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    matuhane

    @matuhane

    らくがきをおいておこうかなと思いました
    アナログです

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    matuhane

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    花弁やつれた頬、青白い肌、荒い呼吸。
    時折苦しそうに胸を押さえる。
    しかし、その目はギラギラとしていた。
    それは闘志に燃えるというより、鬼気迫る・という表現が似つかわしかった。

    その女性は、ナギサジムの複雑な仕掛けを突破し、ジムトレーナーとの戦いを制し、ジムリーダー・デンジの前に対峙していた。

    明らかに体調が悪そうだ。
    とてもバトルは無理だろう。

    「体調の良いときにまた来たら良い。俺とのバトルだけ後にしたらどうだ」

    デンジは提案した。

    すると女性は、口元をおさえて激しく咳込んだ。

    思わずデンジは女性に駆け寄った。

    近くで見るとどうしたことだろう、女性の口からは、真っ赤な花弁が吐き出されていた。
    また女性が咳込むと、更に大量の花弁が吐き出される。

    「花びらに触らないで…」

    そう告げると、女性はその場に倒れ込んだ。





    シンオウチャンピオンと四天王の総勢5人は、遠くガラル地方に来ていた。
    招待試合と、四天王制のないリーグの視察である。
    観光もセッティングされており、移動含めて10日間の日程だ。
    その2日目。
    シンオウリーグ本部から連絡があり、シロナとゴヨウが慌ただしくしていた。
    オーバはガラル名物のカレーを頬張りながら他人事のように横目で見ていたのだが、やがて集合をかけられた。
    するとトラブルがあり、対応のため代表してゴヨウのみがシンオウへ戻ることになったとのことだった。
    トラブルの内容はその場で語られなかったが、オーバは気にも止めなかった。
    トラブルの対応は自分よりゴヨウの方が向いているとわかっているからだ。

    しかしゴヨウが発って数時間後、オーバは一緒に行くべきだったと深く後悔した。
    それはそのトラブルをニュースで目にしたからだ。

    ニュースの見出しは
    「ナギサジム当面休止 ジムに救急車の目撃情報、ジムリーダーデンジ急病か」

    居ても立っても居られず、オーバはシロナに詰め寄った。

    「だからゴヨウに行かせたの。ナギサのこととなればあなたが冷静に対応できるわけはないでしょう」
    シロナは言った。
    いずれオーバも知ることになるとわかっていた、だからこそゴヨウに出立を急がせたのだと。

    そしてニュースでは憶測でしかなかった詳細を、シロナは語った。


    ジム戦に来ていた女性が、ジムリーダー戦直前に倒れ、そのまま意識不明となった。
    女性は病気だったのだ。
    その病名は「嘔吐中枢花被性疾患」通称「花吐き病」。

    「花吐き病…」
    聞き慣れない病名に、オーバは聞き返した。
    シロナは説明した。

    その症状は、片思いをこじらせて苦しくなると突然花を吐いてしまうというもの。長引くと衰弱死してしまうこともある、 はるか昔から流行・潜伏を繰り返しながら現代まで続く不思議な病気であると。

    倒れた女性の片思いの相手は、デンジその人。
    いわゆる「ガチ恋勢」だったのだ。
    花吐き病を長く患い、余命わずかならいっそ本人に一目会ってから逝きたいと、思い切ってジム戦に挑んだのだそうだ。

    両思いになれば病は治る。

    女性の親族から請われて、その場しのぎでもデンジから女性に「好きだ」と言って欲しいと、女性の意識が戻るのをデンジは待たされているようだ。
    もし口先だけでも言った「好き」で、女性が両思いになったと思えば病が治るかもしれないというわずかな望みをかけてのことだ。
    勿論、本当の想いがなければ治らないことも視野に入れているが、人助けだと思ってデンジは協力することにした。
    ガチ恋勢など、デンジには幾らでもいる。
    1人ひとりにかまっていられないのが現状だ。しかし命がかかった状況となれば話しは別。
    しかも自分の目の前で倒れてしまったのだから尚更。



