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    ru_za18

    @ru_za18

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    加州に連れられ、本丸の中を移動する。
    訳も分からず、ただ付いていくしかない審神者が辿り着いた場所は…。

    ※何でも許せる人向け
    ※暗いお話

    Twitterの再掲作品

    #清さに
    withGreatFreshness
    #かしゅさに
    forYourInformation

    「 」の手記「ねぇ!どこ行くの⁉待って、清光!」
     日が傾いてきた黄昏時。いつもは聞こえるみんなの声も、今日は遠征で人が少ない事もあり、しんとしている。私はというと、清光に手を引かれている。清光は歩くのが早く、私は付いていくことで精一杯。
    「待たない。早くしないと…。それに…待ったら主は逃げちゃうでしょ?」
     こちらを見ずに、そう告げた清光。何を急いでいるのだろうか。私がいた納屋から、畑、庭から裏口を通って廊下へ。そのまま居間と厨の前を通る。おかしい、どうして誰とも会わないのだろうか。疑問に思いつつ、階段を上って奥の奥まで行けば…。
    「…私の部屋?」
     問いかけに答えるでもなく、清光はそのまま進んでいく。私から見えるのは、彼の背中のみ。清光がどのような表情をしているのかなんて、こちらからは知る由もない。ここで何をするのか、など皆目検討もつかない。
    「ここかな」
    「…え?」
     私の部屋の奥の押し入れ。清光はそこを開け、奥の壁をコツコツと叩く。目当ての場所を見つけたらしく、霊力を込め、ゆっくりと壁を押した。ようやく見えた、にやりと笑う清光の表情に冷たい汗が背中を流れる。
    「嘘…。何で、清光がここを知って…⁉」
    「ほら、行くよ」
     壁に人が通れる空間があき、また清光に手を引かれて進む。壁を抜ければ小さな踊り場があり、そこから、ひと一人が通れる勾配の急な階段が、暗がりの中、下にずっと伸びている。清光が持って来ていたらしい懐中電灯を頼りに、軋む音を鳴らしながら、一歩、また一歩と踏みしめていく階段は、私には恐怖の対象でしかなく。手摺など掴むところが、ここにはどこにもない。周りは壁と近い天井。先に私の手を引き、降りていく清光しか掴めるものがないここでは、抵抗など夢のまた夢だった。
     どんどんと下に近付くにつれ、私は冷や汗どころではなく、身体が震え、歯はカチカチと小さい音を立てた。出口の明かりが見えたときには、震えを通り越し、ふらふらと地面を踏みしめている心地がしない。視界も狭くなっているのだろうか。まるでその明かりしか見えていないようで。この時には、身体から血の気が引いた感覚しか、残ってはいなかった。
    「…ほら、着いたよ。主」
    「ど…して…清光が…?」
     考えが纏まらない頭で必死に問いかける。何故?ここをどうやって知ったの…?
    「座敷牢、全本丸にあるんだってね。演練の時に、たまたま他の本丸のやつが話してるのを聞いたんだ」
     にこりと微笑みながら、口から出なかった問いかけを、汲み取ったかのように話してくれる。まさか、他の知っている男士が話していたなんて…。気不味くなり、徐々に視線を逸らせば、それを許さないとばかりに顔に手が添えられる。再び合った視線には、温度なんてまるでない。
    「ねぇ。…何で俺達に、座敷牢があること話さなかったの?」
    「…貴方達に対して、使う必要が無かったから。だから、話さなくても…」
     良いと思っていた。脅すような、恐怖の対象になるような物はないのだと、心穏やかに本丸では過ごしてほしかったから。
