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    chimi_no_rabai

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    chimi_no_rabai

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    【サンプル】方舟荘へようこそ!
    A5/小説/50ページ
    「方舟荘」という名のオンボロアパートに暮らす、破壊者と世話人のゆる〜い現パロSS詰め合わせ本。再録と書き下ろし。複数CP要素あり。

    ##アルラス

    【サンプル】方舟荘へようこそ!方舟荘へようこそ!
      
      
     やぁ、僕はルフ。ただの管理人だよ。「管理人?」って思ったキミ、それはどこかの僕と勘違いしてるんじゃないのかな。
     ここは無数世界の果ての果てにあったかもしれない、そんな一つの可能性。キミのいる世界に似ているけど、決して混じり合わない、そんな世界だ。
     そうそう、僕は管理人だって言ったよね。僕が管理しているのは方舟荘。今どき珍しい木造二階建てのアパートさ。〝方舟荘〟ってネーミングは僕も安直すぎるかな、とは思ってるけど、決めたのは僕じゃないしね。
     ちょっと入居者たちの様子を覗いてみようか。
     おや、まだ日も昇ってない早朝なのに、起きてる人がいるね。ああ、うん。やっぱり彼だ。
     
      ◇
      
     【一〇一号室 イロンデール】
     
     イロンデールの朝は早い。
     彼の部屋に電気ケトルなどという洒落たものはないので、まずはヤカンを火にかける。昨晩セットしておいた炊飯器から炊きたての白米を茶碗によそい、冷蔵庫から納豆を取り出した。
    「……葱がなかったな」
     少しイラついた様子でそう溢すが、すぐに気を取り直して沸かした湯でインスタントの味噌汁を作る。座卓に麦茶を出せば朝食の完成だ。
    「いただきます」
     イロンデールはそう言って、しっかりと手を合わせる。これだけは昔、嫌という程に躾られた。
     よく混ぜた納豆を白飯の上に乗せ、豪快にかき込む。間で味噌汁を啜る。それを何度か繰り返して空になれば、最後に麦茶を飲み干す。ヤカンを火にかけてからの所要時間は、概ね十分だ。
    「ごちそうさま」
     食べ終わると、また手を合わせる。
     イロンデールは立ち上がり、座卓の上の食器を流しへ下げる。その足で冷蔵庫を開き、その前にしゃがみ込んで、一つ思案した。
    「大したものがないな。そうだ」
     何やら思いついたような様子で取り出したのは小さな瓶だ。仕事先のご婦人から「うちで漬けたのよ」と押し付けられた梅干しである。小さな瓶とはいえ、それなりの数が入っており一人で消費するのは一苦労していた。
     イロンデールは冷蔵庫から梅干しを取り出し、炊飯器から白米を器に取り出す。解した梅を入れて、熱いまま握る。
     半端に余った白飯だから、少し大きすぎるだろうが、まぁいいだろう。そう誰に言い訳するでもなく、握り飯を作った。洗い物まで手早く終わらせると、仕事に行く身支度をする。今日の現場を確認したら、出発だ。
     玄関を開ける前に、一瞬躊躇する。
    「……いってきます」
     これも、かつて叩き込まれた習慣だった。

