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    hagiw0

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    hagiw0

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    去年のバレンタインにかいた現パロ騎んつな(騎んつなといいはる)
    再録に入れるにあたり加筆修正しているのでみてみてする
    もう少し騎ん要素足したい

    ##きんつな

    Golden Delicious 金時はまったく期待をしていなかった。いやまったくというと嘘になる。正確にはこのマンションのエレベーターに乗るまでは微かに期待をしていたが、乗った瞬間期待を捨てた。何故なら、自分もなにも用意をしていないからである。
     世間は今日、恋人達の日、セントバレンタインデー。金時はその正しい由来などしらない。金時にとってはただ単純に、女性が愛の告白と共に意中の男性にチョコを渡す、甘くロマンチックな日という認識だった。
     この日に近づくにつれて、町中に増えていくチョコレートの文字に、金時は期待に胸を期待は膨らませていた。つい先日、恋人ができたからである。
     片想いを拗らせ自分らしからぬ後ろ向きな日々を乗り越え告白したところ、奇跡のOKをもらった。年上の大事な人だ。
     なので、今年のバレンタインは、きっと素敵な日になると思っていたのだ。しかも、十四日は日曜日で家にお呼ばれしている。一応はそういう関係にも進んでいるので、もしかしたらスペシャルな時間を過ごせてしまうんじゃなのか、と小さな下心をサングラスの奥に隠してやってきた。
     が、しかし、浮き足だってマンションに足を踏み入れ、エントランスでインターフォンを押し、今日もビターでスイートな声だぜ、などと浮かれた事を思いながら、エレベーターに乗ったところで正気にもどった。
     自分が貰えると思っているということは、相手も貰えると思っているはずである。今日は『女性が意中の男性にチョコを贈る日』なのだ。もちろんそれは正解だが全てではない。しかし、金時にとってはそれが今日という日、であった。
     そして、何しろ恋人は女性にモテる。それはモテるだろう、綺麗な顔、とっつきにくく見えるが、実際はとても優しい。優秀で、高身長、足も長いし、腰も細い、高学歴で、高収入、生まれは埼玉だが、育ちは麻布である。親しみやすさと高嶺の花感が完璧な具合に共存している。
     その上、フリーに見える。見える、というのは自分が指輪やなんかを贈っていないし、そもそもまだ付き合ってそこまで経っていない、気持ちの上では今すぐその薬指を予約したいとは思っているが、今あの長くすんなりとした薬指は防御力ゼロだ。しかしでは何故今日何も用意しなかったんだ俺の莫迦野郎!と心の中で叫んだところで、エレベーターは目的の階に到着した。
     先程までの浮かれた足取りは何処へやら、今すぐUターンして銀座辺りに指輪を買い求めに行きたい。だが、それが悪手だということはわかる。このままこのタイミングで待ちぼうけさせることの意味くらい、わかるつもりだ。後悔でいっぱいの気持ちをぐっと堪えて、チャイムを押した。
    「……」
     出てこない。いつもなら、呼べばすぐにドアを開けてくれるのだが。金時は、尻ポケットに親指を突っ込んだ姿勢のまま、首を傾げた。どうしたのだろうか。ポケットから指を抜いたところで、がちゃりとロックを外す音がした。
     細く、中の明かりが漏れだす。
    「金時か……?」
    「おう、どうし」
     た、は口からでてこなかった。金時はとても素直である。素直であり、比較的スタンダードな趣味をしている。なので、例えば彼シャツだとか、萌え袖だとか、そういう王道なものは大好きだ。
     金時を出迎えてくれた恋人は、エプロンをしていた。ジャストサイズの無地ロングTシャツに、ストレートジーンズ、ここまではいつも通りなのだが(勿論いつもの格好もすきだ)そこに、エプロンをしていた。臙脂の、なんてことない、普通のエプロンである。
     だが、すくなくとも、金時の前でエプロンをするのは初めてだった。
    「すまないな……間に合わなくて……」
    「お、おう」
     何が間に合わないのかは、あまり気にならなかった。
     どうぞと言われて着いていくその後ろ姿に、金時の視線は釘付けになった。綱は別に細くはない。細くはないし並以上には筋肉質だと思っているのだが、骨格なのかなんなのか、関節や括れ部分がやけに細く見えることがあるのだ。
