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    まほやく用。大体ムルシャイ

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    ムルシャイ
    旧ムとシャの酒場での攻防(※CP的絡みはない主張激しめのモブまほがでます)

    ムルシャイ短編もう幾度となく潜った扉を開け、ムルは酒場へと足を踏み入れた。
    行きつけと言って差し支えないほどに通いなれた場所のはずだが、そこでふと違和感を覚える。どうも今晩は、店内の雰囲気が違う。帽子を魔法で仕舞いながらカウンターのほうへと目を向ければ、その理由はすぐに知れた。
    「お嬢様方、あまり興奮してアルコールに飲まれないようにしてくださいね」
    店主からかけられた言葉に、きゃあきゃあと高い声が上がった。カウンターの一角に、まだ年若そうな魔女が三人、楽しそうにはしゃぎながら陣取っている。初めて見る顔だ、と思いつつも己の興味の向かないところまですべて覚えている自信はあまりないので、実際のところはどうなのかわからない。
    魔女たちは次々に店主へと話しかけ、よく回る口でおしゃべりを繰り返す。そこにつきっきりになっているシャイロックはこちらに気づいているはずなのに、声をかけるタイミングもないようだ。仕方がないのでなるべく彼女たちから遠いカウンター席へと歩を進め、案内を受けることもなく勝手に腰かけた。
    「やあムル、久しぶりだ」
    二つ隣にいた魔法使いが親しげに声をかけてくる。顔を合わせる機会こそ少ないが、昔からこの場に通う常連の魔法使いだ。こんばんは、とムルも軽く挨拶を返すと、彼はグラスを掲げ大げさにため息をついた。
    「お互いに災難だね、ムル。今晩のシャイロックはあちらのグループにかかりっきりでなかなかこちらも口を挟めない。ここは酒だけでなく、店主との会話を楽しむ場でもあるというのに」
    多少のオーバーアクションを交えつつ、その魔法使いは眉を下げた。まあ、彼の言い分ももっともで、それを目的にこの酒場へ通うものは多いのだ。かくいうムルもその一人である。
    「彼女たちは?初めて見る気がするんだけど」
    「今日初めてここに来たそうだよ、まだ二十歳を超えたばかりの赤ん坊のような魔女さ。シャイロックの魅力に充てられて、あの通りのはしゃぎっぷりというわけだ」
    へえ、と相槌を打ちながら頬杖をついた。彼女たちの目には、シャイロックはどう映っているだろう。見目もよく、若い娘たちには少々刺激が過ぎる色気をまとわせて、優しく喋りかけてもらえたならあのように舞い上がってしまうのも当然だ。
    「彼女たちはまだ気付いていないのさ、ああして相手してもらって、気分良くしてもらって、でも決して彼自身には立ち入らせてもらえないんだ。この酒場の楽しみ方をわかっちゃいない」
    こちらを向いてつらつらと話し続ける魔法使いに、ムルは適当に頷いていた。言いたいことは大方同意できるものだ、と知らぬうちに笑い声が漏れた。
    「相変わらず悪い男だな」
    「人聞きの悪いことをおっしゃらないで」
    話しかけた先とは違う声に遮られて、ムルは顔を上げた。そこには、まさに噂をしていた店主がいる。
    「オーダーを取りに伺うのが遅れたのがそんなにご不満でしたか?」
    「まさか、ここできみを優先的に独占できるとは思っていないよ」
    それほど気にしてもいないだろうに、言われた言葉をわざとらしく取り上げる。ようやく若い魔女たちのもとを離れたシャイロックに、常連の魔法使いは大げさに声を上げた。
    「ああ待ってたよ!せめてきみの作った酒を頂かないと!さっきと同じものをもう一杯頼むよ!」
    激しく請うような手振りで、隣の魔法使いは追加のオーダーをする。それに特別な反応を見せることもなく、かしこまりましたと微笑んでシャイロックはカクテルを作り始めた。
    「あなたは?どうされますか?」
    手早く作り終えたグラスを差し出しながら、シャイロックはこちらを向いた。まだ何も頼んでいないムルにそれを尋ねるのは当然のことだ。
    「そうだな、先月の十三夜の夜に味わったアレ……」
    顎へと指を滑らせながら、思い出すように呟くとシャイロックの眉がぴくりと動いた。言葉の意味するところが伝わった証拠だ。
    「今晩は貰えるかな」
    答えは急かさない。きみが考えを巡らせる時間も好物だから、という気持ちを込めて、ニッと笑みを作る。それがいかにも不快だと言いたげに、シャイロックは隠すこともなくため息をついた。
    「いつでもそう簡単にご提供できると思われたなら心外です。あなたのように気まぐれでいつ現れるかもわからない方には特に」
    「そうなの?」
    「それに、そんな熱のない頼み方では心が動きませんよ」
    ふぅん、と呟きながら少しだけ身を乗り出す。それくらいでは彼の余裕は崩せはしないが、しないよりはいい。
    「なんだい、そんな秘蔵の酒があるのかい?」
    新しく作ってもらったグラスに口をつけながら、横の男が興味深げに身を寄せてくる。自分も飲んでみたいという表情の彼に、ダメだよ、と断りを入れる。
    「俺も口説き落とすのに随分かかったんだ、きみもそうしたいならきみのやり方で頑張らないと」
    「勝手に話を広めないでください」
    あきれた様子で、シャイロックが二人の会話に割って入る。この場では一旦引くことに決めて、じゃあ何か白ワインを、とオーダーを告げた。
    「ラストオーダーまでにどうするか決めておいて」
    「ラストオーダーまで居座るつもりですか?」
    ワイングラスを魔法で取り出しながら、シャイロックがこちらを見下ろす。もちろん、と答えたところで、またカウンターの向こう側からはしゃいだ声でお呼びがかかった。


