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    BSkjmDyS

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    BSkjmDyS

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    カドぐだ♀で赤ずきんちゃんパロディ的なお話。
    まだ完成してはないですがとりあえず尻叩き。
    登場キャラに関しては捏造多々あります!

    あかずきんちゃんとおおかみくんのやくそくとある国の森の中。
    オレンジ色の髪を黄色いシュシュで一房束ねて、ぴょこぴょこと森の中を走るのは、お気に入りの赤いずきんが良く似合う活発な女の子「立香」
    今日は日課の山菜やきのみ取りにお散歩。
    立香は森の中を歩くのが大好きなので、ワクワクとした気持ちが待ち遠しくて走り出してしまったようだ。

    「おーい立香ー!走ると転ぶぞー」

    後ろから声が聞こえたのは、森で一緒に暮らす立香と似たような髪色と瞳を持つ「村正おじいちゃん」。おじいちゃん、と言っても見た目はかなり若くどちらかと言えばお兄さんでは?と誰しもが思うが、本人曰く「儂(オレ)はこれでも長生きしてんだ、だから爺で良い」との事なので、おじいちゃん呼びをしている。

    立香はくるりと振り返りながら「だいじょうぶー!」と返事をするが案の定、小石に躓いてぺしゃッと転んでしまった。

    村正は「あ〜あ…」と苦笑する。けれどある程度の予測でもあるので慌てる事なく歩く。代わりに村正の隣を歩いていた短髪白髪で色黒の少年が立香に駆け寄る。

    「立香、大丈夫か?」

    「ん!アチャにぃ!へいき!」

    立香は駆け寄ってきたアチャにぃに元気いっぱいに返事をして、「んしょ」と立ち上がる。
    立香は転ぶ事がしょっちゅうだから、泣きべそはもうかかない。

    「まったく、走ったら危ないだろ?」

    立香の言う『アチャにぃ』こと「アーチャー」は、ため息をつきながら立香の服の汚れを手で軽く払う。

    「立香は相変わらずおてんば娘だなぁ」

    2人に追い付いた村正は、立香の頭をグリグリ撫でる。
    立香は村正に撫でられて「えへへ〜」とはにかむ。

    「……褒めてないぞ…」

    村正と同じ速度で歩いていたのは、アーチャーと双子の「オルタ」、立香からは『オルにぃ』と呼ばれている。アーチャーよりも肌色は濃く、髪型はバズカット。

    アーチャーとオルタは立香より5歳ほど年上で共に森の中を彷徨っていたところを村正に拾われて一緒に暮らしている。
    かく言う立香も、赤子の頃に森の中で捨てられていたところを村正に拾われた。
    祖父と双子の兄、血は繋がっていなくても立香にとっては大好きな家族。
    立香は村正たちと森で暮らす毎日が楽しくて、キラキラと眩しくて、新しくて、とっても大好き。

    これは、そんなある日に起こった
    とある出会いのお話。


    「よし、それじゃあ今日のやる事を話すぞ」

    村正は、アーチャーと立香に目を向ける。

    「アーチャーと立香は、きのみと山菜取りな。薬草も取ってくれると有り難い」

    「はーい!」

    「わかった」

    立香は元気に小さな右手を上げながら、アーチャーはコクリと頷きながら返事をする。

    「オルタは儂と狩りだな。今日は鳥あたりを狙うか」

    村正は肩の猟銃を背負い直しながらオルタへ顔を向く。

    「………」

    オルタは返事をせず、ただ静かに頷く。

    「じゃあ日が傾き始める頃には、このトネリコの木の麓に集合な。アーチャーと立香は森の奥には行かないようにな。特に立香ははしゃぎ過ぎるなよ。迷子になるぞ」

    「だいじょうぶ!リツカまいごにならない!」

    「ほんとか〜?まぁくれぐれも気をつけてくれ。アーチャー、立香を頼んだぞ」

    「あぁ」

    アーチャーは村正からの頼みにしっかりと頷く。
    立香はと言うと「えへへ」と笑ってごまかすけれど、その目はもう森の中の探検に向けられて、よく見るとキラキラと輝いている。
    どうやら待ち切れない様子。

