OhMyBuddy!!斎藤一は重たく存在感を示すルミノックスに視線を落とした。
時刻はまもなく15時を過ぎる。斎藤の定時まで残り2時間弱。
「ボクはね、今日はなにが何でも17時に上がる」
突然の宣言である。聞かされたバディであり後輩であるパーシヴァルは、つられるようにダニエルウェリントンに目をやった。
「17時、ですか」
「そう、17時。デートだから」
デートだから、と2度言う。大事なことなのである。刑事という職業柄、定時などあって無きが如くである。だが、しかし、今日だけは早く帰りたい斎藤なのだ。
「この前はドタキャン、その前は旅行がお家デートになって、その前は18時に迎えに行くって言って着いたのは20時」
ひとつひとつ、凄惨な過去を指折り数える。一つ思い出す度に、斎藤の顔色は悪くなった。目の下のクマが徐々に濃くなってゆく。
パーシヴァルには現在恋人はいない。世話を焼いてくれる姉に夕飯はいらないとか遅れるとか、一言連絡するだけで済む。
「あのね、今日、1年記念なの」
「おめでとうございます」
「だから、絶対、定時で、帰ります」
絶対に、と。硬く頷く斎藤はMA1の下に、キャンディストライプのボタンダウンでめかし込んでいた。いつもは首元の些かよれたTシャツである。
本当はシャワーを浴びて行きたいところだが、おそらく時間がないだろう。もし余裕でオフィスに戻れたら、シャワーを浴びようとロッカーにはもう一枚予備のシャツがおいてあった。
「花とチョコ買って行く、チョコは予約してるから店に寄るだけだし、行きしなに花を買って、今までごめんねこれからもよろしく、ってする」
斎藤は今の年上の恋人と恋人になるまで、それはもう努力したのだ。念願叶って恋人同士になったものの、このていたらく。誰より大事にすると誓ったのに、約束も守れないだらしなさ。
花とチョコ程度で今までの埋め合わせが出来るとは思っていないが、それでもひとつひとつ誠意を態度で見せるしかない。
なので、本日は絶対に、定時で帰りたいのだ。
「頑張ってください」
素直なパーシヴァルは、斎藤の決意に感化されたのか、一緒になって拳を握りしめている。
斎藤は、おうよと頷いて、エンジンを切った。
「そんじゃま、パパッと片付けますか」
「はい!」
ごつ、と拳を合わせクラウンビクトリアを降りる。
斎藤はまだ知らない、コレが、盛大なフラグだということに。
見上げた空は灰色で、今にも雨が降り出しそうだった。