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    佐伯櫻

    フンフンッ汚いらくがきしかないよォ!!

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    佐伯櫻

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    訳あり総攻め生徒会長を理事長の命令の為に命懸けで抱くため奮闘する主人公攻め(総攻め気味)を書こうと思ったんですけど脳が働かなくなっちゃったので序盤の序盤を尻叩きに上げます。さぁ!叩け!(怖)

    不夜城は何故回る?(仮)━━コンコン

    とある日の放課後。

    キーボードのカタカタという音だけが静かに響く生徒会室の扉がノックされる。
    生徒会長、鴇瑛二がため息を吐きながら副会長の一青瀬名をチラリと見ると、一青は大変不快感を禁じ得ない様子で眼鏡のブリッジを指先で上げた。

    「はい」

    一青が生徒会室の扉を慎重に開けると━慎重に開ける理由は、今日は訪問予定がなかったからである━目の前には誰もいなかった。否、いないのではなく立っていないのである。
    そう、生徒会室の扉をノックした人物は、綺麗な土下座をして床に這っていたのである。

    「はっ━━?」
    「お初にお目にかかります、私立王道学園高等部一青瀬名様。私の名前は壱岐綴と申します。」

    一青の足元で綺麗な後頭部を見せながら土下座をする人物は、壱岐綴と名乗りそのまま「生徒会長様に謁見させていただけないでしょうか」と床に向かってそう話した。

    「え、謁見…?!ええと、と…とりあえず…顔を上げていただけないと…」
    「なりませんッ!」
    「ヒッ!」

    一貫校に通う一青は長年この学園の非常事態に立ち会ってきた。そんな彼でも小さな悲鳴をあげる程この状況、否、彼は異常だった。

    「会わせていただけないのであれば…」
    「な…何をすると言うんですか…」
    「さすが副会長、話が早い。首を切ります。」
    「…………え?!私の!!?」
    「いえ、自分のです」

    そう言うと、壱岐はブレザーの胸ポケットからカッターナイフを取り出し、チャキチャキと刃を取り出すと、自身の首に押し当てた。

    「ななななな何をしているんですか貴方は?!?!」
    「会長様に会わせていただけないのであればこの首を切ります!!」
    「ちょっと待ってくださいカッターナイフ程度じゃ切れるわけな…ちょ、ちょっと待って……!!」

    一青は壱岐に説得を試みようと口を開くが、壱岐が躊躇なく自身の首にカッターナイフを押し当て、それに力を加えて動かそうとするものだから一青は慌てて壱岐の腕を掴んでやめさせようとするが、どうやら壱岐の力が強いようで「力強…!」といつもの柔らかな口調が乱れていた。

    「ちょっ、誰か…!誰か助けてください!!!」
    「放っておけよ。どうせ出来るわけねぇから」
    「貴方はこっち来て見てから言えよ!!其方手伝え!!」

    一青はなりふり変わらず口調を乱して壱岐の腕を掴むが、壱岐の力が若干強いのか、お互いの力が押し合い引き合い、首元は赤く濡れる。

    「ああああああ!」
    「……あわわ…」

    其方と呼ばれた長身の男、其方伊築は間抜けな声を上げながら書記という役職名に似合わぬ素早い動きで扉に向かい、壱岐の腕を掴むとカッターナイフを奪い、一青に渡す。

    「書記様!止めないでください!俺は何としてでも生徒会長様に会わないといけないんです!」
    「会わせます!会わせますから!だから落ち着いてください!!」

    その言葉に壱岐はパッと表情を明るくして「ありがとうございます!」と一青の手を掴んだ。彼の手と首は血で濡れ、一青の手も血で汚れている。

    「あははは…」

    一青は異形を見るような瞳で壱岐を見つめ返し、口元は無理矢理笑って見せた。

    「とりあえず手当を…」

    その言葉を皮切りに緊張を孕んだ空気は柔らかくなり、生徒会長である鴇は大きくため息を吐いた。



    「こんな怪しい者に手当をしてくださるなんて、副会長様はとても慈悲深いお方ですね…!」
    「いえ…当然のことです。所で、壱岐君は鴇に何のご用で…?」
    「ああっ、副会長様が俺の様なゴミ異物の名前を呼ぶなんて…あってはいけません…!」
    「壱岐君はゴミ異物なんかじゃありませんよ……!!!」

