君の物()になるよ 経緯は省くが、アラジンはハーメルンと賭けをした。負けた方は勝った方の望むものを与えることになっている。そしてアラジンはその賭けに負けた。
「ではハーメルンくん。君の望むものはなんだい?遠慮することはないさ!金ならいくらでもあるからね!」
そう言いながら札束を取り出したアラジン。見慣れた光景だ。ハーメルンは少し考えて答えた。
「そうですね…それでは一晩、私のものになっていただきましょう。とりあえずは今夜の宿を所望します。私に似合う美しい部屋に案内してください。」
これまたハーメルンらしい答えにアラジンは笑顔を作った。
「いいとも。それでは1日、君の物(財布)になるとしよう。好きに使うといい!」
そうしてやってきたのはライブラリで1番の高級ホテル。部屋はもちろんスイートだ。入浴を済ませた2人はワインを傾ける。
「どうだいこの部屋は?君のお眼鏡にはかなったかな?」
「及第点というところでしょう。ゴテゴテと飾り立てるしか能がない、という訳ではないようですし。醜くはありませんね。」
年代物のワインが数本空になり、互いにそこそこ酔いが回ってきた頃。
「で、ハーメルンくん。君は僕に何を望むんだい?まさか、ホテルが本題じゃあないだろう?」
アラジンの問に、ハーメルンは薄笑いを浮かべた。珍しい表情だなとアラジンは思った。
(仏頂面でも、美しいものを見つけた時の嬉しそうな顔とも違う…か…)
そうですね…とハーメルンはゆっくり立ち上がる。
「それではアラジンさん。私の望みを叶えていただきましょう。」
ハーメルンは優雅な足取りでアラジンの傍に近寄ると、覆い被さるように屈む。
「私が欲しいのは、貴方自身です。」
ハーメルンの爪先まで整えられた指が、アラジンの頬をなぞった。アラジンは笑みを崩さず、グラスを置いた。
「良いとも。」
アラジンの返事に、おや、と意外そうに首を傾げるハーメルン。
「そう驚くことでもないだろう?口約束とはいえ、契約だからね。僕は約束は守るとも。」
こうしてアラジンは、その日、ハーメルンの物になることを受け入れた。