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    itati_266

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    itati_266

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    イベント交流小説です。

    アキトVSトラジディ喧騒。病院内を駆け抜ける戯言と、響く撤退の足音。私は後退するヒーロー達に逆らって、前進を続けていた。
    まず見えたのは大きな人影だった。私は目を細める。こんな異常事態でなければ美しいと形容するに相応しい長身の若い男が、クルクルと自身の黒髪を弄っていた。
    その足元にはヒーロー陣営とみられる凄惨な死体が転がっている。彼は私の気配に気がついたのか、ふと顔を上げた。
    「まだ居たんだな」
    そう呟く彼に、私は静かに声を掛けた。
    「警告します。戦う意思のない者は両手を頭の後ろで組んで──」
    「もし!」
    彼は肺活量の差だろうか、大きな声で私の声を遮った。
    「もし、誰も死なない世界があるとしたら……それはどんな世界だろうって思わないか?」
    突然問われ私は少し考えた。なるほど、そういう手合いか、と思いつつだ。
    「生命の死は 生命が生命たる証であり 死が存在しない世界に存在する何かは 生命とは到底呼称できません。交戦の意思はありますか?」
    そう問い返すと、男はケラケラと笑い声をあげる。何が可笑しいのかは私には分からないし、分からなくて構わないものである。
    「ワオ、傲慢だな……『死ぬから生きてる』なんて台詞吐くのは仕事が欲しい葬儀屋だけだぜ。酷い事言いやがる……」
    そう言われても私の前職は葬儀屋である。今はルナティックという主人を持っているが、ルナティックに拒絶(そんなことはないと思いたいが)されたら葬儀屋に戻るだろう。
    「……弔いは必要なものですから」
    「……え?アレ、本職?」
    「前職です」
    正直に答えると、何となく間の抜けた雰囲気に包まれる。男も少しバツが悪そうに頭をかいた。
    「生の側に意味を見いだせる人間ならば そうすればいい。ただし終わりがあることを 私たちは知らなければなりません」
    「お兄ちゃんみたいなこと言うなよ……ムカついて来るだろうが」
    そう言いつつ男は足元にあった死体を蹴って隅に追いやる。ステージが整う。
    「……交戦?あー、勿論。死なんて物は死神の傲慢だってこと、解らせてやろうじゃないか。手加減されると萎えちまうしな……頼むよ」
    ぎろりと大型肉食獣にも似た視線が飛んでくる。急激に空気が引き締まる。私の奥底が疼く。
    「了解しました。気分を害したようなら謝罪します。それはそれとして 貴方の無力化は この先に進むための 必須条件です。では」
    私は1歩踏み込むと同時にエリーゼを発動し、男の目が一瞬見開かれる。
    ガッ!という打撃音。私の右拳は男のクロスした腕にしっかりと受け止められていた。尋常ではない筋肉量。壁のような手応えに、思わず口角が上がる。ぱっとエリーゼを解除し、飛び退って襲い来る蹴りから逃れる。
    更にがくんと男の体が沈む。捻りながら全身を使って放たれた拳が飛んでくる。私はそれを構えて受け止めた。ビリビリと痺れるような感じに、相手の力だけなら此方より上だと判断する。しかし、技量では酷く荒削りなものを感じる。
    「筋は恐ろしく良いですがッ はっ 貴方は 洗練が足りないっ!」
    次々と放たれる拳を受け止め、流し、攻撃の隙を窺う。
    「技や洗練なんか弱い奴らで勝手に極めてりゃ良いんだ。俺は力が強いし、それだけで良いッ!」
    息切れひとつどころかヘラヘラ笑いながら男が言う。私はエリーゼを切り替えつつ、その拳を掴んだ。
    「慢心と見えます!私の故郷では……井の中の蛙、と言いますッ!」
    そのまま捻りあげる。すぐに振り払われるが、男は不愉快そうに眉を潜めた。しかし、すぐにゲラゲラと笑い声をあげる。
    「アンタの故郷、随分と謙虚なんだなぁ〜〜ッ」
    距離をとりつつさも可笑しそうに男は言う。
    「じゃあ故郷の奴らに言っとけ、ここじゃタッパがデカくて力が強い奴が勝つんだ。カエルはそっちの方だぜ」
    そうして男が素早く踏み込む。私はエリーゼを発動し、脇に避けた。後ろで破砕音が響く。古びたコンクリートが砕け散る。
    「……どうでしょうか。私は戦いがもっと複雑な要因をもって決着がつくものだと知っています。戦いを語るにはッまだ貴方は青すぎる」
    「響かねえな〜〜!!若さ故の傲慢だって?上等じゃねぇか」
    脇に移動した1歩を繋げ、そう言う腹に1発打ち込む。鈍い音と硬い感触。どこもかしこも鍛え上げられた肉体には感服する。
    「ッ、は、最初は瞬間移動かと思ったんだけど、さ……だから掴んでも無駄かなとちょっと思ってたんだけど……もしかして姿を消すだけ?シンプルでいいね……!」
    看破された。しかし動揺することはない。動揺はブレを呼ぶ。こちらも看破すればいいのだ。あちらの能力は物理的なものではないように思える。拳を交えつつも思考を巡らせる。
    「ッは、どうでしょうか。貴方こそ打撃や蹴りにエリーゼの変わった効果は無いようですね。私の脳内物質の分泌系に 干渉していますか」
    「良い、良いんだそういうの……脳内物質とか、幸福ホルモンとか……ややこしいのは」
    それはじんわりとした違和感だった。チャンスだと思ったのだ。男の拳をわざと腕の太く硬い骨に当てる。試みは上手くいった。バキッと指の骨が折れる音が確かに聞こえた。しかし、私はふとその判断をした自分自身に疑いを持ったのだ。
    その隙を突かれた。腹に衝撃と、ごぽっと血が内蔵を上がってくる感覚。綺麗に蹴りを左脇腹に受けてしまった。ただし、痛みはない。
    「ごほっ」
    「ッはあ、良いんだ……俺たちは死なない、なぁ……笑おうじゃないか」
    汗の滲んだ顔で笑う男の言動に強烈な違和感を覚える。確かにそうなのではないかと思ってしまうことに、異質を感じる。私の心臓を突き破りそうな何かが暴れている。
    「っは、はは……私に何をした」
    思わず漏れてしまった笑いをやめて、問う。すると男はヒュウ、と口笛を吹き答えた。
    「『俺はマヌケな奴らと違って死なないぞ!』ってよ……〈自信を持たせてやる〉だけだ、何もしてないさ、俺は……。でも……〈自信がある〉ってのは楽しいだろ?死んでも復活できる戦争のゲームが最高に楽しいのと同じだ。そう……笑おう。なぁ……?」
    神々しいほどに清々しい笑顔だった。嗚呼、それはまるで……俺のようで。
    「成程」
    くつくつと喉から笑い声が湧き上がる。本当は分かっている。誰かなんかじゃない。これは私であり俺で、一面が切り替わった、それだけ。
    「……くはっ、はははっ、ふふっ、あー、燃えますね」
    楽しい、そう感じる。そうだ、死なない。こんな場所で死ぬわけが無い。べろりと舌で口の周りの血を舐めとる。
    「私いえ『俺』にはぴったりのエリーゼと見えます。思い上がっているところすみませんが、今日は敗北を知るのに絶好の日でしょう?」
    小手先のエリーゼは最早どうだっていい。この男を俺は倒す。ただそれだけを考えたらいいのだ。
    「ふふ、元来俺に死の恐怖を解くのもお門違いです。今日限りは箍を外して、この、名前でお相手しましょう」

