参加費としてすべて巻き上げられゲームの続行も不可能、といったところか。だが、見たところコイツはいいところのボンボンだ。親から貰った金だろう。たった数千万。社会勉強と思えば安い額だ。
     そう考えながらも門倉は念を押すように問いかける。
    「これ以上のゲームの続行は参加費、賭金が用意出来ないということで不可能ということでよろしいでしょうか?」
    「いや、僕はまだっ、」
     門倉の問いに若い男が慌てて否定の言葉を吐きかける。引き際も見誤れない程度か。ゲームの参加費すら払えないというのに見苦しい。だがそんな思いは表情には欠片も出さず、男の言葉を遮る。
    「ではお金が用意できる当てがあると?」
    「それは……」
     門倉が二度目の問いを行うと若い男は黙り込んだ。やはり当てなどないのに負けたという事が許せないというプライドだけで食い下がっていたらしい。この程度の男だからこそ会員の男の遊び相手として捕まってしまったのだろう。
     それでも覚悟があるのであれば面白くなるかもしれないと門倉はほんの少しだけもったいぶって口を開く。
    「……どうしても勝負をなさりたいのであれば、賭郎の方でいくらか用意出来る方法が二つあります」
    「いったいそれはどんな方法なんだ!」
     早く教えろとはやる若い男を視線で制し言葉を続ける。
    「どちらもご自身を担保にしていただくことになります」
     その言葉を発した直後若い男が息を飲む音が聞こえた。流石にその意味が分からないほど馬鹿ではないらしい。何も言ってこないことをいいことに説明を続ける。
    「ひとつは貴方自身の身体に値段をつける方法。若い成人男性の身体ということですので二百万円程になりますね。負けた場合は文字通り身体で支払いをしていただき、実用段階にない薬品の治験や臓器の提供者などになることが多いようです」
     確か昔立ち会った0円ギャンブルも似たようなシステムだったな、と門倉はそっと思い出す。こちらでは肉体に値がつくのに対して0円ギャンブルでは身柄とアリバイに値をつけていたのだが。
    「もう一つは人主を募る方法。馬主のように出資金を募り、貴方が勝てば三割が人主に還るシステムです。過去には十億を超える値段がついたギャンブラーもいるのですが、負けた場合は人主の望みの末路を迎えることになります」
     その説明に会員の男が鷹揚に頷いた。この男は人主のリストにも名を連ねている。それも会員としての歴より人主としての歴の方が長い。
     門倉は説明を終えると若い男の顔を覗き込み、確かめるように三度目の問いを投げかける。
    「で、どうなさりますか?」
    「……今回はやめておく」
     勢いのなくなった若い男はようやくこの勝負から降りることを門倉へと告げてきた。意気地のない奴め。これだからボンボンはと内心悪態をつく。
     それから会員の男の方を確認した。男は勝負に納得しているとばかりにもう一度頷いている。
    「では、賭金の回収も終わっていますので帰ってもらっても?」
     であれば自分の立会いはここまでであると門倉が宣言すれば若い男は一瞬悔しそうな色を浮かべすごすごと部屋を出て行った。それを見送ると門倉も遅れて今日中に賭け金を会員の口座に振り込むように黒服へ指示を出し、部屋を後にしようとする。
    「門倉立会人」
    「はい」
     そんな矢先に、会員の男が門倉を呼び止めた。一体何用かと振り向けば携帯の画面をちらりと見た後、笑いながら問いかけてくる。
    「今日これから號奪戦があると連絡がきたけど、よかったら一緒に見るかい?」
    「いいですね、ご一緒させていただきますよ」
     號奪戦。文字通り立会人が割り振られた號を奪い取るために仕掛ける殺し合い。特に予定もないということもあり、門倉は言葉に甘えることにした。今日の対戦カードは如何に、と問うと会員は携帯の画面を見ながら答える。
    「今日は拾陸號が挑まれるようだよ」
     君の後釜で拾陸になった人だよね、と。
     この男は自分たちの間にある因縁ものこそ知らないものの、彼が後釜だということは知っているらしい。何か意図でもあるのかと会員を伺えば、声をかけただけで深い意味はないとばかりにポーカーフェイスを保っている。しかし、門倉の匂いを映す目には何か企んでいるであろうことがありありと分かる。
     面白くなってきたな、と門倉は僅かに口角を上げた。そうして黒服を数人引き留め男に勧められるがまま近くの椅子に座る。どこからか現れた会員の男の部下がホテルに備え付けのホームシアターセットに號奪戦の様子を映し出す。
     そこに映っていたのはここ最近號奪戦をいくらか挑んで上にのし上がって来たという参拾肆號の男と自身と同じような長いスーツの良く見知った拾陸號の男。真正面から対峙した姿はまさにこれから始まるといった様子だ。
     門倉はそんな立会人の片方に視線を向ける。賭郎に入る前とはいえ自身に一度は勝った男であり、賭郎に自ら呼び入れた男。南方恭次。門倉の後釜に収まり、狙われやすい新参の頃を経ても拾陸の號を守っている。
    「どちらが勝つか賭けをしないかい?」
     不意に会員の男の声がした。早速仕掛けてきたかと門倉は笑みを隠しもせず尋ねる。
    「ええ、何を賭けますか?」
    「そんな難しいことじゃないよ。彼が勝ったら君に挑戦させて欲しいんだ」
     そういって男は参拾肆號の男の方を差した。なるほどそういうことか。今日は突発の立会い故、なるべく號の高い立会人をとの要望でフリーの自分が呼ばれたが、この男の専属は彼だったなと門倉は頷く。
     號の意味を取り戻した今屋形越えには零の立会人が必要となる。そのための足がかりに弐號の地位を手に入れたいのだろう。
    「では、もう一方が勝てば?」
    「今日稼いだ全額。それでは安いかな?」
     三千万ちょっとか。屋形越えの資金に比べればはした金だが、門倉にとってはどちらに転んでも損はしない。これで八百長でも依頼されていたら乗らないところだが、ただ挑戦の権利だけあればいいのであれば断る理由もない。門倉は振込を取りやめるように黒服に再度声をかけると会員の男へと向き直る。
    「いいでしょう。私は南方立会人に賭けることにします」
     そうして二人の間で賭けの話がまとまるとほぼ同時に號奪戦が始まったのだった。



