本当の貴方は何処?本当の貴方は何処?
「いやあ〜何気に立ち寄った和菓子屋のどら焼き!メッチャ美味いわあ〜!」
目隠しをしているにも関わらずそう嬉々しく感じる表情の彼は目的地へ向かう途中に目にした公園のベンチにひとり座り複数個のどら焼きが入った紙袋を片手で抱え込みながらどら焼きをひとつ、ふたつと食べていた。
――ふと、己の白手袋とグレーのロングスーツの袖の間に目をやるとひょっこりとシルバーの高級そうな腕時計が姿を現す。そして…
「あ、アカンわ。流石にもう行かないとみんなに怒られるわ!」
「もうみんな怒ってるぞ」
…へ?
そう顔を上に上げるとそこには仁王立ち姿で険しい表情のリカルドが居た。さらにはエース隊のその他のメンバーも勢揃いだった。しかも全員ボロボロの状態で。
「あ、こりゃ失敬!あ、コレさっき立ち寄った和菓子屋さんのすんごい美味いどら焼き!君達も食べる?」
「「要らねーよ!!」」
何食わぬ顔でケロリと言い放つグラウに咄嗟に言い返すエース隊のメンバー達。
「あのさあ!みんなが必死で戦場で戦ってたっていうのにキミ1人だけ大遅刻もいい所だよ!」
「ごめんごめん晃司っち」
そう漫才の様なやり取りが始まりかけてたが
「…まあ、晃司。今回ばかりは許してやってくれ」
そう何かを察したリカルドは晃司を宥めると彼も薄々勘付いたようで「…分かったよ」、とその他のメンバー達も続いて自分達の本拠地へ帰って行った。
…ふう、とひとつため息をつくとリカルドはグラウの隣に座る。
ただひたすら唯一無二の神に仕える本来の『彼』にとってとても不安な事が起きているのだろう。
いつもなら途中でふらりとスイーツ屋に立ち寄りつつもちゃんと指定の時間には間に合わせる彼がまさかの大遅刻したのだ
そして…リカルドはふと考える。
もし、その唯一無二の神が居なくなった時、本当の『彼』は己を保てるのだろうかと。
――もしそうなったら自分も含めてエース隊メンバー全員で全力で支えて新しい『彼』を誕生させることは出来るだろうか?
…そんな事を考えながらふと横に目をやると
――さっきまでの飄々とした態度が嘘かの様に彼は無表情になっていた――
目隠しをしている為実際は分からないが今にも泣きそうな瞳をしているのだろう。
そんな彼にリカルドは――
「…あの時、『貴方』が私に世界を託した時、私はこの先何があろうともこの世界を守り通すと心に決めた。だから…」
「『貴方』が壊れそうになった時も必ず守り通してみせる。エース隊のみんなも、何もかも全て」
そう語ったリカルドの表情に迷いは無かった。