     イロンデールは一〇一号室を出ると通路へは進まず、すぐ隣の一〇二号室へ向かい、戸を叩いた。
    「おい、起きてるか」
     ドン、ドン。今度は少し強めに叩く。
     部屋の中からゴソゴソと物音がしたと思えば、戸が開く。
    「おはよう、イロンデール……」
     姿を現したのは、黒髪の少年——クロウだ。
    「おはようさん。その様子じゃ今起きたみたいだな」
     イロンデールの言葉通り、今し方起きたばかりのクロウは寝起きで頭が回っていないようで「ああ……」だの言いながら、目を瞑れば壁にもたれてそのまま眠ってしまいそうな勢いである。
    「おいおい、立ったまま寝てくれるなよ。——これ、残りもんだが無いよりマシだろ。ちゃんと食ってから学校行けよ、ガクセーさん」
     そう言って、イロンデールは包んだ握り飯をクロウへ渡した。
     クロウはこの春から、ここ方舟荘で一人暮らしを始めた高校生だ。高校生で一人暮らしというのも珍しいが、どうやらかなり田舎から出てきたようで、どこかのんびりした空気が抜けきれない。真面目で勉強に部活にと頑張っているようだが、ちゃんと起きてるのか、朝飯くらい食べているのか、何かと気になって世話を焼いてしまう。かつて、自分が周りにそうされていた時はありがた迷惑だと煙たがっていたものだが、クロウは素直な性分なのか申し訳なさそうにすることはあっても、迷惑そうにすることはない。
    「いつも悪いな。でも、助かるよ」
     クロウは寝癖のついたまま、締りのない笑顔をイロンデールへ向ける。
     初日こそイロンデールの方が年上だからと敬語を使われたが、どうにも収まりが悪い気がして頼み込んで外してもらった。
    「それ食ったら、二度寝しないで朝練行けよ」
    「ありがとう。イロンデールも仕事か? 気をつけて」
     ああ、行ってくる。そう後ろ手で返事をしながら、イロンデールは方舟荘をあとにした。
     
      
     さて、イロンデールは仕事に行ったみたいだよ。そろそろ陽も昇ったことだし、さっきの一〇二号室の様子を見に行ってみようか。

    ーーーーーーーーーーーーー

    待ち人とは、思いもよらず
     
     
     梅雨の合間の晴れた日、イロンデールは久方ぶりの休みに二度寝を決め込んでいた。網戸にした窓からは朝の爽やかな風が吹き込む。外からは道行く人々の声や生活音が流れてくるが、それさえも耳に心地よい。
     そんな具合でイロンデールがうとうとと夢と現を行き来していた頃、トラックの止まる音がした。そして、騒がしく何かを始める。荷を降ろす物音や掛け声が響き、薄い掛け布団を頭から被っても物音が一度耳につくと、どうにも気になってしまった。
    「ったく、いったい朝から何の騒ぎだ」
     せっかくの眠りを中断されたイロンデールは不機嫌そうにそう呟くと、これ以上は眠れそうにないと諦めて体を起こした。
     簡単に朝食と身支度を済ませると、先程からの物音はどうやらこの方舟荘で起きていることに気がつく。誰か、新しい入居者でも来たのだろうか。確か一階と二階にそれぞれ空き部屋があったはずだ。そんなことを考えていると、今度は部屋の前から話し声が聞こえてきた。薄い扉越しから聞こえてくる声からして、隣の部屋の高校生と管理人が何か話しているようだ。少し、様子を見に行ってみるか。イロンデールは素足にサンダルを引っ掛けると戸を開けた。

     廊下ではイロンデールの予想通りにクロウとルフが立ち話をしていた。クロウも今日は学校や部活は休みなようで、上下ジャージとラフな格好をしている。イロンデールと同じく物音で目が覚めて出てきたばかりなのか、後ろ髪が少し跳ねているのには気づいていないようだ。
    「イロンデール、おはよう」
     戸の開く音に気づいたクロウがそう声をかける。
    「君も出てきたんだね」
     ルフは一〇三号室の前に立ちイロンデールに声をかけながらも、業者と思われる男と何やらやり取りをしている。
    「朝っぱらからこんな物音立てられちゃな。誰か越してくるのか?」
     イロンデールは片手で欠伸を隠し、もう片方の手はタンクトップの上から腹を掻いた。
    「うん、このあと新しい人が来るよ」
    「どんな人だろう。イロンデール、楽しみだな」
     クロウはルフの話に興味津々と言った様子で聞いている。しかし、せっかくの貴重な休日の朝に横槍を入れられたイロンデールにとっては、興味よりもまだ見ぬ住民への不満が先に立つ。
    「誰でも知らねぇが、こんな朝早くからうるさくされたらたまっちゃもんじゃねえな」
     イロンデールの物言いにクロウも苦笑いを浮かべていた。朝といっても普段のイロンデールならばとっくに家を出ている時間ではあるのだが、休日の朝の特別感はクロウにも思い当たる節があるので何とも言えない。
    「荷卸しが終わる頃にはここに着くと聞いていたから、そろそろ来るんじゃないかな?」
     ルフがそう話していると、通りに面した建物の角から歩いてくる影が視界の隅に映る。
    「イロンデール、久しいな」
    「っな!」
     その男は大きな体躯に似合わず目尻を下げて、驚くイロンデールへと声をかけた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    パスカルくんは合コンに行きたい 

