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    chimi_no_rabai

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    (2022.4発行「黄昏時に何を想う」より」
    フォルカー【聖夜】とジェイク【黄昏】

    ##アルラス

    フォルカー【聖夜】 ツリーにリース、今年はどこからか〝電飾〟なんて物まで持ち込まれ、クリスマス・イブの方舟はこれでもかとばかりに飾り立てられていた。クリスマスという慣習に馴染みはなかったが、二回目となると楽しみ方も分かってきたものだ。
     ジェイクは心ゆくまで仲間たちと酒を楽しんだあと、視界をゆらゆらと揺らしながら自室へと向かっていた。
    「さすがに飲みすぎたか」
     先程から真っ直ぐ歩いているつもりが、どうやらそうでもないらしい。手すりや壁に頼りたくとも、ここぞとばかりに飾られた装飾品を壊すわけにもいかないのでどうにか自力で進むほかない。一緒にグラスを傾けていたフォルカーは食堂を離脱することすら難しいようだったので、今頃テーブルに突っ伏して寝息を立てているだろう。
     数歩進んでは立ち止まり、また進む。ジェイクが再度足を進めようとすると、人影が見えた。
    「すまない、ちょっと肩を貸して……?」
     これは助かる、とその人影に声をかけたが、どこか違和感がある。よくよく見ると、それは食堂で今頃夢を見ているはずのフォルカーだった。
    「フォルカー? 起きたのか?」
    「あー、いや、ちょっと……」
     歯切れ悪くそう言う。先程まで酔い潰れていたはずのフォルカーだったが、どんな魔法を使ったのか今はスッキリとした顔をして立っていた。
    「フォルカー、これなんだ?」
     揺れる視界の中でもはっきりと見えたツノ。そう、目の前のフォルカーにはなぜかツノがある。
     よく見ると兜のようなものを被り、それにツノが生えているようだ。見慣れない格好もしているし、顔はフォルカーなのにどこか違うような気もしてくる。ジェイクはフォルカーの肩を掴んでじっと顔を覗き込んだ。
    「その、俺は……」
    「お前、なんで酔ってないんだ?」
     ずるい。俺はこんなに酔っているのに。
    「よし、俺の部屋で飲み直すぞ」
     明日は一緒に二日酔いを乗り越えるぞ! そう固く誓った親友の裏切りなど許していいはずがない。
     ジェイクは逃がさないとばかりにフォルカーの腕をしっかりと掴んだ。
    「フォルカー、何を持ってるんだ?」
     見慣れない真っ赤な帽子。まさか自分で被るわけではないだろう。その帽子はサンタクロースとやらが被る帽子そのもので、一体どうしてフォルカーがそんな物を手にしているのか全く分からない。
    「だから……、俺は! お前の知ってるフォルカーじゃないんだ!」
     なんと、この目の前のフォルカーは、眼帯を着けたフォルカーや腹を出したフォルカーや槍を持ったフォルカーのように、俺とは別の世界のフォルカーであり、それも聖夜の世界……あの赤い服を着た少女たちと同じ世界から来たのだと言う。
    「フォルカーが増えるなんて聞いてないぞ?」
    「今日はちょっと、落とし物を取りに来ただけだ。そそっかしい相棒がうっかり大事な帽子を落としちまったから、代わりに拾いに来たってわけさ」
    「相棒?」
    「俺たちの世界のお前、ジェイクだよ」
    「へぇ、俺もいるのか」
    「上で待ってるから早く戻ってやらねぇと、次が詰まってるからなぁ」
    「そうか、結構忙しいんだな」
    「そう言うことだ。せっかくだから、あとでお前の分のプレゼントも何か用意するぜ。何がいいんだ?」
    「それ直接聞くのか?」
    「サンタクロースは聞かなくても分かるらしいが、俺は生憎トナカイだからな」
     そう言ってフォルカーは頭上のツノを指さす。
    「そうだなぁ。プレゼントは頑張ってるあの子たちにあげてくれ」
     あの子たち。ジェイクは今頃夢の世界にいるであろう最愛の妹とレジスタンスの後継者を思い浮かべていた。
    「お前も人がいいな。じゃあそれ伝えとくわ」
     フォルカーは後ろを向いて窓枠に足をかけようとする。
     直後、
    「うわっ!」
     ガシリ。
     ジェイクが両の手を使ってしっかりとフォルカーのツノを握りしめていた。
    「へぇ、ツノってこんな感じなんだ」
    「や、やめろ! ツノに気安く触るんじゃねぇ!」
     思わずフォルカーは叫び声をあげ、ジェイクの手を振り払う。
    「ははっ、すまない。つい気になってな。もう触らないから許してくれ」
     この通り、とばかりに両手を顔の前で合わせられる。
    「……もう他のトナカイに会っても触るんじゃねえぞ!」
    「分かった分かった」
     それじゃあ、今度こそ。そう言わんばかりにフォルカーが再び窓枠に足をかける。
    「フォルカー」
    「ああ? まだ何かあったか?」
    「メリークリスマス!」
    「……! そうだな、メリークリスマス!」
     言われたのは初めてかもしれないなぁ。そう思いながらフォルカーは窓枠を蹴り、夜空へと駆け上がる。
     その後ろ姿を揺れる視界の中、ジェイクはずっと見送っていた。
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