つなさんにだって怖い物はありますこの映画見ようぜ、と友人から借りてきたブルーレイを誇らしげに掲げて部屋に入ったのが2時間前。
恐いと評判の映画を借り、金時は意気揚々と部屋の明かりを消してソファーにこしかけた。
部屋の主である恋人の綱は、相変わらず硬い表情でわかったと頷き、隣に座って大人しく画面を見つめていた。
内容は、まあ、ありきたりのホラーだった。
人間同士のいざこざ、憎悪、因縁からの呪いに、禁忌への觝触。
後半は、半ばアクションものの様相を呈し、血と暴力と理不尽な殺戮、という感じだった。
一応は邦画として民俗学的な観点からの恐怖を描いたりなどもしていたが、金時としてはまあなるほどね、という出来であった。
この映画を一生懸命つくったひともいるわけで、批判をするわけではないが、金時を恐がらせるほどではなかった、が正解だろう。
昔から、どうしてか何事も俯瞰してみてしまう時があるのだ。
綱もそうだろうと思う。
脅かせばビックリすることはあるかもしれないが、恐がるというタイプではない。
「まあ、こんなもんか」
クレジットの途中で呟いた。
隣でじっと画面を見つめていた綱は、うんと頷くと余程退屈だったのか、少し休むといって、そのまま寝室へ行ってしまった。
あわよくば、少し恐がってくれたら新たな一面が見れるかも知れない、などというすけべ心がいけなかった。
まだスタッフロールは続いていたが、画面を消しディスクをケースにしまう。
テーブルに置かれた殆ど手の付けられていないコーヒーを片付けて、恋人がいるはずの寝室へ向った。
ベッドには一つ、小山が出来ていた。
掛け布団の隙間から、雪兎のような白銀が覗く。
「……」
おかしい。
ねむるからといって、頭まで布団をかぶるだろうか。
「……」
まさかと思う。
あの、綱に限ってそんなことはないはずだ。
「兄ィ?」
「……」
返事はない。代わりにかすかに小山が震えた。
「大丈夫か……?」
「……」
そっと盛り上がった布団を覗き込む。
髪と布団の隙間からまっ黒い瞳が、ちらりと金時を捕らえた。
「……まじか」
「……」
「兄貴」
「……」
「ごめん」
「何が」
「駄目だって、知らなかった」
確かに、下心としてちょっと恐がってくれたら可愛いな、とか新しい一面がみれるかも、などとは軽率に考えたが、独りで恐がらせるためではない。
「なあ、ごめん、すまねえ」
「……」
「布団、入れて?」
「……うん」
もぞりと布団が持ち上がる。隙間に身体を滑り込ませて、縮こまっている恋人を抱きしめた。