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    あをあらし

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    あをあらし

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    Dom/Subユニバースのにほさに。ついに書いてしまった。

    ――――
    こちら参考にさせて頂いた資料になります。

    Dom/Subユニバースのススメ(アドバンス編追加版)
    https://www.pixiv.net/artworks/52626061

    HOW to dom/sub ユニバース
    https://estar.jp/novels/25517129

    ダイナミクス Switchかと思った。実はダイナミクス持ちじゃないのかも、とも思ってた。
     そんな衝撃的な告白をされたのは、初めて体を繋げた後。俺を受け入れてくれたことを褒め称え、アフターケアのためにゆったりと背中を撫でてやっていたときだった。サブスペースに意識を半分浸らせながら朧に紡がれる言葉を拾い上げていけば、今まで出会ったDomとはあまりにも違ったものだから、Subの自分に合わせてダイナミクスがあるように装い、気を遣われているのでは、と思っていたらしい。こうして自分がトリップしてようやく疑念が晴れたと呟いたのを最後に、くったりと弛緩した身体を全部俺に預けて、愛おしきSubはスペースに入りきってしまった。

     Dom。Sub。Switch。人間にダイナミクスと呼ばれる特徴が現れるようになったのは、はたしていつからだっただろうか。二二○○年代では既に一般に浸透したこの個性は、発現から数十年でそれまでの人間社会を大きく変えてしまった。支配と隷属。サディズムとマゾヒズム。暴力的かつ不平等な響きでもって例えられる関係性。DomはSubを支配し、鞭で愛を、飴で情を与えるのだと。SubはDomの奴隷となり、与えられる全てをありのまま甘受すべきだと。時代錯誤も甚だしい考えは最近になってようやく改められつつあるが、俺たちの関係性は未だに『珍しい』と言われるものだった。
     一言に支配と纏めても、その形は様々だ。暴力を伴わなければならないというのは思い込みが過ぎる。そう語る俺に「Dom性が薄い」と言ったのは誰だったか。当時はそうなのだろうかと話半分に受け止めたが、今なら声を大にして反論しよう。俺は確かにDomだ。それも生粋の、強すぎるくらいの志向性を持った、Domだ。
     俺の支配の形とはつまり、相手を躾け傅かせ木偶人形のように扱うのではなく、己の庇護のもとで自由を謳歌させることだった。理由があれば仕置きもするが、できれば甘やかしてやりたい。一から百まで全部世話をしてやって、何一つ不自由のない生活をさせたい。あらゆる物事から守ってやるから、俺の隣で伸び伸びと生きていてほしい。
     そんな献身の檻に囚われることを良しとしてくれたのが、今こうして腕の中で微睡んでいるSubだった。