     先に仕掛けたのは参拾肆號の男の方だった。何らかの打撃系の格闘技の経験があるのか、前後に軽快なステップを踏みながら拳を突き出す。速い。流れるようなコンビネーションに門倉は小さく感嘆の息を漏らす。
     一見その打撃は綺麗に入ったように見えたが、南方はしっかりと急所をガードしていた。大方、どの程度の打撃か食らって確かめてみたというところか。だが、南方であればこれくらい食らっても問題ない。その打たれ強さはいくらか戦ったことのある門倉はよく知っている。アレを打撃で斃すにはガードの前に拳を当てるスピードか、ガードごとをぶち破るパワーが必要だ。
     などと門倉が考える合間も相手の打撃は未だ続く。南方とて拳を振るっていない訳ではないのだが手数で劣り、傍からは一方的に殴られているようにしか見えない。
     だけど決定的な一撃はすべて凌いでいる。ダメージは蓄積されてはいるが、見た目程ではない。参拾肆まで昇ってきたんだ、このことに気付けない相手ではないだろう。
     そろそろだな、と門倉は息を吐いた。南方に打撃戦では分が悪いと判断する頃、どう動くかと男の出方を伺う。門倉の予想通り男は姿勢を低くし、南方の足をとりにタックルを仕掛けていく。
     南方はそこに待っていたとばかりに前蹴りを繰り出した。相手が突っ込んでくるのだからパワーはそれほどいらない。だた、男のくる方向に置いておくだけといった様子だ。だが、急所のひとつである鳩尾へと正確に、真っ直ぐ吸い込まれていく。ぶつかった衝撃で男の上体が起き上がる。
     そこからの動きは一瞬だった。僅かな間痛みで無防備になった男のに潜り込んだ南方は衿ぐりを掴んだ途端払い腰で投げていた。そして倒れこんだ男の背後を取ったかと思うと裸締めの要領で相手の首に腕を回す。男が腕を振りほどこうと拳を握った直後ゴキンと鈍い音がして決着がついた。



    「私の勝ちのようですね」
     会員の男の方を見て門倉が弐ィと笑う。
    「そうだね、残念だよ」
     視線の先の男は専属の立会人が死んだというのに表情ひとつ変えない。だけど門倉の目には動揺していることが丸わかりだ。さぞ期待をしていたのだろう。立会人歴の短い南方程度ならと。
    「約束通り、今日の勝ち金は私がいただきます」
     そう言うとまだ賭郎の一時口座に置いたままの資金を門倉の個人口座に移すように配下の黒服へ指示を出した。すぐにネットバンキングでの手続きを行ったらしく、門倉のプライベートの携帯に振り込まれたことの通知が届く。
     號奪戦の中継も終わったことだ。もうここにいる用事もない。
    「では、また機会がありましたら」
    「待ってくれ!」
     門倉が黒服を引き連れて部屋を後にしようとすると、会員の男が声を上げて引き留めてきた。続けられた言葉は予想はしていたが、聞きたくなかった言葉。
    「君が僕の専属にならないか? 弐號ともなれば強いのだろう? ほら、僕の専属は居なくなってしまったわけだし」
     門倉は弐ッと笑みを作り、振り返る。
    「ええ、私は曲がりなりにも弐ッ號を務めるだけの力量はあると自負しています」
     男はその言葉に承諾かと思い先ほどまでのポーカーフェイスも崩れ去り安堵の表情を浮かべていた。全くもってつまらない男だ。
    「しかし、最初の専属を失った場合、貴方様と面識を持った順に専属を代行する形となります。こちらが賭郎のルールです。専属を選り好みするようなことはなさりませんよう」
     それだけ言葉を残すと門倉は今度こそ部屋を後にした。

     エレベーターをおり、ホテルのエントランスまで到着すると、私用の携帯を弄り電話をかける。相手は当然今日の儲けの立役者だ。
    「南方? これから飲み行かん? 號奪戦勝ったけぇ奢ってやるよ。おどれのおかげで儲けたし。は? 痛くて動けんから無理? 見とったけどおどれならあがいなくらい問題ないじゃろ。いつものとこおるけぇ来いよ」
     門倉は一方的に言うだけ言うと電話を切った。門倉の電話の間に舎弟の黒服は行きつけの居酒屋の個室を確保してくれたらしい。また、送迎もしてくれるというので遠慮なく甘えることにする。そうして舎弟たちにいくらか心付けを渡したあと、行きつけの居酒屋へと入る。
     南方がきたら褒めるべきか、労わるべきか、それとも人を殺めたことを慰めるべきか、そんなことを考えながら、門倉は到着した居酒屋で満身創痍であろう南方が到着するのを待つのだった。
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