猫の日ちりん、と安っぽい合皮についたチャチな鈴が小さく鳴った。
所詮通販サイトで買った首輪の紛い物だ。猫耳コスプレグッズの中にあった猫耳がクリップで王子の髪に留められていた。
なのに言い様のないぞくぞくとした高揚がこみ上げる。まったく、困った性質だ。王子はそう思いながらも口角が上がるのを止められない。Subの本能が緩やかに温度を上げ、王子の体内の血を激らせ始めていた。
「嬉しい?答えて《Say》」
「正直なところ、こんなに嬉しいものだと思わなかったよ」
「だろうな、俺もそうだ」
「《鳴いて》」
「にゃあん、にゃ……ねえクラウチ、こんなものが趣味だったのかい?」
「しっ《Shush》。猫は人の言葉を喋らない…だろう?」
そう言われてしまえば是と答えざるを得ない。たかだかごっこ遊びといえど負けるのは悔しいのである。王子は口を噤んだ。
それを当然見越して、蔵内もひとつ、駒を進める。
「だんまりか?可愛いな。どうぞそのまま」
そして残りのアイテムの一つ、尻尾を蔵内は手に取った。ふんわりとした毛に覆われた紛い物だ。──ただしその根元にはプラグがついている。
「おいで《Come》」
蔵内はそう言いながら、首輪から伸びたリードを少し、引いた。
途端に痺れる様に官能が迸り、王子が顔を歪める。
このプライドの高い男は、自らが自らの意志以外のものに跪かされるのを良しとしない。
だから、Subの本能が、己が蔵内に跪きたいと思う気持ちを先に凌駕してゆくことを嫌うのだ。
そんなところがまさにSwitchらしくて、蔵内はちょっと笑ってしまう。無論、そんな王子が愛おしくて、だ。
王子が四つん這いで頭を垂れた。よく出来た、とまるい後頭部を蔵内は撫でてやる。蕩けるような快楽に、王子は上気して息を吐き出した。
プレイが始まる。
始まってしまえば、蔵内は王子の主人だ。
苦痛に耐え、苦痛を甘やかな悦びにすら変え、Domの手で与えられるものを余すことなく啜る愛玩のSub。
さて果たして、Domは苦痛を与えているのだろうか?
それとも、Subの求めに応じて健気に苦痛を差し出しているのか?
Domは苦痛を与えてやっているのだろうか?
それとも、Subに赦され苦痛を与える名誉をいただいているのか?
その答えはダイナミクスの狭間にのみ存在している。
もっと言えば、王子と蔵内の間にだけ答えがあり、また、揺らぎながら変化し続けていた。