    時計を見て時差を確認すると、シンオウはまだ午前中。
    オーバはスマホロトムを取り出し、デンジにコールした。
    数コールして、デンジが出た。

    「よおデンジ大丈夫か」

    『ああ、正直少し滅入ってる…』

    余り弱みを見せないデンジがこう言うのだ、目の前で人が倒れ、しかもそれの原因となる病が自分への片思いというのは、かなり堪えたのだろう。

    『もうすぐゴヨウさんが来るっていうんで、今リーグに行く準備してる……ごほっ』

    話しながらデンジが軽く咳をした。

    「風邪かどうせあんま寝てねーんだろ、あったかくして栄養あるもん食えよ」

    『……ああ、わかったよ、じゃあ』

    オーバの返事を待たず、電話は切られてしまった。
    親しき仲にも礼儀ありだろと思ったが、デンジらしいといえばデンジらしい。
    声を聞けたことで、オーバは少し安心した。
    元気がなさそうではあったが、当然のことだろう。

    マスコミやファンへの対応はゴヨウに任せておけばうまくやってくれるだろう。
    女性の意識が戻るかは神のみぞ知るところだろうが、戻ったとして、デンジが好きだと言えば治るか治らないか。もし治らなかったらデンジは落ち込むだろう。
    でも、口先だけでもデンジ誰かに「好き」と言うのは、いやだな。
    オーバの表情が曇る。


    「その「好き」を誰よりもお前に言われたいのは、この俺だよ、なんてね」

    小さく呟いた。





    その後何度か電話するも、デンジが出ることはなかった。
    ただしばらく待てばメッセージが返ってくるので
    きっと忙しいのだろう。少し心配しながらも返されたメッセージのそっけなさにデンジらしさを感じて、オーバは何度もその文字列を眺めていた。


    そして、帰国。
    ニュースから1週間以上経っていた。
    珍しい機械仕掛けの置物、ワンパチクッキー、ストリンダーラベルの炭酸水、ガラル名物レトルトカレー
    デンジが喜びそうなお土産を両手いっぱいに、オーバは自宅よりも先にデンジの家へ向かった。


    昨日、件の女性は意識が戻ることなく息を引き取ったと知らせを受けた。
    恐らくデンジはショックを受けていることだろう。
    ゴヨウの手腕により、ジムは設備故障の名目で1ヶ月間休止としてあるそうだ。
    その間にデンジが立ち直れるよう、傍で支えようとオーバは思っていた。

    そしてデンジの部屋に着くと、インターホンを鳴らす。
    しかし応答はなく、代わりにスマホロトムにメッセージが届いた。

    「帰ってくれ」

    その文章を見て、オーバはカッと頭に血が登った。
    この数日どれだけデンジに気を配っていたか、デンジを傍でささえようと意気込んでいたか。それはあくまでオーバの勝手な思いではあったものの、それを否定されたような気持ちになった。
    強くドアを叩いた。

    「何でだよ俺がどんだけ心配してどんだけお前の顔が見たいって声が聞きたいっておいわかってんのかよ」

    衝動に任せて怒鳴りつける。
    しかしドアが開かれることはなかった。

    「クソッおーいライチュウライチュウ居るんだろオーバだ開けてくれ」

    部屋の中でボールから出されているだろうデンジの相棒に呼びかける。
    オーバとデンジの仲をよく知り、オーバにも懐いているライチュウならきっとドアを開けてくれるに違いない。
    その予想は的中した。
    ドアが3センチほど開かれ、ライチュウの顔が覗いた。

    中へ入ろうとしたところで、ライチュウが消える。
    ボールに戻されたのだ。
    「ライチュウ、勝手に開けるな」
    奥からデンジの声がした。
    ライチュウがいなくなったことにより、自重でドアが閉まりそうになったが、オーバは素早く足を挟み込んでそれを阻止した。

    「上がるぜ〜」

    今は夕方から夜に変わる時間帯で、外は薄暗く室内では電気をつけるべきなのだが、部屋のあかりは灯されていなかった。
    デンジは恐らく寝室に居るだろう。薄暗い室内を、オーバはまっすぐ寝室へ向かった。

