初恋は実らないと聞いたけど今日何度目かの呼び出しをされる花沢の名前を呼んだ、バレンタインがこんなに厄介な日だとは思わず普通に萎えてしまいそうである。俺の席は教室前扉のすぐ隣で呼び出しをするには声をかけやすい位置にあるのでチョコやら告白をするために女子が訪問してくる、普通に自分で呼んで欲しい。
昼休みは突っ伏して寝ることにしよう、と寝たフリを決め込むものの頭上を名前を呼ぶ声が飛び交い全く寝れる気配もしないし扉が開閉するため廊下の冷気が流れ込むので寒い普通に冷える。
「柏田くん居ますか」
ぐるぐると考え事をしていたらふと自分の苗字を呼ぶ女子の声が聞こえてきた、このクラスに柏田は俺しかいない。
「俺だけど」
突っ伏していた机から顔を上げて開けられた扉の方を見るとショートヘアの似合う女の子が立っていた廊下で話がしたいと言われたので出る。
「あの…柏田くんは好きな子とか居るのかな」
少し間を置いて恥ずかしそうに頬を染めながらそう問われるが俺は「居ないよ」と答える、まあ嘘なんだけど本命が居ますよ同じクラスにさ。まあどう答えても何かが変わることなんて無いし変に期待させない様な返答をした。
目の前の女の子に告白されたものの丁重にお断りをした、チョコは市販のものを買ってきたらしく受け取って貰うだけでもいいと言われたので頂戴する。
放課後
6限が終わり欠伸をして帰りの支度をしてさっさと帰ろうと考える、また呼び出しの声掛けなんぞさせられたら嫌だし寒い。
ホームルームが終了して席を立って帰ろうとしたら声をかけられる。
「柏田くん、このあと時間あるかな」
「あるけど」
「良かったお礼したくて」
今日散々呼び出しをされていた花沢輝気に声をかけられ自分に向けられたお礼という文字に疑問符が頭に浮かぶ。
「僕の呼び出しの時声掛けてくれてたからそのお礼がしたいんだ」
「なるほど、どっか行くのか」
「こことかどうかな」
ズボンのポケットから取り出したスマホをこちらに近寄ってきて画面を見せてくる、先日駅前にできたばかりのカフェで確か紅茶とスコーンが美味しいと女子が後ろで会話していたのを聞いた気がする。
「柏田くんが甘いもの平気だったらだけど」
「平気、そこ行こう」
良かったと少し嬉しそうに微笑む姿を見て胸が少し高鳴るが落ち着くように自分の心臓に言い聞かせる、勘違いはするなと。今まで通りの姿勢で居ろと。
学校を出て並んで駅前まで歩き始める、花沢の持っている紙袋の中に色とりどりの包装された箱たちが目に嫌でも入る。一体何個貰ってるんだこの1日で。
「柏田くんはチョコ貰ったの?」
「まあ、1個だけ。花沢はすごい数だな」
「毎年こうなんだよね食べ切るのが大変で、でも断るのも申し訳ないし」
毎年…中学の頃からそうって事か羨ましいような複雑なような。というか優しすぎないか紙袋が悲鳴上げてるぞギュウギュウに詰め込まれて。
たわいのない会話をしてカフェまで着いて席に着く、スコーンと紅茶のセットを2人で頼む。紅茶はダージリンをそのままストレートでスコーンは抹茶味を口に運んでみればしっとりで口内に広がる抹茶の甘みと苦味が美味しくて自然と口元が緩んでしまう。
目の前でプレーンのスコーンを食べている花沢も美味しかったのか口元が綻んでいるのが分かる、紅茶も味がしっかりしていて大変美味しかった。また来たいし母が喜びそうだし茶葉を買って帰りたいくらいだ。
食べ終わり店を出て帰宅する方が一緒らしくまた並んで歩く、さっきの店の装飾がどうの他のメニューも気になるだの。
自分の家が案外近くにあったので一軒家の前で立ち止まる。
「良かったらまた行かないかい?」
「そうだな、またそのうち」
不便だしということで連絡先を交換した、ホーム画像がハゲモンで笑いそうになったものの何とかこらえた偉いぞ俺、人の好きな物を笑っちゃいけない。
「そういえば花沢は今日誰かに返事はかえしたのか」
「全部断るつもりだよ」
「お、おう…勿体ない」
即答でかなりびっくりして変な返事をしてしまった、あの量の思いを全部断るって強すぎるな俺なら少し心が痛くなる気がする。
しかしここで自分の心の中で少しだけ浮上してきてしまう鍵をかけたつもりの想いがチャンスだと告げてきてしまう。全然チャンスでもなんでもない、バカなのかと思いつつ口は先に滑ってしまった。
「じゃあ俺が花沢のこと好きって言ったらどうする」
真っ直ぐ花沢の目を見つめて言い放った言葉には少し震えていただろうか情けないなそんな事なら言わなきゃいいのに気持ち悪いとか思われるだろう、花沢はそういうの表には出さないだろうけど世間一般的にはきっとそうなってしまうだろうし。
「それは、本気の気持ちって事で受け取っていいのかな」
同じく真っ直ぐ見つめ返され真面目な顔をされてしまい視線を外せなくなった、マズイこれ断られたら俺泣くかもしれんなんて少し考えたら「いいよ、付き合おうか」と確かに花沢輝気の声で聞こえてきて心臓が跳ねた。
「…分かって言ってるの、か」
「からかいも嘘もないけど、信じてもらえないかな」
その返答に絶対貰えないと思っていた応えにその場にしゃがみこんでしまった、心臓が早鐘を打っている変な汗もかいてきた現実なんだろうかこんな簡単に叶ってしまって夢だったら俺はとしゃがみこんで俯いて居たら花沢もしゃがんで俺の頭に手を置いてくる感触がした。
「ねえ、柏田くん」
「……」
「顔上げてくれないとこのままキスするけど」
キスという単語にびっくりしすぎて顔を前に上げれば少し悪戯っぽく笑みを向けている花沢が目に入る、顔が熱いきっと顔も耳も真っ赤になっているに違いない考えたくない。
「いつから僕のこと好きだったの」
「入学式の日、一目惚れ…」
「僕より先だったんだ」
「え」
驚きのカミングアウトに一瞬思考が停止した気がする、花沢も俺のことを好きだったってことか?
「僕ね、柏田くんの目の色に一目惚れしてから好きになったんだよね」
目、俺はハーフで少しだけ目の色が水色に近い色をしている。小さい頃はそれで散々弄られてきたがまさかここで好きな相手が自分の目の色を好んでいたとは思わず面食らってしまった。
「これからは沢山見せてね」
唖然としていればいつの間にか手を取られ軽い口付けを甲にされており卒倒しそうになった。