     腹の前で結ぶエプロンなんかされた日には、腰の細さと、そこからのふっくらと盛り上がる小さな尻のラインから目が離せなくなっても、金時の責任ではないと思う。
     その上、後ろ姿、エプロンの重なりの下から覗く、股下にある魅惑の三角形。
    「金時」
    「お、あ、ああ?」
     はっとして立ち止まる。金時のさまよえる目玉はぐるりと辺りを一周見て、綱の顔に戻った。まさか尻に夢中になっていたとは、悟られるわけにはいかない。
    「すまない……自分でやった方がお前が喜ぶかと思ったのだが……」
     その、と。
     言いにくそうにする綱の向こう側には、彼にしては珍しく散らかったキッチンがあった。テーブルの上にはぐちゃっとした茶色い塊がいくつか。
    「素直に買ってくればよかったな」
     しゅん、と頭の上に犬の耳でもあったら垂れていそうな顔で言う。
    「これ」
     キッチンは甘い香りがしていた。シンクには焦げ付いた鍋と、茶色い粉のようなものが散らばったカウンター。金時は信じられないものをみた気持ちで、それらと目の前の恋人の顔を順にみる
    「えっと……俺っちに……?」
     綱は、ぱっと視線を逸らすと、じわじわと頬を赤く染めた。表情はあまり変わらない。それでも、金時には充分だった。
    「やっぱり、買って」
    「兄ィ……!」
     言葉を遮って抱きついた。ぎゅうぎゅうと抱きしめて、甘い香りのする首筋に顔を押しつける。
    「サンキューな、最高にゴールデンだぜ」
    「……ん」
     そろりと、背中に登ってくる手を感じ、その薬指にあるべきものがないことを思い出す。そこには、どんなデザインが似合うだろう。
     鼻先が滑らかな首筋に触れる。隙間がないほどぎゅうと抱きしめれば、口付けるという気持ちがなくとも、金時の唇は目の前の柔肌に触れた。どこもかしこも、甘い匂いがする。
    「ん」
     充満しているチョコの香りが、肌にも髪にもうつってしまっているようだった。まるで、この身体こそが、自分の為に用意されたチョコレートのように。
     甘い肌をべろりと舐める。
    「んっ」
     暖かな部屋の中で作業していたのだろう、肌は甘く、そしてほんの少ししょっぱい。
    「きんとき……」
     この声に呼ばれる名前が好きだ。自分には似合わないダサい名前だと思ったこともあるが、この人にこんな風に呼ばれる名前はとても良いものに思える。サングラスを外して、チョコレートまみれのカウンターに置いた。
    「ふ、」
     首筋を辿り、耳たぶに唇を寄せる。背骨の両側に盛り上がる筋肉を撫で下ろすと、指先が布に邪魔をされた。エプロンの腰紐だ。
    「……」
     鼻先で髪を掻き分けて、耳の後ろを擽る。手はエプロンの紐を解かないように、そのまま下へと滑らせた。
    「良い匂いがする」
     すん、と鼻を鳴らして甘い香りを吸い込むと、綱は恥じるように身を捩った。
    「嗅ぐな、莫迦者……」
    「でもよ」
     良い香りなのだから仕方がない。だが、思えば、チョコなどなくてもこの人はいつも良い匂いがしている。それを感じるといつも抱きついて近くで感じたくなってしまうのだ。
     近く、もっと、肌と肌が触れあうほどに。
    「あっ」
     腰をさすっていた金時の手が、その長い小指の先をボトムのウェストに潜り込ませた。
    「きんとき」
    「ん?」
     愛らしく、イチゴのように染まった耳に口付ける。ちゅうと耳朶を吸うと、掌の下で肌が粟立つのがわかった。
    「きんとき」
     拒否する気のない手が、緩く金時の胸を押す。その手に手を重ね、胸から剥がすようにして掌に口付けた。
    「甘い」
    「ばか……」
     なんの威力もない罵りは、いっそ愛らしい程だ。この人が普段もっている威厳だとか勇ましさだとか、凜々しさだとか、そういったものが全てチョコと一緒に溶けてしまったようだ。
     金時の目には、普段の雄々しい姿もたまらなく格好良く映るのだが、ふたりきりのときに、自分の前でだけなにか柔らかなものになってしまう瞬間が、震えが走るほどに好きだった。
     その柔らかさが腕の中にあって、金時の内側の本当だったら出してはいけないような凶暴な何かに触れる。
    「チョコを、食べないのか?」
    「ん?」
     金時の指先はもう、ボトムの中に忍び込んでいる。それに対して嫌がるようなそぶりはないものの、視線が茶色い塊に向いていた。
    「あー」
    「……」
    「じゃあ、食わせて」
    「なに?」
    「チョコ」
     あ、と口を開ける。
    「……」
     綱はチョコレートと、目の前でぱかりと開かれた口を交互に見てから、そろっとテーブルに手を伸ばした。