    手の汚れ━服に着いてしまった血はどうしようもないが━を洗い、首の手足を応急処置を一青にされた壱岐は自分を極限まで卑下するが、先程の光景がトラウマなのか、一青は顔面を蒼白にさせ、壱岐の腕を掴んだ。壱岐は張り付けた様な笑みで頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

    「はぁ…ンな事より、俺様に用事があったんだろ?さっさと言え」
    「あ、はい!どうか驚かず聞いてください!」

    壱岐が改めて、居住まいを正すが一青は離す気がないのかそのまま彼に合わせて腕を掴んでいる。

    「生徒会長、鴇瑛二様。貴方を抱かせてください!」
    「……………はぁ???」

    壱岐はこの学園の理事長の実の子供で、次男という立場を得て日々自由にしている。
    長男もこの学園を卒業しているという事で、壱岐もこの学園に通うことになったが、堅実で恐ろしい父は伸び悩む次男の実力に辟易していた。
    そんな中、父の元にある日とある人物が訪れた。
    学生の頃、本気で愛した女性と

    ━━女性に連れられた壱岐より一つ下の綺麗な少年を連れて

    夫婦仲も冷め切っていたのも相まって、父はその女性を囲い込み、少年も例に漏れず大切に愛した。しかし、彼らには一つの懸念点があった。

    少年の成績がすこぶる悪いのである。

    中学を無事卒業出来たとしても、高校は果たして入学出来るのか?一人の人間として、一人の教育者と崩壊しかけの理性で父は自身の学園に入学させることを決めた。そう、裏口入学である。
    しかし、この学園に入学するにあたってもう一つの懸念点が浮かび上がってしまった。そう、治安である。

    学園の絶対的王者、鴇が侍らす親衛隊は表面上大人しいが危険分子である者は容赦しない。様々な要因を考慮して、実の父は壱岐の一つ命令を下した。

    「生徒会長である鴇瑛二を性的に抱け。そして宙に降りかかる火の粉を未然に防げ」

    突然理事長室に呼ばれた壱岐はその言葉に絶句した。壱岐家の実験は企業を継いだ長男が握っていると言っても過言ではないが、父には未だ人を囲い込む財力と、それを隠す権力と、彼は優秀であると信頼がある。それを覆す命令を実の息子に頼むだけじゃ飽き足らず、父はこうも言った。

    「宙が入学するまで成果を上げられないのであれば、お前の様な役立たずを勘当する事も厭わない。」
    「━━!」

    壱岐は余りの恐ろしさに小さく悲鳴を上げるが、父は相貌を不愉快に歪めるだけだった。

    「勘当された後、お前が無事に生きれるかはわからないがな」



    「という事であります」

    父の隠し子である壱岐宙という存在。そして父から下された命令を素直に話した壱岐はそう締めめくる。隣の一青はトラウマが蘇っているのか「壱岐君が…死ぬ…?」と顔を青白く染めながら震えている。

    「もともと口数少ない父は、多くは語りませんでした。しかし、約束は確実に守る御人。ただ一度でいいのです。私に情けをくださいませんか、会長」
    「お前は、理由あるから誰とも知らない奴に股を開くのか?」
    「お言葉ながら、理事長が得ている情報は私も得ていると思ってください。その言葉は、貴方が言えるセリフではないでしょう」
    「テメェ…」

    鴇は怒りに眉根を寄せ立ち上がるが、一青と其方が壱岐の腕を抑えた事により、呆気にとらわれ動きが止まった。

    「あ、の…?」
    「壱岐君が手を汚す必要はありません。壱岐君の事情、私にも手伝わせてくださいませんか?」
    「一青!何言ってんだ!!」
    「壱岐君も知っての通り、私達と鴇は肉体関係があります。嫌だと誰かに泣きつける程、私達の関係は殺伐としてません。しかし、私は貴方が人知れず傷つくのは見たくない、それを目撃したくない。私は私の為に、貴方に協力させていただけませんか?」
    「一青…」