     もしもの時の為にと、各本丸に備え付けられた座敷牢。場所は本丸によって様々だと聞いているけれど、この本丸は審神者の自室にある、押し入れからしか入ることが出来ない地下の座敷牢だった。そのこともあり、周りは窓もなければ土や岩の壁ばかり。明かりは、階段との出入り口にある色褪せた白熱灯が、心許なく光るのみ。天井は高く、広さは約四畳程だろうか。太い木の枠に囲まれた座敷牢への出入り口は、簡単には出られないよう術式を施されていると聞いている。座敷牢内には何も置かれておらず、階段を下りた場所、つまりは私と清光がいるところには、看守が使用するような、机や椅子が用意されていた。
     そして、この座敷牢の存在を知るのは…刀剣男士に使用している場合を除けば、審神者のみ。刀剣男士が、知るはずはないのだ。
    「…使う必要?」
     こてんと首を傾げる姿は、ここへ来る前ならば愛らしいと思っただろう。けれども、今の現状ではそれを思うことは出来ない。清光を見つめていれば、震えながら顔に添えられていた手をするりと下ろした。
    「き…清光…?」
     震える姿が気になり、清光へと手を伸ばす。次の瞬間には、手は絡め取られ、腰に腕を回され、引き寄せられる。突然の事に動揺していると、見えた清光の表情に震えていた理由が、ずっと笑うのを耐えていたからだとわかった。
    「あ…はははははははっ…はぁー…あるよ、主。使う必要大あり!だってさ、ここなら主が他のやつの目に写ることが無いんだよ?最高じゃん!」
    「他のやつって…刀剣とは関わらなきゃ、出陣や遠征だってちゃんと…」
    「それくらい、俺が考えるよ。それより、これで他の審神者からも主を隠せる。外出だって、主が他の男の目に映るのが嫌だった」
     口元は笑っているのに、瞳の奥に光はなく、赤色に私が朧気に映るだけ。そうか、ずっと清光はこんな思いを抱えて…。
    「…俺しか知らない主。あぁ…ずっと、ずっと、見てたんだ。他のやつになんて渡さない。見せたくない」
     恍惚な表情を浮かべ、キスを落としたと思えば、いつの間にか背後にあった座敷牢へと、押し入れられた。突然の事に軽く悲鳴を上げてしまったが、カチャリと鳴った音にハッとして、入り口へと駆け寄る。鍵を…閉められた。
    「開けて開けて、清光」
    「ダメだよ、主。主はここで過ごすんだから」
     清光が持つ鍵の束を奪おうと手を伸ばす。けれども、そんなことはお見通しだと嘲笑うかのように、ひらりと避け、一番離れた階段の入り口へと鍵の束を投げた。高い金属のぶつかり合う音に、伸ばした手は行き先を無くして木枠へと辿り着いた。
    「この南京錠もね、俺しか開けられないようにしてるんだ。他のやつらが来たら困るし?連れ出されないようにしたいじゃん」
     木枠へ置いた手に、清光の手が重なる。この絶望した状況に、この温かさがむしろ無情に感じた。
    「ね、主。ずっと俺が側にいる。俺だけが会いに来てあげる。主の面倒も見れるのは俺だけ。…こんな良いこと、これ以上ないでしょ?」
    「清光…何で…?」
     妖艶に笑う清光に打ちひしがれることしか出来ない。どうしてこうなってしまったのか。私が、彼の気持ちを気付けなかったから?ここまで彼を追い詰めてしまったということだろうか。それとも、座敷牢の話を知ってしまったから…?ぐるぐると回る頭の中で、一向に答えなんて出るはずもなく。
     夢であればいいのに。そう願うも、地下独特のひんやりとした冷たさや、清光が握る温かな手が、これが夢ではないのだと否が応でも突き付けてくる。
    「主、ここでずっと…俺の為に生きてね?」
     彼が正気になるのが先か、誰かが助けに入るのが先か…。
     それとも、私が狂うのが先なのか。


     座敷牢にぽつんと置かれた手記。綴られているのは、いくつもの後悔と思い。そして、一ページに大きく書かれた一文。

    “ の為に生きてほしかった”

     消されたらしい最初の文字。
     この先の事は、何も記されていない。
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