    「ほら」
     食え、と。放り込まれたチョコは、甘かった。そして何か入っている。金時は頑丈な歯で硬い何かを噛みながら首を傾げた。
    「……わかんねえ」
     不味くはない。不味くはないが、チョコ以外のものが何なのかはわからなかった。
    「あ」
     くれ、と丸く口を開ける。
    「まだいるのか?」
    「ンだよ、俺んだろ?」
    「まあ……」
     ほら、と二つ目を口に入れられる。離れていく手を捕まえて、チョコレートに齧り付くように、唇に口付けた。
    「んっ」
     すぐに口を開けて、舌を差し入れる。舌を伝って、チョコレートがどろりと流れていくのがわかった。
    「!」
     ビクッと腕の中の身体が震えた。至近距離で見開かれた睫毛を、目を細めて見つめる。困惑と驚き。戸惑うように揺れる黒い瞳。じっと目を離さず、溶かしてしまうために舌でぐちゃぐちゃにかき混ぜてやった。時折、こくっと喉がなって、綱の胃に甘いそれらが運ばれていく。このチョコレートはさっきとは違うらしく、硬い何かは入っていない。
     残る甘さを塗り込めるように上顎を舐めると、綱が苦しげにくふっと鼻を鳴らした。
     ちゅうっと甘い舌を吸って、顔を離す。
    「は、あ」
     金時はチョコのついた口角を舐めて、美味しそうな唇を見つめた。つやつやとして、真っ赤な果実のようだった。
    「もうひとつ」
    「も、駄目だ」
     莫迦者、と睨まれたところで、少しも恐くはない。表情は余りかわらないのに、どうしてこんなに違うのだろうか。白い肌がほんのり桃色になって、微かに眉を顰めているだけなのに、ただそれだけで金時は臍の下あたりがぎゅうとなる。
    「俺んじゃねえのかよォ」
     むっと頬を膨らませて言う。金時の幼い仕草にも、綱はふいと横を向いてしまった。「一人で食え、俺は散々食べた」
    「ふうん?」
     捕まえている身体をぐっと引き寄せる。脚の間に挟み込むようにして、赤い耳朶を囓った。
    「でもよぉ……兄貴の方が美味そうだぜ?」
    「!」
     ばっと勢い離れようとする身体を、金時の腕が逃がす訳はなかった。そのまま言葉を吹き込むように耳殻を舐って、こめかみに額をこすりつける。
    「っ!」
    「兄ィ」
    「きんとき……」
    「ん、」
     視線があう。睫毛が触れあうほどに近く見つめ合って、段々と輪郭があやふやになる。触れあった唇は、やはりとても甘い。
    「ん」
     綱の手が、再びそろりと背中を這い上がるのを感じる。唇の隙間に舌を差し込むと、その手がぎゅ、と服を掴むのがわかった。
    「ぁ」
     音にならない声が、二人の口のなかで反響する。まだ口内にはチョコレートの甘さが残っていた。甘い唾液を啜って、舌を合わせ凹んだ上顎を擽る。
     べったりと触れあっている胸も腹も、熱い。
    「きんとき……」
     くて、と金時の肩に寄りかかる。濡れた視線が目尻から流れて、欲に塗れた目で見下ろす男を捕らえた。
     こくん、と金時の喉がなる。
    「もうひとつ、食べるか?」
     ちょこ、と薄い唇が動く。さっきと言っていることが違う。気まぐれなのか興に乗ったのかはわからない。それとも、思惑通り、やっと溶けてくれたのかもしれない。 金時はその唇にチョコを押しつけて、しっかりと塞いでしまった。
     
     キラ、と十八金ホワイトゴールドが光る手元を眺めながら、金時はグラスの中の白ワインをあおった。
    「器用なもんだなあ」
    「そうか?」
     ぺたぺたと、器用な手元は、GOLDとくりぬかれた生地でパイに蓋をした。中には、甘さ控え目で美味しい林檎のコンポートが入っている。林檎の品種はもちろんゴールデンデリシャスだ。
    「金色のパイにしよう」
     ふふ、とほくそ笑むのは、およそお菓子作りに興じる笑顔ではないが、楽しそうなのでよしとする。金時の目からみたら愛らしい笑顔だ。
     初めてのバレンタインから、何度か二月十四日を迎えたが、その度に綱は菓子作りの腕を上げた。今ではバレンタイン以外でも、よくわからない長い名前の菓子を作っていることも多々あるほどだ。
     そして、その薬指にはもうずっと同じ指輪が嵌っている。
    「今から来年が楽しみだぜ」
    「そんなことをいうと、鬼が笑うぞ」
    「そしたらパイでも分けてやるさ」
     笑うなら笑えば良い。それでも、来年も再来年も、金時の心を掴んで離さないエプロン姿で甘い香りをさせてほしいと思うのだった。
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