    鴇は一青の言葉に悲しそうに一青の名前を呼ぶが、一青は鴇を伺う壱岐の顔を自身に向けさせ、「彼はああやって子猫のふりをして誰かを貶めるのです。お気になさらず」と小声で話した。

    「聞こえてんぞ」
    「ですから、何も気にせず私にお手伝いさせていただけませんか?」
    「しかし…」

    一青の甘やかな誘いに壱岐は渋る様に密着する体を離そうとするが、一青は仄暗い表情を浮かべて壱岐の顔を至近距離で見つめた。

    「どうか、どうかお願いします。このまま無かった事にして貴方の訃報を聞いたら、私…私…!」
    「副会長様?」
    「貴方が離れれば離れるほど私の脳内には貴方の首の肉の色と皮膚が刃によって切れる音が脳に焼き付いて…忘れたい…思い出したくない……貴方から離れたくない…」

    一青の恐怖に震える声を聞いて、壱岐は何故彼がここまで恐怖に震えているのかわからないが、彼の話をこのまま断っては一青は泣き出して、より縋りつきそうなので壱岐は一青渡すと背中をあやす様に撫でながら「では、お願いしてもいいですか?」と返答を返した。

    「勿論です、微力ながら力を尽くします。」

    壱岐に乗り上げながら壱岐の手を握って笑みを浮かべる一青と、それに笑みで返す壱岐の様子は側から見たら異常だ。鴇は呆れてため息を吐きながら座り直した。

    「おれも…出来ることは少ないかもしれないけどつきあう……君は放っておいたらほんとうに死にそうだし…」

    其方はそう言うと壱岐の体を持ち上げて抱え込んだ。壱岐を掴んでいた一青は離れた温もりにトラウマが蘇り小さく悲鳴を上げながら壱岐の足を掴んだ。

    「私から壱岐君を取り上げないでください!」
    「でも…一青じゃあ壱岐をだきあげることできないよ…?」
    「それは…!」
    「副会長様、手を繋ぎましょう」

    壱岐は其方に姫抱きされながら一青に手を差し出すと、一青はよろよろと立ち上がり壱岐の手を握った。

    「それじゃぁ、鴇…保健室に行ってくるから…そのままおれたちは帰るね…?」
    「……勝手にしろ」

    鴇はそっぱを向くが、其方は壱岐の首に巻かれた包帯から滲み出る血を優先して生徒会室を後にする。

    ━━パタン

    壱岐と一青、其方がいなくなった生徒会室では会計、柊水無瀬がくすくすと笑いながら「振られちゃったね、ときー?」と手元のボールペンを指先で回しながら鴇を揶揄った。

    「…振られてねぇ」
    「ときもさー、一回ヤるくらい適当にやってあげればいいのに。一回の損失でいきくんが助かるんだよー?」
    「お前、最低な事言ってるって分かってるか?」
    「あは、ときが言える事じゃねーじゃん?」
    「……」

    押し黙った鴇に、庶務、庶務補佐の一ノ瀬耀、一ノ瀬侑「黙った」「図星ー?」とくすくす笑っている。

    鴇は三人で座っていたソファから立ち上がって自席へ戻り、一つの万年筆を取り出すと、夕日に透かした。透明な万年筆は、万年筆越しに平和な校舎が見える。

    「とき君ー?」

    耀はダラダラしながら一青が状況を見て淹れた紅茶を飲んで、侑は自身が使った資料をまとめながら鴇の名前を呼んだ。

    「今日はもう終わりにしよう。…皆、お疲れ」
    「はーい、お疲れ様でしたー」

    柊は我先にとスクールバッグを掴んでその場を後にする。

    「気をつけてねー、ときくん」

    不穏な言葉を置き土産に。




    王道学園は、ある程度の条件をクリアし、尚且つ費用は多大であり、校則は自由であるにも関わらず多くの優秀な生徒を輩出してきた。
    偏にそれらを統率する生徒が優秀である可能性はあるが、閉鎖的なこの学園はあまりにも一般人の理解を得られない。私立高校さながら金持ち学園と呼ばれる事もあれば、優秀な生徒を輩出してきた素晴らしく伝統的な学園であると、外から見れば思われている。