    「それと、"獣人"を見かけたら迂闊に近付かないようにな。儂らは"賛成派"だが、向こうはまだ人間を警戒してるからな。怖がらせないように静かに立ち去るんだぞ。もし困っていたら儂を呼べ。いいな?」

    獣人──それは、人間と動物の特徴を併せ持つ人型。この世界では人間と獣人による、2つの人間種族が存在する。
    はるか昔から、人間と獣人の間では争いが起こっていた。けれど、多くのモノが傷付き、失い、悲しみ、そして憎しみ合う。そんな連鎖を断ち切るため、近年では人間と獣人との和解の道を進もうと、世界が変わり始めている。
    村正たちは、都から離れた森に住んでいるため、時折森を彷徨う獣人を見かける。
    けれど村正たちは怪訝することなく、迷っているならば優しく手を差し伸べる。言わば、人間と獣人との共同に賛成派である。
    それでもこちらの都合で、獣人たちを脅かしては駄目だと、村正は立香やアーチャー、オルタに日々言い聞かせている。

    「わかった!いつかオトモダチになれるかな?」

    幼い立香には、本当の意味は分からずとも獣人と仲良くなりたい気持ちがあった。

    「どうだろうな。向こうさん次第でもあるが、立香が信じていたら、いつかは成れるかもな」

    「うん!リツカ信じる!ぜったいオトモダチになってくれるもん!」

    そう無邪気に笑う立香の言葉に、村正は「そうだな」と立香の頭をワシャワシャと撫でる。

    「…じゃあ行くぞ、立香」

    「うん!」

    アーチャーの掛け声に、立香は元気よく頷いた。
    手には小さな籠を抱え、赤いずきんを揺らしながらぴょんぴょんと跳ねるように森へ入っていく。

    「待て立香、手繋がないとまた転ぶぞ」

    アーチャーは小さくため息を吐きつつも、立香の後を追いかけて小さな手を捕まえる。

    そんなやりとりに村正は苦笑しながら、肩の銃を担ぎ直す。

    「ま、アーチャーがいるから心配はないか。オルタも行くぞ」

    「……あぁ」

    村正とオルタも森の少し奥、鳥の気配が濃い場所を目指して歩き出す。


    森の中は、陽の光が木々の間から差し込み、穏やかな空気が流れている。
    鳥のさえずり、風に揺れる葉の音、踏みしめる土の感触。
    立香は全部が楽しくて、時折アーチャーの手を引っ張りながら、あっちへこっちへと視線を泳がせた。

    「アチャにぃ!サンサイいっぱい!あ!アレおくすりになるやつ!」

    村正と二手に分かれてから少し歩くと、きのみや山菜、薬草がたくさん生えた場所に辿り着き、立香の目はさらに輝いた。

    「わかったから、取り敢えずここの山菜を取ろう。次はそっちの薬草だな」

    アーチャーは苦笑しながらも、立香が指差した先へ目を向け、ひとつひとつ確認していく。
    アーチャーは葉の裏や茎を確かめながら、慣れた手付きで籠に詰めていく。

    「アチャにぃ、これは?」

    「ん、見せて」

    立香が両手で大事そうに抱えてきたのは、紫色の小さな実だった。
    アーチャーはじっと見て、少し考え込む。

    「それは…食べたらダメなやつだな。色は綺麗だけど、毒がある」

    「そっかぁ…」

    しょんぼりする立香の頭を、アーチャーはぽんぽんと優しく撫でた。

    「でも覚えておくといい。次に見つけても、もう間違えないだろ?」

    「うん!」

    また笑顔を取り戻した立香に、アーチャーも安心したように頷いた。

    「あ!アチャにぃ!あそこにリンゴ!」

    立香の小さな指が差した方を見ると少し先には真っ赤なリンゴの成る木が。

    「本当だ。よく気が付いたな」

    「えへへ〜、リツカえらいでしょ!」

    自慢げに胸を張る立香に、アーチャーはくすっと笑いながら「はいはい、えらいえらい」と頭を撫でた。
    二人は揃ってリンゴの木のもとへ向かう。

    「オレが登って取ってくるから、立香はここにいろよ」

    「リツカものぼりたい!」

    「立香はまだ小さいからダメだ。大人しくしてろ」

    アーチャーに言われて立香は「ぶ〜〜」と頬を含ませる。

    「怪我したら危ないだろ」

    そう言ってアーチャーは軽々と木に手をかけ、ひょいひょいと登っていく。
    その身のこなしは、まるで森の動物のように滑らかで、あっという間に枝の上に辿り着いた。