     
     午前中の講義が全て終わり、学食は昼食を食べに来た学生で溢れている。カフェテリア形式の食堂には長い列ができて、広い空間に簡素なテーブルと椅子が所狭しと並べられていた。グループで盛り上がる人、端末を片手に待ち合わせをする人、一人でゆっくり食事を摂る人、様々な学生が思い思いに過ごしている。
    「いたいた、やっと見つけたよ」
     パスカルは両手に抱えていたトレイをテーブルに置くと、先に席をとっていたオウィの隣へ座る。
    「ちょうど窓際が空いていたので、タイミングが良かったですね」
     オウィはデイパックから保冷バッグを取り出して、そう答えた。
    「今日は何を作ったんだい?」
     パスカルが横から覗き込めば「大したものではないですよ」とオウィは弁当箱の蓋を開ける。アスパラの肉巻きに金平ごぼう、卵焼き、彩りにミニトマトが添えられていた。下段には白ご飯が敷き詰められ、これも手作りであろう、おかかのふりかけがかけられている。
    「美味しそうだな」
     後ろから聞こえた声に振り返れば、コルネイユが立っていた。パスカルの正面にトレイを置くと、コルネイユも椅子を引く。パスカルのトレイには日替わりの目玉焼きハンバーグ定食、ライスとサラダ、デザートにヨーグルトも添えられている——が乗っている。コルネイユのトレイには生姜焼き定食に大盛りの白ご飯が艶々と光っていた。
    「みんな揃ったね、冷めないうちに食べようよ」
     パスカルは意気揚々と手を合わせて「いただきます」と声に出す。コルネイユとオウィもそれに倣うと箸を手に取った。
     パスカルが目玉焼きに箸を入れれば、半熟の卵からトロリと黄身が溢れる。デミグラスソースのかかったハンバーグにそれを絡めて口に入れると素朴な旨みが口に広がった。コルネイユも味噌汁を一口啜り、生姜焼きを口に運ぶ。そのまま熱々の白ご飯をかきこめば、タレが白ご飯に絡み、箸が進んだ。オウィは二人の様子に笑みを浮かべながら、卵焼きを一つ口に入れる。うん、今日も上手に焼けたな。明日は具を入れて味付けを変えてみてもいいかもしれない。そんなことを考えていた。
    「そうそう、二人に聞いてみたいことがあってさ」
     パスカルはペーパーナプキンで口元を拭くと、真剣な表情を作る。
    「二人とも、合コンって行ったことあるかい?」
    「っ、ゲボっ」
     予想もしなかった言葉がパスカルの口から出て、思わず噎せたオウィは胸元を叩く。「大丈夫か?」とコルネイユが声をかければ、制するように片手を出した。
    「どうしたんだ?」
     まだ話せそうにないオウィの代わりに、コルネイユが尋ねた。パスカルの話は常日頃から突然始まる節はあったが、ここまで突拍子もないのは珍しい。そもそも、これまでゼミやサークルの飲み会も断りがちだったパスカルが、合コンに興味を示しているのも理由がわからない。
    「だって、君たちは時々女の子から誘われてるだろ? 僕だってせっかくの大学生活なんだから合コンくらい行ってみたいって思っちゃダメなのかい?」
     オウィは物腰柔らかな雰囲気から女子の多い文学部ではそれなりに人気があり、コルネイユも見た目の近寄りがたさとは裏腹にその優しい性格を知ると同じ教育学部の女子から声をかけられることが度々あった。
    「誘われても、行くか行かないかは別だ。そもそも、彼女が欲しいからと無理に行くような場所でもない」
     コルネイユが意見を述べても、パスカルには大学生活を楽しむ=彼女を作る=合コンに行く、その図式がすっかり出来上がっているようで、納得いかない様子である。
    「あーはいはい、二人はモテモテだもんね。でも、僕は自分から頑張らないとダメなんだよっ」
     食べ終わったトレイを横に避けると、パスカルはテーブルの上で腕を伸ばしてそこに頭を乗せる。
     まるで駄々っ子のようだな。ともすれば、少し幼くも見えるその仕草にコルネイユは笑みを浮かべた。
    「僕はこのまま彼女一人も作れずに大学生活を終えてしまうのか〜」
     頭を抱えて一人で話を進めるパスカルに、コルネイユとオウィは目を合わせて二人で苦笑いをするほかなかった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    それでは良い週末を