    「(本当はそんな生優しいものじゃないけどな)」

    鴇は放課後のだだっ広い校舎を歩いていた。帰宅という名目の上巡回しているのだ。風紀委員会と“連携“を強めて、風紀のメンバーを増やしてからはそこまで頻繁に見回っているわけではないが、それでも、この学園は治安が悪すぎる。壱岐の話すことが真実であるならば、あの様な理事長が上に立つ人物であるならば、仕方がないのかもしれない。
    廊下の窓を注視、その奥に映る景色を見逃さない様に歩けば、二人の生徒を見つけ、鴇はため息を吐きながら自身のスマホを取り出し、風紀委員長に電話をかけた。

    「鴇だ。体育倉庫裏に煙草を吸ってる奴を見かけた。現行犯逮捕をしろ。写真を忘れるな」

    そう言って鴇は電話を切りながらもう一度何度目かわからないため息を吐いた。





    昨晩、治療のために保健室に向かった壱岐と一青、其方を待っていたのは皮膚が切れ、血が大量に出ているにも関わらず平然としている壱岐への保健医の畏怖を見る目だった。

    急いで病院に向かい治療を受けたが、出血が見た目よりも多かった為医者に心配そうに遠回しに精神科を勧められたが丁重に断った。理由を聞かれたが、素直に全部を話すのも時間が惜しいという事で「会いたい人に会えなかったので」とはなしたら今度は遠回しに治療が終わっていないので…と精神病院を勧められたがこれも丁重に断った。

    そして翌日。

    遅い時間に帰宅した壱岐を心配した同室者は、そのまま1時間睡眠した状態で登校しようとした壱岐を必死に押し留めた。
    泣きながら説得されたため仕方がないかと部屋で大人しく睡眠を取っていた壱岐は昼前に部屋のチャイムで起きた。

    「はーい」
    「おはようございます、壱岐君。」

    そこにいたのは一青と其方だった。

    「如何なさいましたか、副会長様」
    「お元気そうで良かったです。昨晩は心配で心配で仕方なくて…今すぐに会いに行きたかったのですが、保健医に止められてしまって……」

    「あれから何ともないですか?」と心配そうに伺う一青に壱岐は貼り付けた様な微笑みを浮かべながら「俺は何ともありません。本当は病院で1日大人しくしてるはずだったのですが…もしかしたら副会長様の言葉で考え直してくれたのかもしれません。ありがとうございます」と部屋に招き入れた。

    「汚い部屋ですが…お茶をお持ちしますね」
    「ほんとうに……きたない…」
    「其方!もうちょっとオブラートに包むとかしたらどうです」
    「いいえ、お気になさらず。同室者も俺も掃除とかはしないタイプでして…」

    壱岐はキッチンの向こうでそう返しながら冷蔵庫からティーパックで作られたお茶を取り出しコップに注いだ。

    「ひとりで三つは持ってけないでしょ…てつだうよ」
    「…!ありございます、書記様。あの…」

    其方が二つのコップを持つと、言い淀む壱岐をじっと見下ろした。

    「昨日はありがとうございます。あれ以上切れていたら血管に届いた可能性もあったそうで、医者は止めてくれた人を大事にした方がいいと言っていました。それはつまり、貴方に感謝した方がいいと言う事でしょう」
    「君は…」

    其方は言い淀むと目を逸らし、決意した様にもう一度壱岐を見つめた。

    「事実だけを言って、自分の感情を…話さないね。現に、鴇を抱く以外の方法を考えてない。」
    「…」

    其方は「ごめんね、きみの事情にふみこんで」と目を逸らしそのまま踵を返した。

    「………………一青、何してるの?」

    一青が座るソファに向かうと、そこには壱岐の衣服を抱きしめる一青の姿がいた。

    「あぁ、すみません……壱岐君の匂いを嗅いでいると緊張していた体が緩和する様な気がして…」

    一青に理由を聞いた其方は一青の理由にため息を吐くとこちらに向かっている壱岐を振り向くと伺うように壱岐の目を見つめた。
    壱岐はその眼差しに理解しているのか理解してないのかわからない笑顔を返すと、一青に「それでしたら差し上げますよ。同室者のも要りますか?もしかしたら同等の効果を得られるかもしれません。」と返した。