    「わぁ〜!アチャにぃ、すごい!」

    下から見上げる立香の声に、アーチャーは小さく笑いながら、赤く熟したリンゴをひとつもぎ取った。

    「色ツヤも良いな、数個も取れば十分そうだ」

    「アップルパイつくれるかな!」

    「そうだな、じいさんならきっと作ってくれるだろ」

    アーチャーは枝から次々とリンゴをもぎ取りながら、立香の期待に応えた。

    「やったぁ!リツカ、アップルパイだいすき!」

    両手を胸の前でぱちんと合わせ、立香は嬉しそうにくるくるその場で回る。

    その姿にアーチャーは優しく微笑むも、ふと太陽を見ると少し傾き始めていた。

    「立香、リンゴを取ったら、薬草探しながら一度トネリコの木に戻ろうか」

    「うん!」

    立香は元気よく返事をすると──

    「    」

    「……あれ?」

    何か、声がする。
    とても微かな、でも確かに、立香の耳に聞こえた。


    「立香?どうした?」

    木の上からアーチャーの呼び声に応えず、立香は耳をよく澄ます。

    「………っう、……うぅ……」

    それは"誰か"のすすり泣いた声だった。

    「!だれか泣いてる!いかなきゃ!」

    立香は咄嗟に声の方へと走り出した。

    「立香!?一人で行くなって、あぁ!もう!」

    アーチャーは慌ててリンゴの入った籠と共に木から飛び降りる。
    地面に着地すると籠を置いたまま、すぐさま立香の後を追いかける。

    立香は木々の間をすり抜けるように懸命に走り進んでいく。

    (泣いてるヒト、どこ?)

    立香はキョロキョロと顔を動かすと、近くの茂みの奥から声が聞こえ、立香は臆せずに突っ込んでいく。

    「ぷはっ!……あ」

    茂みを潜り抜けるとそこには──

    "白い毛並みの耳と尻尾を持つ"、立香と同い年くらいの小さな男の子が蹲っていた。

    「……おおかみくん?」

    立香の声に気付いたのか、耳をピクリと動かして顔を上げると金色の目からは大粒の涙がポロポロと流れていた。
    体全体は泥で汚れていて、よく見ると怪我もしている。