    「俺の名前はハヤト。貴方は?」

    そう名乗ると、男は目を丸くして驚いたような表情を見せたあと、へぇと興味深げに息を漏らした。
    「やっと本気ってこと?嬉しいよ。ハヤト……ハヤトね……OK!俺の事は……そうだな、『トラジディ』でいいよ。」
    満面の笑みで答えたあと、すっと目が細められる。
    「……で、アンタ誰?」
    「おや 俺が寝ている時もありますが その時には別が居ます。そっちは『アキト』といいます。まあなかなかいい目覚めです。感謝します。久しく楽しいです。続き しましょう?」
    「んー……なんて言ったっけ、こういうの……アンタはその、つまり、『二重人格』?面白いね、カッコイイ!アキトには悪いことしたかな?よろしくって伝えて……いや、その前に『その硬い頭をどうにかしろ』の方が先かな?感謝なんか良いんだ、会えて嬉し……いや、こうなると俺に不利か?まぁ時には損得なんか……」
    まくし立てるような英語。瞳孔が楽しげに収縮している。
    お互い心の底から、楽しんでいた。
    いい、イイ、良い!もっと俺を楽しませてくれ。戦いの中で果てるならば本望!己が最高潮に高まっているのを感じる。滲む汗や潰れかけの内臓の違和感も今は気になりやしない!
    「こういう単純な戦いも、俺は好きですよ。楽しいでしょう?続きを」
    「ウゥ、別人みたいだな。実際別人なのか……?」
    「アキトとは違います。俺はこの体を戦場で八割生かしてきた身です」
    「いいね……羨ましい。『本場』だろ?俺はストリートファイトばっかだったし……」
    そう言いつつ片足を前に出すトラジディ。踏み込みの体勢だ。骨の折れた拳を形だけ整えて握る。
    「貴方も此方がわでしょうから ストリートファイトじゃ物足りないでしょう」
    俺も緩く拳を握り、引く。脇を締め、迎え撃つ体勢をとる。
    大きくトラジディが踏み込む。風を切る音、打撃音。わざと体に当てつつ、反撃とばかりに拳を喰らわす。
    「良いじゃないか!さっきの男より5万倍楽しそうだ、OK、なあ、楽しいかい?」
    「ええ!勿論。はははっ、アガります スリリングでエキサイティングというやつです」
    「じゃあ……もっと楽しもうぜ。俺たちは!それが許されてるッ」
    降り注ぐ拳に負けず劣らず、受け流し、避け、蹴りを放つ。お互い不敵に笑いながらもっと、もっとと戦いを貪る。
    「遅かれ早かれ人は死にますが ここで死ぬのは 俺じゃないっ」
    「良いじゃん……良いね!分かってきたじゃないか……うん、ちょっと違うけどそういうことなんだ……アンタが一生そのままで居てくれたら嬉しいんだけど。キスもしちゃうよ……?」
    「何か 理解を得たようでなによりです。キス したければどうぞ」
    そう言ったその時、パァンと銃声が耳を劈いた。咄嗟に後ろに下がり、拳銃を抜いてそちらへ向ける。そこに居たのはきゅっと眉を下げた、茶髪の少女のような女性だった。
    「STOP!!」
    「はァ〜〜ッ!?」
    「ルナティック」
    小さく呟き頭を抑える。いけない、我を忘れてしまっていた。ルナティックをまきこんではいけない。
    「あの男……トラジディ 危険です 逃げてください 私が 止めます」
    「テメェ、誰だ?女……アァ?」
    まずい、トラジディが不機嫌を前面に出している。そしてぐちゃぐちゃの拳を握りしめ、吠えた。
    「邪魔すんじゃねぇッ!!ァア!?殺すぞ、女……!!!」
    「ルナティック 私が止めます 逃げてください! トラジディ!」