    「いえ、貴方以外のものは必要ありません。」
    一青は断固として拒否していたが。

    「ところで、お二人は何故こちらに?」

    壱岐がソファに座ってごくりとお茶を飲むと、そう二人に伺うと、一青は意気揚々と「もちろん、作戦会議ですよ!鴇を抱くための!」と言いながら立ち上がって壱岐の隣に座った。其方は少し迷って立ち上がって壱岐の隣に座る。

    「けっきょく鴇を抱くのは確定なの…?」
    「どういう事ですか?」

    一青が壱岐の隣に座った其方を見上げると、其方は壱岐を伺うように壱岐を見つめた。その視線に気づいた壱岐は飲んでいたお茶のコップをテーブルに置いた。

    「長男に頼ると聞いて、初めて長男に頼る可能性もあったのかと気づきました。しかし、そもそも父は企業の最前線から退きましたが、彼の権力はそれだけでなくなることはありません。現に父はこの学園の理事長なのですから」

    ━━ですから、彼の命令は絶対なんです。

    そう締め括った壱岐の暗い表情に、トラウマが少し蘇った一青は無自覚に壱岐の腕を掴んだ。

    「副会長様?」
    「…いえ…」

    そう返しつつも、一青は離すつもりはないのか余計に力を強めた。そんな二人の横で其方は小さく唸ると「ごめんね」と壱岐の瞳を見つめた。

    「それ以外の方法とか、無粋だった。それに……おれは鴇を抱くのは、賛成だから」

    壱岐はその言葉の意味がわからず小首を傾げていたが、一青の「そうでした!作戦会議ですよ!」という言葉に、壱岐は一青を見た。心の中では「(いちいち左右見るの首が痛いな…)」と怪我の心配をしていた。

    「うん…だからおれは鴇の話をしにきた」
    「!つまり、肉体的接触にはお互いを知ることが大事という事ですね!それはわかります!教わりましたから!」
    「うん…?どういうこと?」
    「昨日から思っていましたが彼の言動は些か不思議ですね。もしや誰かの教育的指導なのでしょうか…」

    其方は「肉体的接触はお互いを知ることが大事」なのがどうつまりに繋がるのか頭を傾げたが、一青は「教わった」という所が気になったようだった。

    「ちなみに、誰に教わったのですか?」
    「兄です!」

    其方は実の兄が弟に肉体的接触のコーチングした事に引いたが、一青はその兄が弟に教え、それが結果的に危ない行動を引き起こしているのかと考え、彼こそが自身の恐怖の根源なのかと理解すると密かに敵対心を燃やした。

    「ゴホンッゴホンッ…貴方の兄は貴方に不要な人物である事はわかりました」

    一青はわざとらしく席をして己の激情を誤魔化すと「では、作戦会議の方ですが。其方」と其方に発言を促した。

    「おれに発言を求められても…ただ、おれはちゃんと理由があって壱岐に力をかすよってだけで…」
    「その理由を聞いているのです。…申し訳ないのですが私は持ち上がり組ではないので…彼が肉体関係を迫った理由を知らないのです」

    一青はお茶を一口飲んで特に感慨はないように呟いた。しかし、彼の声が小さいのは、きっと彼にも思う事があるのだろう。

    「うん…じゃあ、おれの知ってる事を…」

    其方も一口口を湿らすとそう話し始める━━




    「お前には来年、俺の片腕として副会長になってもらいたい」
    「副会長…?おれには無理だと思うけど…?」

    とある日の高等部一年の教室にて。放課後には鴇と其方しかおらず、夕日が教室と鴇の持つ透明の万年筆を赤に染め上げている。
    其方には、中等部からの友人であるにも関わらず彼がよく持っている万年筆が“何なのか”よく知らない。唯一知っていることといえば、彼の万年筆は、自分の知っている限り使用された痕跡がないことである。

    「お前を副会長にさせる。してみせる。俺には積み上げてきた信頼がある。そうだろう?」
    「信頼って……好意のまちがいじゃないの…?」

    鴇が万年筆から目線を其方に向けてそう答えると、其方も同じように万年筆から鴇に目線を向ける。

    「鴇はもともと奔放だけど…このところもっとひどいよ……前もF組の奴らと話してたけど、噂にもなってない……鴇…もしかしても煙草とか…吸ってないよね…?」
    「……」

