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    探検家味クッキーの成人した話を書いている途中です。タイトルまだ未定…

    探ベリ成人式漫画


    この一族の唯一の子息である探検家味クッキーの成人祝いパーティーはそれはもう盛大に行われ、アンティークな趣味を感じさせる3階建ての屋敷の庭では、この日のために用意された薔薇グミが客人を出迎えた。空から魔法の紙吹雪グミが降り注ぎ、地面に着く前にすうっと消えてゆく。屋敷の中ではオーケストラの楽団が集い優雅な音楽を奏で、中央に開けた舞踏スペースでは、たっぷりのクリームや煌びやかなゼリーでで着飾ったクッキーたちが幸せな笑みを浮かべながらくるりくるりと舞い踊る。分厚いベロアの幕で飾られた壁付近では、豪勢なビュッフェが用意されている。ヨーグルカからパインフルーツ島まで古今東西から取り寄せた1級品の素材で作られた自慢の料理たちだ。腕利きのシェフクッキーが目の前で肉グミを焼いてくれるサービスも存在する。ため息が出てしまうほどの素晴らしいパーティーの中心に、ぎこちなく笑う探検家味クッキーがいた。
    「いやあ、あの小さかった貴方様がもう大人になられたのですねえ~」
    そう探検家味クッキーに笑いかけるクッキーは、たしか、楽器を専門に扱う貿易会社の社長だったはずだ。大人になられたのですからストラディバリウスの良さが分かるはず云々と熱く語る彼女をあはは、と笑ってやり過ごす。視線を左に逸らしたが、また別のクッキーに捕まってしまった。まるでゲームのエンカウントだなあと自分のために来てくれたクッキーたちに少々失礼な感想を抱いた。エンカウントした背の高いぴっしりとスーツを着こなすクッキーは、その見た目に合ったぴっしりとしたお祝いの言葉を述べ、ぴっしりとしたビジネスについて語りだした。ほお、そうなんですねえ、ははあとそれらしい相槌を打っていると「では資料を後日持参いたしますので」とぴっしり言われてしまった。
    社交的な性格ではあると探検家味クッキーは己を評価しているがこの場は別だ。探検家味クッキーは先日まさに「大人」と呼ばれる年齢には達したが、彼は未だにお金持ちたちのパーティーや豪華な料理よりも1本のロープと適当に焚き火で焼いた肉ゼリーの方が何倍も心をわくわくさせるのであった。そのことに関して幼馴染の執事は呆れた表情を見せるが、その表情も10数年ともなれば「いってらっしゃいませ」と言っているようにも見える。
    その例の執事を屋敷の端でようやく見つけ、探検家味クッキーは安堵の声を漏らした。彼女はどうやらシェフクッキーの手伝いをしているらしい。時折何か客人に言われ、口元を綻ばせて何かを答えている。いつものような仏頂面とは異なりこのパーティーを心底喜んでいるのが感じられ、探検家味クッキーの胸はチクリと痛んだ。その痛みを振り払うように足早に彼女のもとに近付き、「ブラックベリー味クッキー」と彼女の名前を呼ぼうとした。が、その声は半分ほど口に出したところで、背中越しから投げかけられた低い声によって消えてしまった。
    「キャラメル味クッキー」
    「と、父様」
    探検家味クッキーによく似た丸い童顔にまっすぐ結ばれた口と眉間の皺がアンバランスな老いを感じさせる。父様と呼ばれたそのクッキーはかさついた口を重く開いた。
    「お前も、ようやく成人したか、」と言いかけたところで「まあ!ご当主様!」と周りの煌びやかなクッキーたちが声を掛ける。途端に「ご当主様」の眉間の皺は緩み、大きな屈託のない笑みを作り上げた。
    「ああ!モッツァレラチーズ味クッキー様ではないですか!この間の取引では随分良くさせていただいて!はは!」
    「いえいえこちらこそ!それにしてもご子息様もこんなに大きくなられて!」
    モッツァレラチーズ味クッキーと呼ばれた芳醇なチーズの香りをさせるいかにも金持ちなクッキーは探検家味クッキーににこりと笑いかけた。慌てて探検家味クッキーはありがとうございますと照れ笑いした。
    「ははっありがとうございます!忙しい中で手塩にかけて育てた息子がこんなにも大きくなってねえ、わたくしは…!」
    自慢するように探検家味クッキーの背中をばしんばしんと叩く。
    「と、父様やめてください」