    「!ケガしてる!だいじょうぶ!?」

    「っ!ゔぅ…!!」

    立香が急に近付こうとすると、狼の男の子は怯えたようにビクッと肩を震わせ、耳をぺたりと伏せて掠れた声で威嚇をする。

    「あ、きゅうにちかづいてごめんなさい!でもリツカこわくないよ…!」

    立香は村正に言われた事を思い出して、近付くのを止めて慌てて両手を広げる。
    敵意が無いことを伝えたいけれど、狼の男の子は変わらず警戒を続ける。

    すると──

    「立香!」

    茂みの奥からアーチャーがようやく追い付いてきた。

    「あ、アチャにぃ!たいへんなの!ケガしてる子がいるの!」

    「え?……っ、獣人の子どもか」

    アーチャーはすぐに表情を引き締め、立香の前に立つようにして狼の男の子を見据えて、慎重に観察する。

    「……ケガしてるのは確かだな。泥だらけだし、それにだいぶ弱ってる」

    「アチャにぃ!たすけないと!」

    立香は懸命に訴えるが、アーチャーはすぐには頷かず、狼の男の子の様子と周囲の気配を確認する。

    「……とりあえず、仲間や大人の獣人が近くにいないか確認する。立香、おまえはここを─」

    アーチャーが言い切る前に近くの別の茂みからガサガサと何かが近付いてくる。

    「なんだ?声が聞こえると思ったらお前たちか」

    「何やってんだここで?」と茂みから出てきたのは狩りをしていた村正とオルタだった。

    「おじいちゃん!オルにぃ!」

    立香は二人の姿を見ては村正に近寄り狼の男の子の方へ指を向ける。

    「ここにね、ケガしてる子がいるの!」

    「ん?……獣人の子供…お前さん狼族か!」

    「……!!」

    村正とオルタは立香の指差す先を見やり、村正は目を開いて声を上げる。
    狼の男の子は村正の背負っている猟銃が目に入り、ビクリと身体を震わせ逃げようと動く。
    同時にジャラリと鈍い音が聞こえた。

    「…っ!!」

    狼の男の子はすぐに動きが止まり、顔は苦痛に耐えるようにしかめている。

    「…動けない?」

    アーチャーが眉をひそめ、狼の男の子の足元に視線を落とした。
    よく見ると、右足首には古びて錆びたトラバサミが絡みついており、地面の根っこに鎖と共に繋がれていた。

    「トラバサミの罠か…。この辺り一帯は全部取り除いたと思ったんだが、まだ残ってたのか…」

    村正は渋い顔でそう呟くと、狼の男の子に慎重に近付く。

    「…!ゔぅ…!」

    「あー、まて、怖がらなくていい。罠を外させてほしいんだ。そのままだと痛いだろ?」

    村正は宥めるけれど、狼の男の子は尚も威嚇を続ける。

    「じいさん、猟銃…」

    「ん?…あぁ、銃が怖いのか。ちょっと待ってろ」

    オルタから言われ、村正は肩から猟銃をそっと下ろすと、茂みの脇に置き両手も広げて見せた。

    「ほら、もう持ってねぇ」

    「………………」

    それでも狼の男の子は不安げに身を震わせたまま、じっと村正を睨んでいる。

    「…それでも駄目か」

    「どうするかな…」と村正は頭を掻く。立香はずっと不安そうに村正と男の子を交互に見る。

    男の子は酷く怯えているようで耳は完全に伏せていて、尻尾も後ろ足の間に巻きついたまま。
    喉は枯れているのか、ゼーゼーと苦しそうに息を吐き、身体はひっきりなしに震えている。その上、服も身体もボロボロの泥だらけ。
    傷もあちこちに付いている。中でも右足首はトラバサミの歯で赤く血だらけ。

    男の子は足の痛みからか、それとも怖さからか、
    金色の目からまたポロポロと涙が流れ落ちてきた。

    「……っ!」

    そんな顔を見た立香は我慢できないとばかりに、男の子に駆け寄る。

    「立香、待──!」

    アーチャーの制止も聞かず、立香は男の子のすぐ側にしゃがみこんだ。

    「だいじょうぶだよ…!こわくないよ、リツカ、こわくないよ!」

    そう言って、そっと自分の赤いずきんを脱いで、男の子の頭にふわりとかけた。

    「これ、リツカのおきにいりなの。あったかくてあんしんするの」

    不意に頭にかけられたずきんに、男の子はびくっとしたが、立香が優しく笑いかけると、不安げなまま動きを止めた。

    「いたいのとんでけ!ってしたらね、いたいのも、こわいのも、どっかいっちゃうの!」

    立香はそう言うと、男の子のケガしている足に添えるように小さな両手を向けて「いたいのいたいのとんでけー!」と大きな声でおまじないを唱える。

    村正たちはそんな立香の懸命な姿を見て動かずに見守っていた。少し苦笑を交えながら。

    「…どう?いたくない…?」

    数回ほど唱えると、立香は首をかしげて聞く。
    男の子は戸惑いながらも、頭の上の赤いずきんをそっと掴んだ。
    その手はまだ小さく、傷だらけで泥まみれ。それでも、その指先にほんの少しだけ、震えが治まった気がした。