    鴇は目線を逸らし万年筆を見つめて沈黙を返した。夕日に染まる彼の瞳は何処か迷いのない決意を感じて、其方は鴇の身を案じた。

    「鴇は内臓はそんなにつよくないんだから…ほんとうに大丈夫なの?」

    其方の問いかけに、鴇は何度も沈黙で返した。其方は、とんな鴇に「俺には言えないの?」とだけ最後に伝えたが、それも鴇は沈黙で返す。不都合なものを受け入れないように、肯定を沈黙で返す。

    「其方」

    鴇は教室の椅子から立ち上がると、窓に指先を触れさせて其方の名前を呼んだ。其方の視線から逃れるような行動に、其方は歯痒い思いを感じた。

    「うん…」
    「お前を副会長にするために色んな奴の理解を得てきた。これできっと必要な投票の半分は満たせるだろう」
    「…でも、副会長って抱きたいランキングの一位がなるものでしょ…おれにはむりじゃないかな…」

    其方はすでに抱かれたいランキング上位にいる。三年生や2年生には及ばないかもしれないが、一年後、ニ年後に期待されている生徒の一人だ。そんな自身がたった一年生で趣向を変えるなんて可能なのか。其方は疑問の問いかけを眼差しと共に向けるが、鴇はそれを遮るように「其方」と名前を呼んだ。

    「お前は身長は高いが細いしどちらかというと綺麗系な顔だろ。だから大丈夫だ。大丈夫にする」
    「鴇?」

    そう言って初めて振り返った鴇の表情は眩しい夕日に邪魔されてよく見えない。もっと早い段階でカーテンを閉めるなり行動を移していたら、彼の心意を読み取れていたのか。そう考えても後の祭りだ。何故なら━━

    「俺にお前を抱かせてほしい。━━それで全部誤魔化されてくれ」

    彼に逆らえる事は出来ない。もうこの学園の生徒は、“そういう“風になっている。




    「…ということ、なんだよね」
    「鴇は貴方を副会長にしたかったんですか…そんな様子、梅雨程見せなかったので気づきませんでした……なんか、すみません…?」
    「気にしないで…おれも副会長どころか2年で生徒会役員になれるなんておもってなかったから……」

    其方がコップを持ち上げてお茶で唇を湿らせようとすると、今初めてコップの中が空っぽになっている事に気づいた。

    「書記様」

    コップをぼうと見つめていた其方に壱岐が気付くと、冷蔵庫の前に行き、お茶を持って其方のコップにお茶を注いだ。

    「あ…ありがとう…」
    「いえ、お気になさらず。緊張していたんでしょう。顔が強張っています。」

    壱岐にそう言われ、其方は自身の頬に指先で触れた。揉み込むように、頬を強く押すと、隣の隣で一青が「へんな顔」とくすりと笑った音が聞こえた。

    「(おれ…緊張してたんだ…)」

    つい数日まで一青と友人同士のようなやり取りが出来ると思わなかった其方はぼうっとそんな事を考えた。今までは鴇の望みを叶えてあげられなかった重圧に耐えながら書記の仕事に励んでいた。これからもきっと変わらないと思っていたし、変われないと思っていた。

    「(でも…)」

    目的の為に場を引っ掛けた壱岐と、其方を頼った一青のおかげで、今━━

    「おれ、鴇を変えたいんだ」
    「其方?」

    一青が其方の名前を呼ぶと、其方は「考えた事なかった…鴇を変えられるなんて、止めるなんて…考えた事なかった…」と呆然と呟く。一青も「…そうですね」とコップを持ち上げてお茶を一口飲んだ。

    「現状に不満があるなんて考えた事ありませんでした。鴇が肉体関係を迫った理由が分かりませんでしたが、今思えば私…鴇以外の役員と親しく話した事なかったかもしれません…それって」
    「会長様が潤滑油の役割を担っているどころか、書記様を副会長にしたかった事を聞くに、何か事情があるのかもしれません。」