    「『ハヤト』じゃなくとも 私は 約束しましたから 全力を尽くします、だから 彼女に手を出すなぁッ!!!」

    止める、止めてみせる。彼女を喪ってはいけない。彼女以外どうだっていいから、ああ、そんなことより戦わせてくれ!今すぐに!
    「……分かった、私は一旦引こう!アキト、状況が危うくなったらすぐ引くこと、いいね!」
    彼女の足音がぱたぱたと去っていく。私は正直安堵していた。彼女に自身の狂信を、戦いに飢えた獣のような一面を見せなくて済むと。
    「『誰が相手か』じゃあなく、俺は今『邪魔をされた』話をしてんだぜ、マヌケッ……!」
    恐ろしい形相で睨まれるが、私は1歩進んだ。するとハッとした顔を一瞬した後、力が抜けたようにハハハと笑った。
    「なんだよ、あーーーー、鬱憤晴らしか?丁度いいじゃねえかよ……」
    そう言いつつコンクリートの破片を蹴っている。私は、時間を稼がなければいけない。否、負けるはずがないだろう?
    「ハッ……は、あ、ゥ 私も 俺も 今ここで戦おうとしている、それでは いけませんか」
    なんとかぐちゃついた己の形を成形し、睨みつける。
    いつの間にか後ろには見覚えのある店の主と背の高い男がいたが、気にすることは無かった。
    「アレ?苦しそうだな……どっちかに絞った方が楽なんじゃないか……?ま、いけねぇってことは無い。上等じゃねぇか……『実感したい』方が来い!」
    同種が吠える。口元から尖った犬歯が見えた。今ルナティックはいない。だから 少しの間なら──。
    「ッ、ふー、分かりました 俺が行きましょう、ハハッ、折角です。楽しみましょう ふふ」
    喉奥から込み上げる笑い声を惜しみなく吐き出す。素晴らしい熱狂が俺を待っている。ゆるりと構える。するとトラジディは破顔した。
    「ハヤト〜ッ!!!楽しもうじゃないか、いや、クソのお兄ちゃんがいるのは……正直嫌だが。まぁ!些細なことだろ?」
    「そうですね 戦い以外のことは 何もかも些細です!そう来なくてはッ!」
    ダンッと音を響かせエリーゼを発動し踏み込む。
    「……サイコー。……生きてるって感じ」
    トラジディが感極まったように呟き、正面からぶつかりあった。

    いくら時が経ったかは分からない。双方よろめきながらも、拳と蹴りは鋭く。しかし、スっと間に真っ白な手が伸びた。
    「Fermo」
    ハオの声。ピタリ、と相手の動きが止まる。俺がもう一歩踏み込もうとすると、制止の手が伸びる。頭が痛い。妙な感覚がする。
    「ここで差し止めです、アキトさん。小さなご主人様がお呼びでしたよ」
    ぐらつく思考と体。まだ立てる。立っている。
    「アキトのマスターが?ふふ 俺は まだ戦えます 精魂尽きるまで この身が滅びるまで まだ……」
    ぐらり。視界が揺れる。変な多幸感と、おや、という声。重力が異常に強くなったかのような感覚に襲われて、俺の意識は途切れた。

    「倒れてしまいましたね」
    「……次会ったら殺すからな……」
    「お疲れ様です、トラジディ」
    「どうだった、カッコ良かったろ……?」
    「カッコ良かったですよ、とても」
    「さぁコメディ、トラジディ、少し下がりましょう」
    「……そうかよ……」
    「立て。自分の足で歩くんだな」
    「アキトさんも少し安全な所に運んでおきましょうか」
    まだまだ、面白くなりそうだから。くすりと男は笑った。
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