    「ちょっとイネイド! 行けないってどういうこと? もう、まだ話終わってないのよ!」
     鍵を取り出そうとドアの前に立っていたコルネイユは、カンカンと高い音を立てて階段を降りてくる足音と話し声に自然と目を向けた。音の主はいつものように賑やかしいシュカであったが、今日も何か起こしているようだ。しかし、他人の電話を盗み聞きするような趣味もない。そっと音を立てぬように気配を小さくして、鞄の中から探し当てた鍵をドアに挿す。鍵にぶら下がる龍と鈴のついたキーホルダー——これは友人から旅行土産にもらった物で決して自分の趣味ではないのだが、が軽やかな音を立ててながら錠を回した。そっと開いたはずだったが、建て付けの悪くなった古いドアはコルネイユの予想よりもずっと大きな音を立て、その音はちょうど階段を降りたシュカの耳に届く。
    「あら、コルネイユじゃないの! ちょうど良かったわ」
    「僕には何がちょうどいいのかわからないんだが」
     コルネイユは半分ほど開きかけたドアをとりあえず閉める。こうなっては彼女の話を一通り聞くまではこのドアを再び開くことはできないだろう。さして付き合いがあるわけではないアパートの隣人ではあるが、その少ない付き合いの中からでもシュカの性格はコルネイユなりにわかっているつもりだった。
    「何よ、面倒そうな顔をして。失礼ね」
    「別にそんなつもりはない」
    「ふふっ。このシュカ様が持ってきた話なんだから、いい話に決まってるじゃないの!」
     そうもったいぶってみせたシュカは、小さなハンドバッグをゴソゴソと漁る。そして何かの紙切れを取り出した。
    「ねえコルネイユ。私と焼肉、行かない?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    元いた場所に戻してきなさい!

