「空蝉」仮宿にしている廃ビルの、割れた窓ガラスの隙間から飛び込んできたスペードのエースのトランプ。
床に落ちたそれを拾った途端、
「僕は『スペード』の天城一彩。僕を喚んだのはどこの誰かな?」
トランプから煙と共に人が現れた。
初見なら驚くだろうが、怪人にとっては慣れきった光景で。
お決まりの文句と共に現れ、カードの持ち主に使役される存在。
「怪人タウラス、……お前のお兄ちゃんだよ」
使役する相手は誰でも良く、どんな命令でも聞く便利な道具。
なぜだか弟は俺と同じ怪人ではなく、そんな存在としてこの世に生まれ落ちてしまった。
「兄さん!何だか久しぶりだね」
一彩が嬉しそうに笑う。
「お前がトランプに戻ってフラフラ出かけちまうからだろ?こないだは怪人スコルピオに使役されてたって聞いたぜ?」
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