    壱岐が一青の言葉に続けると、一青は頷く。其方も小さく頷くと、「抱くだけの問題じゃなくなっちゃったけど、どうする…?」と壱岐を伺うように見ると、壱岐は変わらず表情を微笑むように「そうですね」と返した。

    「父は会長を抱け、と仰いましたが…父の真意はいつだって件の俺の弟にあります。それに…俺の事情に付き合ってくださるお二人の意見では父との命令を遂行することと同時進行でお二人の思慮を解決できるのではないでしょうか。」
    「うん…ごめんね、俺のなやみもいっしょに解決してほしい。お願い」
    「私は壱岐君が死なないでいただきたいだけですので、どちらでも構わないですが、それでは強姦以外にも対話を試みないといけなくなりましたね」
    「難易度…上がっちゃたね…」

    一青の純粋な疑問に、其方がため息を吐くと、一青は「では、改めて…鴇を犯して対話を試みる方法ですが…」と手を叩いて自身に注目させると、扉の方からガチャリ、と嫌な音がした。

    「あ」
    「ただいまーツヅルン、ちゃんと安静にしてる…か…」

    壱岐の状態を心配した同室者の緋村一静が早退して自室に帰宅すると、そこには壱岐が生徒会役員を両手に侍らせている姿がいたのだった。




    「それで…天下の会長様を引き摺り下ろす為に会議をしていた、と」
    「一静先輩、そんな末恐ろしい事を言わないでください。ただちょっと会長様を抱くだけじゃないですか」
    「お前、会長の親衛隊副隊長によくそんなこと言えるな。まぁいいけど」

    そう言ってお茶が入ったピッチャーを呷ると、可愛らしい見た目の似合わず「カァー!」と叫んでゲップをし、ピッチャーをテーブルの上にカァン!と叩きつけた。

    「だからと言って役員が一介の生徒の部屋で二人きり、いや三人きりとは関心しねェなァ…お前ら、何かやましいことなんてしてないだろうなァ?オレという風紀の目が黒い内はツヅルンには手ェ出させないからなァ」
    「黒いって…きみの目は茶色に見えるんだけど…」
    「ンなこったどうだっていいだろ!どうなんだ、アア?」
    「しませんよ…そんな事…私は人のベッドでするの嫌いなんです。まぁ、でも壱岐君のでしたら…」
    「おぉい此処に犯罪者がいるぞォ!アイキャッチー!」
    「アイキャッチ?」

    緋村の言葉にため息を吐きながらツッコミを入れる其方とは対照的に、一青は満更でもなさそうに頬を緩めるが、緋村が壱岐を抱きしめて自身に寄らせることでこの表情は霧散した。因みに、一人だけ冷静な壱岐は緋村の言葉に疑問符を浮かべているだけだった。

    「まぁ、冗談は置いておいて」
    「さっきの冗談だったんですか?」
    「冗談に決まってんだろ、本気にすんじゃねぇよ」

    立って壱岐を抱きしめている緋村と座って下から緋村を睨みあげている二人がバチバチと睨み合う中、其方が困ったように壱岐を見上げた。どうやら緋村のテンションが苦手なようだった。

    「それより、置いといて、なんですか?先輩」
    「…あぁ。置いといて、オレはツヅルンがやりたい事は何があっても止めるって決めてんだ、コイツはわかってる通り目的の為なら手段を厭わねぇ。ツヅルンの首の傷を無視して会議なんかしてるヤラシーテメェらなんかと一緒にするわけにはいかない。」
    「それは…」

    其方が言い淀むと、壱岐が初めて気づいたように自身の首の包帯に触れた。

    「気にしなくて良いですよ。皮膚が少し切れただけですから」
    「……そういうところなんだよ、ツヅルン」
    「…壱岐君の怪我を慮れなかった私達に非はありますが、それと貴方に許されないといけない事は関係ないですし、貴方の言う通りにする謂れはありません。それに、何で貴方が壱岐君を縛り付けているのですか…!貴方は鴇の親衛隊副隊長でしょう!」

    一青がそう緋村を睨むと、緋村も負けじと一青を睨む。

    「お前らも話し合ったんだから分かるだろ、アイツは自分の手元に優秀な人材を置く為なら手段を厭わない。オレはアイツにだけは抱かれたくなくて交換条件で副隊長になったんだよ」




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