    ごほごほ

    咳をしているのが聞こえる。
    最後に話したときも咳をしていた。あれから風邪が悪化したのか治っていないのか。

    寝室にたどり着くと、薄暗い部屋の中でベッドに半身を起き上がらせて、咳き込んでいるデンジの姿を見つけた。
    しかし明るさが足らず、どんな表情をしているのかまでは見えない。

    「来るな」
    悲鳴のような声がした。
    同時にオーバは、入口にある灯りのスイッチをつける。
    すると明るくなった室内の床一面に、真っ赤な花弁が敷き詰められたように散らばっていた。

    「オーバ頼むから入るな、入らないでくれ…ごほっ」

    そう咳をしたデンジの口からは、床にある花弁と同じものが吐き出された。

    最後に会ったときよりも、少しやつれたか。
    元々色白だが更に白い顔をして、その青白い肌に真っ赤な花弁が鮮やかだ。

    その咳き込む背中をさすってやりたくて、苦しそうな口元から溢れ落ちる花弁を受け止めてやりたくて、オーバは室内に入ろうとした。

    「花弁に触ると伝染るんだ」

    咳の合間にデンジが悲痛な声で叫んだ。

    オーバは踏み出そうとした足を引っ込めた。

    そして理解した。
    デンジは花吐き病になってしまったのだと。
    吐き出された花弁に触ると花吐き病は感染するのだと。だからデンジはオーバに帰るように、来ないようにと訴えていたのだ。

    だが花吐き病は、片思いをしていないとならない筈。
    つまりデンジは誰かに片思いしているということになる。
    床一面花弁で埋め尽くす程、一体誰に焦がれているというのだろう。
    嫉妬の炎がオーバの胸を焦がした。

    オーバが一歩踏み出した。
    カサリ
    オーバの素足が花弁を踏みつけた。

    「オーバ…」

    まさか、とデンジが目を見開く。

    「だめだ、伝染る…感染してしまう…」

    絶望したように呟いて、デンジが首を左右に振る。

    オーバは花弁を一歩一歩踏みしめながら、デンジのいるベッドまで辿り着いた。

    ごほっ

    デンジは咳き込み花弁を吐き出しながら、青い瞳からぽろぽろと涙を零した。

    「いやだ、オーバが死んでしまう」

    ごほっ
    花弁が零れる。

    「俺は死んでもいい、でも、オーバはだめだ…」

    瞬きすると更に涙が零れた。

    オーバはデンジの顔を正面から見つめ、そして両手でそのやつれた頬を包んだ。

    「死んでもいい」

    まさか、とデンジが濡れた目を上げ、オーバを見た。

    オーバもまたデンジを見て、二人は至近距離でお互いの目を見つめ合った。

    「デンジが俺以外の誰かを想って死ぬっていうんだったら、俺も死ぬ、死にたい」

    それは、ずっと胸に秘めていた想いの告白だった。

    「オーバ…それって……ンゴホゴホッ」

    デンジは言葉を詰まらせ、大きく咳込んだ。

    するとその口から吐き出されたのは赤い花弁ではなく

    「…百合」

    白銀の大きな百合の花だった。

    オーバはシロナに花吐き病の説明をされたとき、こう言っていたのを思い出した。

    両思いになると白銀の百合の花を吐き出して、病は完治する、と。

    つまり
    「デンジ、お前の片思い相手…俺か」

    オーバが目を丸くして言うと、真っ赤な顔をして、しかしデンジもまた目を丸くしていた。

    「オーバって、俺のこと好き…だったのか…」

    デンジはもう咳をしていない。

    「そーだよ気付けよ」
    「気付くかあほ」

    言って、あははと二人は笑った。
    そしてオーバはデンジをそっと抱きしめた。

    「よかったー、デンジが死ななくて」

    デンジもオーバの背に腕を回した。

    「あー、俺が苦しんだ1週間返せよ」

    デンジは苦笑しながら言った。
    それにオーバはニヤリと悪者の笑みを浮かべた。

    「返してやるよ、カラダで」

    そう言ってデンジをベッドに押し倒した。






    数分後。
    ライチュウの電撃によってアフロを少し焦がしたオーバが、ナギサシティ指定危険物ゴミ袋に床に散らばる花弁を片付ける姿が

    あったとかなかったとか。
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