買い物に来ただけだったのに。「にんじんと、玉ねぎと……豚肉と牛肉はどっちがいい?」
「豚肉と牛肉だけ、なんてどうかな?」
「あ、じゃがいものことを忘れていた!」
「無視しないでおくれよ……」
気がついたら冷蔵庫が空っぽになっていた、なんて一人暮らしではよくあることで、私は近所のスーパーに買い物に来ている訳だが。
よよよ、と演技がかった嘘泣きをする紫髪のイケメンとそれを軽くあしらう金髪グラデのイケメンが同じスーパーに居た。
紫とか金色の髪って、顔が良いかメイクをしっかりしないと似合わないと思っていたけれど、この二人は前者なんだろう。服装はいかにもこれからご飯を作るためだけに来ました〜って感じのラフさで、スウェットがカッコよく見える人類が実在していることに少しばかりの感動すら覚える。
ストーカーをするつもりは微塵も無かったのだが、スーパーの巡り順なんて限られていて、必然と彼らを負うような形になってしまう。
いや、仕方ないじゃん。最近なんでも高いからら吟味しないとお財布が泣いちゃうんだもん。
価格の高騰が収まる気配のないネギを一本手に取りながら、隣の様子を伺う。さっきのだと、買う物的にカレーか豚汁か、シチューかもしれないな……なんて、彼らのご飯予測をしているとカラカラとカートを押す音が近くなる。
「あ、すみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
ネギの二段上ににゅっと手を伸ばして、紫髪の方が椎茸をカートに入れていた。
ちょっと待って? 近くで見ると本当にイケメンとかそれはそうなんだけど、この人身長高くない?
いや、さっきまで猫背でカートを押していたからどのくらいの身長かあまり想像出来なかったせいなんだけど。金髪の彼もそこそこ身長があったのに。
「あの、何か……?」
「ごめんなさい! 身長高かったんだなぁ〜と思って……」
あはは、と笑って気づいたけど、これ割とキモコメントじゃない? 血の気が引いてきた私を余所に、彼はふわりと笑う。
「僕の隣にいた人いるでしょう? 彼、僕より身長が低いこと気にしてるみたいで。それに、下から見上げるのも悪くないなぁと思って、最近猫背が加速しているんですよ」
「な、なるほど……? そのビジュアルだと目立ちそうでもありますもんね」
「類? 知り合いか?」
先程まで果物コーナーに居たのであろう。厳選してきたバナナをカートに入れれば、さらりとグラデーションよ前髪が揺れて、こちらを覗くまるい目……いや、目おっきいな。
類と呼ばれた彼は緩く首を横に振って、人差し指を金髪の彼の口元に持っていく。
「司くんにはナイショ」
"司くん"は顔を真っ赤にして、金魚みたいに口をぱくぱくさせていたけど、それを間近で見ていた私はどうすれば良いですか? 土に埋まってこようかな。
次の日、推しのDVDが届いたから一緒に見て欲しいと、家に転がってきた友達がオススメしてきた動画――ワンダーランズ×ショウタイムの動画を見て悲鳴をあげることになるとは、この時の私はまだ知らない。