    「……」

    男の子は、ずきんの下でじっと立香を見上げてコクリと僅かに頷いた。

    その仕草に、立香はぱっと顔を明るくして、男の子の手をそっと握った。

    「じゃあリツカのこと、こわい…?」

    「……」

    男の子は立香の言葉に、フルフルと首を振る。

    「よかったぁ!」

    にこっと笑う立香に、男の子は金色の瞳でじっと見つめ、そして……ようやく、ほんのわずかに、目の端が緩んだ。

    その様子に一安心とばかりに村正は口角を上げて、二人に近付き、しゃがみながら男の子に尋ねる。

    「よし、それじゃあ落ち着いたところで、そろそろ罠を外してもいいか?」

    男の子は一度ビクリと身体を震わせるけれど、「だいじょうぶ!おじいちゃんこわくないよ!」と立香の敵意のない真っ直ぐな瞳とその温もりにどこか身体の力が抜ける。

    「……」

    男の子は静かに頷くと、村正は「ありがとうな」と優しく微笑んだ。

    「よし、アーチャー。こっちに来てくれ。罠を外す」

    「わかった」

    村正はアーチャーを呼び、罠の噛み合わせを確認する。

    「相当錆びてるな……無理に開けば足をもっと痛める」

    「オルタ、ハンマーとクサビ持ってるか?」

    「……あぁ」

    オルタが無言で道具を渡すと、村正は慎重に楔をトラバサミの噛み合わせに打ち込んでいく。
    アーチャーは男の子に触れないようにトラバサミを押さえる。
    立香はその間も、男の子の手を優しく包んだまま、微笑んで見守る。

    「もうすこしだよ、がんばろうね」

    男の子はか細い息を吐きながらも、立香の手をぎゅっと握り返す。

    やがて、最後の一撃で「ガチャン」と鈍い音を立て、トラバサミが開いた。

    「よし、足に触るな?」

    村正がそっと男の子の足からそれを外し、泥にまみれた傷口を確認する。

    「傷は深いが、骨は無事そうだ。だがすぐにでも手当が要るな」

    「じいさん、取り敢えず止血」

    アーチャーはポケットからハンカチを取り出して村正に渡す。
    「サンキューな」と受け取った村正は、男の子の足に巻き付ける。

    「応急処置はこんなもんだな。あとは家に連れて行って、手当てと身体の泥を落とさないとな」

    「……?」

    男の子はキョトンとした顔で村正を見上げる。

    「お前さんの足、このままだともっと痛くなるから、家でしっかりと手当てしないといけねぇ。それにいつまでもここで一人でいるのは寂しいだろ?」

    村正はそう言って優しく微笑んだ。

    男の子はまだ不安そうな顔をしていたが、立香が手をぎゅっと握りながら笑いかける。

    「だいじょうぶだよ!リツカのおうち、こわくないよ!とってもあったかいの!」

    立香のまっすぐな笑顔に、男の子はパチパチと瞬きをする。
    震えていた指先は、立香に握られているうちに少しずつ和らいでいく。

    「おじいちゃんも、アチャにぃも、オルにぃも、みーんないっしょ!だからさびしくないよ!」

    「………」

    「いっしょに、リツカのおうちにいこ?」

    「………」

    立香はお日様のようなあったかい笑顔を向けながら、ぎゅっと男の子の手を握りしめた。
    その温もりに、男の子はぎゅっと口を閉じ、涙がこぼれ落ちるのを我慢しながら、ゆっくりと頷く。

