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    chimi_no_rabai

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    (2022.4発行「黄昏時に何を想う」より)
    ジェイク【聖夜】とフォルカー【黄昏】

    ##アルラス

    ジェイク【聖夜】 十二月二十四日。世間で言うところのクリスマス・イヴ。今日この日は方舟内もどこか浮き足立った空気が流れていた。
     子ども達はサンタクロースへの夢を膨らませ、大人達はこれ幸いとばかりに酒盛りをしている。
     少し前まで食堂でも食事に酒に、と賑やかな空気が流れていたが、日付が変わる頃には静まりかえっていた。一度部屋に戻り休んだものの、ふと目の覚めたフォルカーは喉を潤しに食堂へと向かう。
    「さすがに飲み過ぎたな……」
     一緒にグラスを傾けていた傭兵稼業を営むあの男は、ザルを通り越して最早ワクとも言える。それに付き合っていればこうなってしまうのも致し方がないような気がしていた。冷たい水を飲むと、少し酔いも覚めたような気がする。
     食堂から出て、自室へ足を向ける。
     ——リン、リン。
     何か、音が聞こえなかっただろうか。
     フォルカーは辺りを見渡すが、誰の姿も見当たらない。聞き間違えかと思い、再び歩き始める。
     ——リン、リン。
     やはり。鈴の音が聞こえる。しかし、一体どこからだ? 音がする方へ足を進めると、一つ窓が開け放たれ、人影が見えた。
    「一体誰だ? まさか、こんなところに泥棒ってことはねぇと思うんだが……」
     生憎のところ、愛用の剣は自室に置いたままである。しかし、不審者だった場合このままにしておくこともできない。フォルカーは気配を殺し、そっと人影へ近付いた。
    「おい、そこにいるのは誰だ?」
     窓から差し込む月明かりで、こちらから顔は見えない。背格好からするに男のようではあるが、大きな荷物を持っていた。
    「おっと、見つかってしまったな」
     今、誰の声がしただろうか。フォルカーは思わず耳を疑った。顔を確かめるべく、その男へ近付く。よく見知った、オレンジ色の髪が月夜に照らされていた。
    「お前、ジェイク……か?」
    「ああ、そうだ。俺の名前はジェイク」
     確かに、その男の顔も声も、フォルカーのよく知るジェイクではあった。しかし、まとう雰囲気や見たこともない格好は、まるで彼の知るジェイクとは似ても似つかない。
    「俺は聖なる夜を司る世界からやってきた——こちらの言葉で言うと、サンタクロースってやつだな」
     本当は誰にも見つからないようにしないといけないんだ。
     そう付け加えながら、聖夜の世界から来たというジェイクはからりと笑う。
    「聖夜の世界、か。確かに、ここにもそんな世界から来たって言うやつはいたな」
     フォルカーは赤いスカートを履いた少女二人を思い浮かべた。
    「ああ、ここにも聖夜の世界から来た者達がいたな。というわけで、俺のことは黙っておいてくれよ」
     その代わりに……。
     そう言いながら、ジェイク【聖夜】は、手に持っていた大きな白い布袋に手を差し込む。
    「君にも何かプレゼントをあげよう。君の欲しい物がきっとこの中にもあるはずだ」
     ジェイク【聖夜】は袋の中を探るように手を動かす。しかし、すぐに眉根を寄せた。
    「おかしいな、見つからない。君、何が欲しいんだ? 新しい武器か、旨い酒か?」
     首を傾げながら尋ねるジェイク【聖夜】にフォルカーは答えを探す。俺が今、欲しいものは。
    「あー、俺の欲しいものはもう手に入ったからな」
     自分を変えてくれた男、もう二度と会えないと思っていたがここで再会できた男。フォルカーは今頃夢の世界にいるであろう男を思い浮かべた。
    「そうか。じゃあ、俺たちの出る幕はないな」
     フォルカーの答えが分かったのか、ジェイク【聖夜】は袋から手を戻す。
    「それで、そっちの世界にも俺やブリッタはいるのか?」
     フォルカーが疑問を投げかければ、ジェイクは一瞬間を置いて、笑みを見せる。
    「ああ、いるぞ。二人とも大切な仲間だ。ブリッタは俺と同じようにプレゼントを配って、フォルカーはソリを引いているぞ」
    「ソリ……、それってつまり」
     フォルカーは方舟で聞きかじった「サンタクロース」の物語を思い起こす。
    「俺の世界のフォルカーはトナカイだ。頼りになるトナカイだぜ」
    「そうか……、そっちの俺にもよろしくな」
     何とも言いがたい胸中ではあるが、ジェイク【聖夜】の笑顔を見ると何も言い返せない。
    「じゃあ、俺は行くよ。今夜は大忙しだからな」
    「ああ、気をつけてな」
     ジェイク【聖夜】は来た時もそうしていたのか、窓枠に足をかける。
    「そうそう、これは俺からの心ばかりのプレゼントだ」
     ——パチン。
     去り際に、小さく指を鳴らした。
    「メリークリスマス! 聖なる夜、君にも幸せが降らんことを!」
     ジェイク【聖夜】が飛び立った空には月が消え、満天の星空が広がる。そして。
    「……これは、雪か」
     ひらり、ひらり。舞い落ちるような淡い粉雪が空から降り始めた。
    「ったく、かっこつけやがって」
     でも、こういうのも悪くないな。
     
     ——リン、リン。
     遠くで、鈴の音が聞こえた。空高くに何かが光る。きっと、次の場所へ子ども達に夢を贈りに行っているのだろう。
    「さぁて、俺も寝るかな」
     明日の朝には届いたプレゼントに目を輝かせる子ども達の相手で忙しくなりそうだ。
     そう思いながら、フォルカーは今度こそ自室へと足を進めた。
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