酒にまつわるあれやこれ「……あ、酒が切れた」
それは最近少し定着しつつあるネロの部屋での晩酌のとき。そろそろ次の酒を、としゃがみこんで棚を開けたネロの呟いた声がファウストの耳に届いた。
「もうないのか」
「最近任務が多くて酒の補充するの忘れてたからなあ……」
いい具合に盛り上がってきた矢先の悲報に、思いの外沈んだ声が出てしまった。もしかしたら自覚しているよりも酔いが回っているかもしれない。ネロが手ぶらでファウストの元へ戻ってくる。そして、くくっと喉を鳴らして笑った。
「そんな顔すんなよ、先生」
「そんなってどんな顔だ」
「おもちゃ取り上げられたような顔」
「適当言うんじゃない。……どうする。お開きにするか」
側に立ったネロを窺うように椅子に腰掛けたまま見上げる。名残惜しい気もするが飲む酒がないんじゃ仕方ない。
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