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    hagiw0

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    hagiw0

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    平安時代に思い合っていたけど何もなかった金綱が、カルデアで結ばれる話のダイジェストみたいななんか。
    平安時代のモブ貴族からあれやこれやあり。

    ##きんつな

    白の秘匿大きな手が、ゆっくりと白い首に触れた。まるで、触れたら壊してしまうとでも言うように。指先は哀れなほどに緊張している。首の筋を辿り、詰め襟の隙間に潜り込む。
    そして、止まる。
    こくん、と雄々しく盛り上がった喉仏が上下するのをみて、綱は己の手で詰め襟の留め具を外した。
    ぷつん、ぷつん、と。
    徐々に面積を広げていく白に、金時は大きく息を吸った。
    「金時、」
    「っ」
    「金時、見ろ」
    「あっ」
    はっと、目を見開くのがわかる。夕暮れ色をした硝子に阻まれて、その美しい碧が見られないことが、綱は不満だった。
    「……まっさらだ」
    「ああ」
    「ああ、兄貴……兄ィっ!」
    がばりと抱きしめられる。軋むほどに抱かれ、綱はほうっと息を吐いた。重なり合った胸がじわりと体温を伝えてくる。混じり合った熱は次第に温度を上げ、ジンジンと痺れるようだ。
    「きんとき、くるしい」
    半分嘘で、半分本当だ。その、蒼い目に何に邪魔されることなく見つめられたい。
    金時は、恐る恐る身体を離し、湿度の高い目で綱を見つめた。離されたといっても、綱に自由はない。腕の中でなんとか身体を動かして、ふたりを隔てるサングラスに手を伸ばした。
    「ちゃんと、見ろ」
    「!」
    伸び上がって、額を合わせる。銀と金が混じり合って、くしゃりとほどけた。
    睫が触れあうほどの近さで、その碧をのぞき込む。今にも溶け出しそうな硝子玉は、空を凝らせたようだった。
    「兄ィ……つな」
    「うん」
    「ああっ」
    言葉にならない、とでも言うように金時は再び力一杯綱を抱きしめた。今度は、綱も何も言わず、燃えるような腕にじっとその身を預けたのだった。

    ・・・

    二人は恋仲であった。否、世間一般の言う、恋仲というには程遠かったかもしれない。それでも、二人の心は同じ感情を携えていた。
    だが、それを言葉にしたことはなかったし、態度で示したこともなかった。ほんの時折、互いの視線が想いを伝え合う程度であった。歌を交わすことも、夜を共にすることもなく、そういう意味を持って、触れあったこともなかった。
    たった一度だけ、口づけを交わしたことが、最初で最後の、行為であった。
    いつだったか、鬼退治に山へ入ったときだった。鬼は一向にみつからず、代わりに鬼のような花が、辺り一面で首を擡げていた。
    噎せるような香りに、浮かされたのかもしれない。金時は大木に綱を押しつけ、二人は唇を触れあわせていた。離すと、綱の睫がやたらにゆっくりと持ち上がったのを覚えている。
    その後は、何事もなかったように鬼を倒し、都に戻った。
    それだけである。
    二人は互いの気持ちを知り、そしてそれを殺すことを選んだのだった。そうすべきだと、知っていたのだ。
    そんな、あるとき、二人の中にひどく重たい杭を打ち込む出来事がおきた。
    その晩も、綱は大きな月の下、己の陰が地面に染みるのを眺めていた。じゃりじゃりと、草履が地面を擦る。
    いやだと思う心はなくしている。これは、すべきことであり主人に報いる行いである。良い悪いなど、綱が感情を持ち込むことではないのだ。
    ただ、理解できないとは思っている。これだけの権力と富があるのなら、自分のような面白みのない薹のたった人間ではなく、見目の良いもっと若い男を買えば良い。
    どうかしている、と思いながらも、綱はいつものように、裏の小さな門をくぐった。
    濃紺の夜空には大きな月と、降るほどの星がきらめいていた。この星を陰陽師はなんと読んだのだろうか。山を滑り降りた風は、ひんやりと花の香りをはらんでいるような気がした。
    そうして、時が過ぎて、明け方である。
    綱は、来たときと同じく、かっちりと着込んで門を出た。
    空は白んでいる。ねぐらに戻るのか、烏が空を裂いていった。
    足元には、陰が殆どない。自分という存在がひどく軽くなったような心地を覚えながら、帰路についた。吐く息が、やたらに熱い気がした。
    熱を出したというので、珍しいこともあるものだと、金時は綱の屋敷に見舞いにきていた。
    入るなという命令を聞かなかったのは、綱の声が聞いたこともないほど弱々しかったからだ。そして、金時はこのときほど、全身の血が沸騰するような感情を覚えたことはない。
    綱は首にさらしを巻いていた。血がにじみ、汗に濡れている。
    かみしめた奥歯が、がちがちと音を立てた。怒りに震えるという感覚を知ったのはこのときである。こめかみで、ドクドクと煮えた血が暴れている。額を隠していてよかった。きっと、筋が浮いていそうだ。
    綱を慰み者にしている男には、邪悪な独占欲があった。まるで、猫の子を愛玩するように、綱の首に輪をはめたのだ。外すことの出来ない、輪を。
    その後、綱はしばらく臥せったが、すぐに回復した。火傷は治った。痕を、残して。
    もともと綱はきちんと着込むたちだから、誰に勘づかれることもなかった。このことをしっているのは金時と、輪をはめた張本人だけだ。頼光も知っているのだろうが、あえて確認したことはない。
    綱は、一生をこの枷と共に生きた。金時が、死んだ後も。

    ・・・

    「俺が来るとき、なければ良いと、そう思ったか?」
    「うん?」
    綱の指先が、筋肉で膨らんだ金時の胸の間を辿る。横に寝ているせいでふわりと丸く盛り上がったそこをつつき、鎖骨を撫でた。
    金時の腕は、枕にするには些か太すぎる。収まりの良い場所を探して、腕の付け根に頭を寄せた。金時の指が、髪をかき混ぜているのを感じる。
    鎖骨を撫でていた指で、首の付け根を摩った。かつて、綱の首に枷がはまっていたあたりだ。
    「なければよいと、そう考えていたか?」
    「あー……そうだなァ」
    「この世界というものにとっても、不要だった、ということなのかもしれんな」
    髪を撫でていた手が、うなじを押さえる。あの痕があった場所にはなにもない。白くキメの細かな肌が、滑らかに肉を覆っているだけだ。
    今はほんのすこし、遅めの春を迎えているが、この花も明日には散るだろう。
    「おまえのものなら、してみても良い」
    黒い目が、ベッドサイドで蜷局をまいている黄金にちらりと流れる。
    「アンタに、ネックレスだけは贈らねえよ」
    「そうか?残念だ」
    やるなら指輪だ。金時は腕の中の熱を、もう一度強く抱きしめた。
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