    そのやり取りが微笑ましく思われたのだろう、モッツァレラチーズ味クッキーは満足そうに微笑んだ。そのまま2人は最近の仕事について話を弾ませ始めたので探検家味クッキーは折を見てその輪から外れることにした。そして階段の影になっている壁にもたれ掛かり、深いため息をついた。そのままずりずりと高価なチョコレートのスーツを擦るようにしゃがみこむ。コキリ、と普段はしない脚の生地が小さく音を上げた。しゃがみながら探検家味クッキーは自分の屋敷を見回す。普段は静かで却って広すぎる広間は今日は狭いくらいで、眼前を色とりどりのスーツやドレスが行き来する様子は現実ではない夢を見ているようだった。主役がこんな端でぼーっとしているのは良くないが、まあパーティーは乾杯すれば後は好きに食って踊るのだからいいだろうと探検家味クッキーは考える。
    「父様」
    ぽつりと呟いた自分の父親を指すその言葉は探検家味クッキーにとってあまり馴染みがなかった。祖父である考古学者味クッキーが持ち帰った財産を元手に貿易事業を始めた自分の父親はあっという間に会社を大きくし、この立派な屋敷も建ててしまったようだ。ようだ、と言うのは実際探検家味クッキーはよく覚えていないからだ。父親は新規事業開拓のために各地を飛び回り気が付いたら真新しい屋敷に引越しすることとなった。その後も彼の父親は出張ばかり、たまに帰っていると思えば、部屋に鍵をかけメイドすら立ち入れさせず事務仕事に明け暮れる。たまに話かけてきたと思えば跡継ぎだの仕事を覚えろだの考古学者味クッキーの真似はやめろだのを眉間の皺をさらに深くして探検家味クッキーに告げる。父親は決して自分のことを「探検家味クッキー」とは呼ばなかった。そんな父親を探検家味クッキーは苦手に思っていた。探検家味クッキーを探検家味クッキーにしたのはあの偉大で、勇敢な、地下に迷路を作るような遊び心のある考古学者味クッキーだ。身体の老いからフィールドワークをすることが少なくなった考古学者味クッキーは、探検家味クッキーにロープの結び方を教え、過去の探検談を物語のように語って聞かせ、時には幼い探検家味クッキーを抱えロープ1つで森を飛び回ったこともある。そして探検家味クッキーが抱く年上の執事への気持ちを唯一知っていた。探検家味クッキーにとって「父親」は考古学者味クッキーを指すようなものだった。そんな「父親」はひと月前に亡くなったのだが。
    「…探検家味クッキー様」
    聞き覚えのある声が頭上から注ぎ、探検家味クッキーははっと顔を上げる。そこにはブラックベリー味クッキーがいた。着飾ったクッキーたちの中でいつも通りの黒い執事服姿の彼女の姿は、探検家味クッキーをいつもの探検家味クッキーに戻した。
    「顔色が優れないようですが…」
    心配そうにブラックベリー味クッキーは探検家味クッキーの隣にしゃがみこんで顔を覗き込んだ。突然近付く顔に内心狼狽えながらコホン、と咳払いして不安そうな執事に微笑んだ。
    「大丈夫さ。ほんとすごいパーティーだなーって思ってびっくりしていただけだよ。心配かけてごめんな」
    「それならよいのですが…」
    「大丈夫大丈夫。ブラックベリー味クッキーと話したおかげで落ち着いたよ。そうだ、何か食べないか?」
    「私は手伝いがあるので」
    「まあそう言わず、ブラックベリー味クッキーが仕入れた素材の料理を改めてチェックしたいな。案内、お願いするよ」
    貴方様がそう仰るのなら、とブラックベリー味クッキーは優しく微笑んで答えた。冷静な彼女の瞳には探検家味クッキーの不安な気持ちなどお見通しなのだろう。ついでにポケットに忍ばせたロープの存在も。談笑するクッキーたちの間を華麗にするりするりと通り抜ける途中でブラックベリー味クッキーはポケットを一瞥し、「約束ですよ」と真顔で釘を刺した。
    探検家味クッキーが窮屈なパーティーをいつものように抜け出さず大人しく振舞っているのは彼が主役であること以外にも理由があった。祖父が亡くなるのと探検家味クッキーが成人になったタイミングが近かったのもあり、以前にも増して事業の手伝いをすることが増え暫く探検に行けていない探検家味クッキーに、ブラックベリー味クッキーが珍しく「今度の成人祝いパーティーで大人しくしてくだされば1週間は自由にさせるように私がご当主様を説得いたします」と提案を持ちかけてきたのであった。彼女も彼女で忙しさに追われ目の輝きが日に日に失われる探検家味クッキーを見ていられないのだろう。いつだってブラックベリー味クッキーは優しい。せっかくブラックベリー味クッキーが作ってくれたこのチャンスを逃す訳にはいかなかった。この1週間で最高の探検をする。探検家味クッキーは当主になり事業を引き継ぐことにあまり抵抗はなかった。それが当たり前であるし、上手く行けば事業拡大の名目で探検をすることもできるかもしれないからだ。しかし自由度は下がるだろう。そんな彼にとってこの1週間の休みは残された少ないモラトリアムのようなものかもしれない。
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