ムルシャイ短編もう幾度となく潜った扉を開け、ムルは酒場へと足を踏み入れた。
行きつけと言って差し支えないほどに通いなれた場所のはずだが、そこでふと違和感を覚える。どうも今晩は、店内の雰囲気が違う。帽子を魔法で仕舞いながらカウンターのほうへと目を向ければ、その理由はすぐに知れた。
「お嬢様方、あまり興奮してアルコールに飲まれないようにしてくださいね」
店主からかけられた言葉に、きゃあきゃあと高い声が上がった。カウンターの一角に、まだ年若そうな魔女が三人、楽しそうにはしゃぎながら陣取っている。初めて見る顔だ、と思いつつも己の興味の向かないところまですべて覚えている自信はあまりないので、実際のところはどうなのかわからない。
3108