書きたいとこだけかいた金綱+斎山「わりぃ、ちょっと一服してきていいか」
そう言って、金時が中座してから10分が経った。腕時計から顔を上げた綱は、グラスに残っていた一口のグラッパを飲み干す。
「……」
「……」
「……」
伏せられた綱の睫から視線を外し、隣にやれば目が合う。眼鏡のむこうからこちらをみる目は自分と同じ気持ちであることがみてとれて、斎藤は一度無意味にぐるりと辺りを見回してから、綱に向き直った。
「ちょっと見てきたらどう?」
「そうだね、外で体調が悪くなっていると心配だし……」
ね、と山南が添える。綱は、コク、と小さく頷いて立ち上がった。
「すまない、少し様子を見てくる」
「いってらっしゃい」
上着も持たずレストランを出て行く。その後ろ姿を見守りながら、二人は深くため息をついた。
駐車場の隅に、申し訳程度の喫煙スペースがある。
屋根も壁もなく、とりあえずガードレールで囲われただけの場所だ。一筋、夜空に向かって伸びる白線をみつけ、綱は小走りに道路を渡った。
「金時」
のっぺりと鞣された革の質感は夜に溶けて、背中が見えない。声を掛けると、月と揃いの色をした髪が振り返った。
「おお? どうした」
「ああ、いや……」
ふう、と吐き出された息が白い。ほんのりと甘い、煙草のにおいが空気に染みている。煙草のにおいはあまり好きではない。休憩といってはスーツにその匂いをしみこませてくる同僚をあまり快く思ってはいなかったのだが、この香りは何故か嫌いではない。種類が違うのか、なにが違うのか、綱にはよくわからなかった。
「わりいな、コレ終わったら戻る」
コレ、としめした煙草はもう殆ど終わりかけだ。もう少し待っていたら戻ってきたのだろう。一人の時間を邪魔したかもしれない。もしくは、何か気に障ることでもあっただろうか。
綱は元々、こんな風に金時に対して思うような関係ではなかった。だが、ここのところ、その感情が少し変化しているのだ。今までだったら気にもしなかったような己の至らなさが、ひどく気にかかる。それを表に出すようなことはしていないが、それでも、内心よく考える。
「……キレーだな」
金時が、煙を吐いて言う。
「?なに」
「月」
ほら、と吸いさしを挟んだ指で天をさす。
「すげーなあ」
「……」
言われるままに見上げた空には、綱の目の前にあるものと揃いの金が浮かんでいる。
「ああ……美しいな」
「……なあ、兄貴」
「うん?」
「あー……いや、なんでもね」
「そうか」
「おう」
「……なあ、金時」
「ん?」
「…………いや、もう、戻らないか」
「おお、これ以上待たせたら悪いよな」
綱は、うんと頷いて喫煙スペースから出てくる長い脚についてレストランへと戻った。