     出会いは運命的でありきたりな、合コンの数合わせというシチュエーションだった。
     DomもSubも、それぞれにダイナミクスに基づいた欲求がある。命令したい。従いたい。それが満たされないと心身に不調が出るため、パートナーというのはなかなか大きな意味と意義を持っていた。だから、DomやSubの中にはコミュニティを形成して情報を得つつ、定期的に交流会を開いて自分と諸々が合う相手を見つけようとする奴が一定数いる。当時の同僚もその一人で、そいつが所属していたコミュニティで予定されていた合コンに欠員が出てしまい、滅多に手に入らないプレミア付きのウイスキーに乗せられてつい代役を務めてしまったことが、未来への転換点となった。
     合コンと言うからてっきり数人で飲みながら話す程度かと思っていた俺は、会場に着いた途端にその想定を覆された。ホールと言うほど広くもないが、決して狭くはない空間。両脇には既に数十人が集まっていて、それぞれの集団から発せられた声がざわめきとなって響いていた。この場で出会った人が後に将来のパートナーとなることも少なくない、と話す同僚の言葉にも、そりゃそうだろうなとしか返せなかった。
     Dom側Sub側両方の幹事から簡単な説明を受け緊張を孕んで始まった交流会も、一時間ほど経てば居酒屋の合コンと何ら変わりない空気となる。時折言い寄ってくる人間を適当にあしらう苦労と、美味い酒と飯とを秤にかけて、まあトントンかと思いながら暇を告げる算段を立てていたときに、それは起きた。
     酔っ払ったDomが相手に無許可でコマンドを使ったのだ。
     相手のSubは非難に満ちた顔で、しかし抵抗虚しくその場に頽れた。kneel跪け。ダイナミクス持ちにとっては最も一般的で普遍的なコマンドだ。けれども相手の許可なくコマンドを使うことは、暴君の所業に他ならない。一番最初の説明でも交流中にコマンドを使うことは禁止だと述べられていたし、あのSubの表情を見るに信頼のないままコマンドを使ったことは明白だろう。本来唾棄すべき状況に、周囲のDomの大半は沸き立った。少数ながらSubも沸き立った。そこからはもうめちゃくちゃで、徒にコマンドを使うDomと被虐性の強いSubは中央で悦に入り、反対に矜恃高いDomや暴虐を嫌うSubは迷惑千万といった顔で壁際に寄っていった。
     それなりに良かった雰囲気は霧散し、言いようのない苛立ちがそこそこ中身の詰まった胃を刺激する。こうなっては誰も彼もない。もう勝手に帰ってしまおうと出入口に向かって、扉に手を掛けた、その横でまた聞き慣れた言葉が耳に流れ込んできて、つい足を止めてしまった。見れば、壁に寄りかかった人間に、赤ら顔の人間が何やら喚き散らしていた。ああここにも酒に呑まれてルールもマナーも守れない奴がいるなと流し掛けて、思い止まる。面白がっていた奴らは皆真ん中に集まって行った。だから今壁際にいるのは、そういうことを嫌う奴だ。慌てて向き直れば、恐らくSubであろう相手は、コマンドに屈するまいと耐えながらも膝を震わせていた。その真っ青な横顔が恐れ怯えていたのを見て、自然と足が動いた。必要なら加減しつつGlareを、とも考えていたが、酔いどれへべれけのそいつは俺を見た途端に顔色を変えて中央へと一目散に逃げていった。無駄に大きくなった図体はこういうときに役立つからまあ便利だ。小心者めと内心で毒突き、振り返って大丈夫かと声を掛けた。そして、相手が顔色の悪いまま大丈夫だと言って、続けて礼を告げるのを、俺は呆然としながら聞いていた。
     気付けば、震える手を握っていた。ぎこちない足取りで立ち去ろうとするのを止めて、らしくもなく浮ついた声で言葉を紡いだ。
     一目惚れなんて、初めてだった。

     勿論あんな事故みたいなプロポーズは一蹴され、けれども慈悲で連絡先は貰えた。俺はその一枚の紙切れを最大限に有効活用して、あの手この手で積極的にアピールしまくった。それが今日、ついに実を結び、パートナーとなることを許されたのだ。たかが一言のコマンドにこれほど緊張したのも、相手が言葉に沿って動いてくれることの悦びに胸がいっぱいになったのも初めてで、それ以上を与えてやりたいと心にも体にもとことん尽くした。
     その結果がサブスペースとして表れていることに、俺もまたこの上ないほど満たされていた。信頼に足るDomだと、隣合って安心できる人間だと、理性からも本能からも認められている。俺がSubだったなら間違いなくトリップしていた。それくらいの凄まじい充足感。セーフワードを使うことなく、無理をさせることもなく、全てが明け渡されてこの腕に乗せられている。なんて幸せなことだろう。これが明日からずっと続いていく。続けていくのだ。
     こんなに支配欲に塗れているのに、Domじゃないわけがないだろう。不安にさせていたなら申し訳なかった。沈み込んだ意識に染み渡らせるように、殊更ゆっくり、はっきりと言い聞かせる。眠たげにむずがりながらもしっかり頷く姿はあまりにも健気で、可愛くて、愛おしい。
     俺のSub。俺のパートナー。かけがえのない人。お前のDomでいられる限り、俺はお前を幸せにする。だからどうか、俺に囚われたままでいてくれ。
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