     
    『……ところにより、一時雨となるでしょう』
     今朝の天気予報では、にこやかに女性キャスターがそう告げていた。でも、ところにより、一時、だ。だから、僕がほんのちょっとコンビニに出かけるくらいの間なら大丈夫って思っていた。
     ルクは文字通りバケツをひっくり返したような雨に降られていた。今更走ったところでもうすっかり濡れ鼠なことは変わらないのだが、靴の中までぐっしょりと濡れる不快感から早く解放されたい、そんな思いで方舟荘への道を必死に走る。一刻も早く帰って、温かいシャワーでも浴びたい。リュックに入った漫画雑誌はなんとか前に抱えて死守したが、その代わりに髪も服も靴も全てが犠牲となった。
    「うう、寒い……。ルカがうるさいだろうな」
     傘はいいの? そう出がけに声をかけられた気がしなくもないのだが、それよりも今日発売の漫画雑誌のことで頭がいっぱいだった。クライマックスを迎えたあの少年たちの戦いがどうなるのか、それを早く読みたくて学校も寄り道せずに帰ったのだから。
     やっと見えてきた方舟荘、階段を駆け上がろうと向かったところで黒い塊が視界に飛び込んだ。今まさにルクが駆け上がろうとしたその階段の裏手に黒い塊——スーツを着た男、が座り込んでいたのだ。
     その男は元はふわふわと柔らかい質であろう髪をしっとりと濡らし、スーツの色がすっかり変わるほどに濡れそぼっている。膝を抱えて小さく座り込んでいるが、ルクが知る限りこの方舟荘の住人ではない。知らない男に声をかけるのもどうかと思うが、その肩が小さく震えているのを見つけると放っておくことができなかった。
    「ねぇ、そこで何してるの?」
     階段越しに声をかけると、その男はビクッと大きく肩を揺らす。そっと振り返ると眉を大きく下げて、口をモゴモゴとさせていた。
    「怪しい人なら警察呼ぶけど」
    「っち、違う!」
     こんなところに座り込んでる時点で十分に怪しいと思うけど。ルクは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
    「じゃあ、何?」
    「う、それは、その……道に迷って、帰れなくて、雨が降ってきて……」
    「……はぁ。よく分からないけど、悪い人じゃなさそうだからうちに来なよ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    これは一度きりの夏だから


     真っ白な入道雲が浮かび、アスファルトを太陽が照りつける。陽炎さえ生み出すような光はその高度を落としても弱まらず、生温い風が頬を撫でた。ジリジリと首筋が焼ける音さえ聞こえる気がして、こめかみを流れる汗を拭う。
     フルーの眼前にはその道を阻むような門がそびえ立ち、その先には白亜の校舎が連なっている。同じ年頃の生徒たちが何食わぬ顔をしてくぐり出てくるが、まだ部外者である自分にとっては決定的な境界線がそこにあった。あと一月もすれば同じ制服を着て、同じようにあの校門をくぐるのだろう。何が起こるかわからない、自分の知らない未来の話。そんな当たり前のことが不思議で楽しみで、思わず口元が緩んだ。
    「さて、そろそろかな……?」
     まばらに出てくる生徒たちを見やる。道路を挟んで反対側、低いブロック塀の上に腰掛ける自分など彼らにはほんの風景の一つでしかないのだろう。一瞬の視線を感じても、何事もなかったかのようにすぐにそれを外される。もしかしたら、この先同じ教室で過ごすことになるかもしれない、これから出会うかもしれない人達。一体どんな人達なのだろう。取り留めのない思考を巡らせていたところで、見慣れた黒髪が門をくぐった。フルーは軽く勢いをつけて飛び降りると、自転車へ乗る生徒に駆け寄る。
    「クロウ!」
    「……フルー! びっくりした。どうしたんだ?」
     突然呼び止められたクロウは、その大きな目を更に見開いてフルーを見ていた。そのことに満足したフルーは蒸し暑さと不快感がどこかに消えるのを感じる。
    「散歩ついでにどんなところか見に来たんだ。と言っても、中には入れなかったんだけどね」
    「そうか」
    「クロウは今から帰りだろ? せっかくだから一緒に帰ろうと思って」
    「ああ。待たせて悪かったな」
     クロウは自転車から降りると、ゆっくりとそれを押す。フルーはその隣に並んで歩き始めた。
    「いいよ。暑かったけど、おかげでいいものも見れたし」
     フルーが小さく笑うと、クロウは何のことか分からず首を傾げる。しかし「フルーが楽しかったのならそれでいいのだろう」、そう答えを出したようですぐに顔を前へ向けた。
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