    「ほんと!?」

    立香の顔がぱぁっと明るくなり、男の子はコクコクと何度も頷いた。

    「やったぁ!」

    立香は嬉しそうにその場でぴょんと跳ね、男の子の手をぎゅっと握ったまま、またにっこりと笑いかけた。

    その様子に村正もアーチャーも顔を緩める。オルタは無愛想な顔のまま、けれど僅かに口角は上げていた。
    村正は立香の頭を優しく撫でる。

    「よし、そうと決まれば早いところ家に戻るか」

    そう言うと、村正は自身の上着を脱いで立香のずきんごと、上から被せて男の子を抱き上げる。

    「………っ!?」

    「まだ怖いかもしれんが、お前さんを家まで運ぶ間だけ勘弁してくれ」

    男の子はびくっと身を強張らせたが、立香がすかさず近付いて、声をかける。

    「だいじょうぶだよ!おじいちゃん、やさしいんだよ!」

    男の子はじっと立香の顔を見つめた。あったかい笑顔に、不安でいっぱいだった胸の中がほんの少し、柔らかくなる。

    「………」

    小さく頷くと、村正も「いい子だ」と優しく声をかけ、男の子の身体が寒くないように上着の裾を包み込むように整えた。

    「あ!そうだ!おなまえきいてなかった。きみのおなまえなーに?わたしはリツカだよ!」

    立香はハッとして、男名前を聞いてなかったことを思い出し、男の子に聞いてみる。

    「……、あ…」

    「無理に喋らんでいいぞ。お前さん喉枯れてるだろ?家に果実水があるからそれまで我慢できるか?」

    男の子──カドックは、喉が乾ききっていて声を出すのも辛いのか、喉を押さえながらこくんと小さく頷いた。

    「だったら、さっきオレと立香が来た方向から帰った方がいいな。リンゴと薬草を取ったまま置いてきたから」

    アーチャーは先ほど自分が来た方向を指差し、村正に聞く。

    「そうか、じゃあそっちの道から帰るか。あ、オルタ。その銃は置いたままにしろ。まだ怖がってるからな」

    村正は、銃を拾おうとしたオルタに待ったをかける。
    オルタはちらりとカドックを一瞥し、無言で頷くと、猟銃を茂みの影に隠すように置いた。

    「おっし、じゃあ帰るぞ。立香、アーチャー、オルタ。お客さんを家まで案内してやらんとな」

    「うん!おうちかえったら、おなまえおしえてね!」

    立香は元気よく返事をし、カドックに寄り添いながら伝える。カドックはコクリと確かに頷く。

    「よし、じゃあ行くぞ」

    村正はカドックの体勢を抱え直すと、アーチャーが先頭に立って歩き出す。
    立香は村正のすぐ傍でぴょんぴょん跳ねるように歩きながら、時折カドックを見上げては「もうすぐだよ」「おうちにおいしいものいっぱいあるんだよ」と話しかけ続ける。

    オルタは無言で最後尾を歩きつつ、時折後方や周囲の気配を確認していた。

    森の木漏れ日の下、カドックはその温かさと、立香の屈託のない声に、少しずつ怖さが薄れ、次第に安心してきたのか村正の肩口に顔をつけるようになった。

    「あれ?どうしたの?」

    先ほどまで合わせていたカドックの顔が、不意に見えなくなり立香は首を傾げる。

    「……ちょっと眠たくなっちまったみたいだから、そっとしておいてやってくれ。それに立香、アーチャーが呼んでるぞ」

    「え?あ、うん!」

    立香はカドックを覗き込みたかった気持ちを抑えて、「アチャにぃ、なぁに?」と、ぱたぱたとアーチャーのもとへ駆け寄った。

    「…一人でよく頑張ったな…。もう大丈夫だぞ…」

    村正は立香が遠のくのを見守りながら、カドックの震える小さな背中を撫でる。

    「…………っ……」

    カドックは、村正の服を小さな手で掴みながら、小さな声ですすり泣く。
    その涙は、痛みや怖さだけではなく、張り詰めていたものがほどけた安堵の涙だった。

    「無理もねぇな……よく耐えた」

    村正は優しくカドックの背を撫で続け、その小さな嗚咽を静かに受け止めた。彼の掌は分厚く、けれどとてもあたたかくて、カドックは次第に震えを収めていった。

    「おじいちゃーん!」

    立香の呼び声に、村正は「おう」と返事をし、しっかりとカドックを抱え直す。

    「さぁ、もうちょっとだ。家に着いたら、腹ぁ満たしてやるからな。安心しな」

    カドックは顔を上げはしなかったけれど、ぎゅっと掴んだ村正の服の端を、少しだけ強く握り返していた。

    村正はカドックの小さな力に気づいて、そっと笑みを浮かべる。

    こうして、ちいさな"おおかみくん"は、"あかずきんちゃん"のおうちへと向かっていくのでした。
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