      *


    荒い息がようやく落ち着き始めた頃、全身を埋め尽くすような快感から覚めて上に乗った重しの存在に意識が向いた。まだ汗ばんだ肌が密着し、自分のものではない明るい色の髪が触れる。くすぐったいな、とじわじわと戻ってきた冷静な思考でシャイロックはそう思った。
    「重いですよ、ムル」
    そう告げると、上にいる男はもぞもぞと身体を動かして顔を上げる。少しだけ疲れたような、それでいて満足そうな表情を見るとあまり無下にもできなくてその丸い頭をそっと撫でた。
    「ねぇシャイロック、今晩店に若い魔女たちが来ていただろう」
    問いかけられた声に、動かしていた手が思わず止まる。この場に似つかわしくない彼の言動は、どうせろくなことを言わないとわかっているからだ。何が楽しいのか、ムルの目はご機嫌な猫のように細められている。
    「随分と舞い上がっていたね。噂の店主に優しくしてもらえて彼女たちはさぞかし楽しかっただろう」
    「……来店した方は若いも初めてもありませんよ。皆さん楽しく飲んで気持ちよく帰っていただきたいですから」
    「本当に?」
    ムルの指が、頬を滑る。単に親愛の意だけがある触れ方ではない。試すように焦らすように、肌をなぞられる。つい先ほどまでの激しさを思い出して、腹の奥が重くなった。
    「誰にも靡かないカウンターの向こうだけの花が、さっきみたいに快楽に溺れた表情をすると知ったらどう思うだろう」
    意地の悪い笑みを浮かべ、ムルはこちらを覗き込んでくる。自身の頭を撫でていたシャイロックの手を取ると、その手首の内側をじゅうと吸い上げた。
    「ちょっと……」
    ムルが唇を離すと、そこには予想通り赤い跡が残っていた。ちょうど、普段来ているシャツの袖で隠れるか隠れないかというところ。
    「嫌なら魔法で消せばいい」
    シャイロックが何を選択するのかを期待して、ムルの瞳が輝いている。この男のほうが、余程悪い男ではないか。
    「さあ……どうしましょうか。見える跡だけ消したところで、あなたが全身に口づけを落とした事実は変わりませんからね」
    その時のあなたがどれだけ欲に溺れた顔をしているかご存じですか、と問い直すと、世紀の智者と呼ばれる男は嬉しそうに笑っていた。
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