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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    もうすぐ死んでしまう私と君のお話 11 今すべき事を※死ネタを含むオリジナルです。
     自己責任でご覧下さい。
     
    何でも許せる方向け。

    ⚠️ 流血表現があります。








    ***


    京都姉妹校交流戦が行われる。
    不参加の唯は、応援の声を掛けて寮の入り口でみんなを見送った。怪我なく、と言うのは無理なのかもしれないが無事に帰って来てくれればと、後は祈るのみだった。



    ひとりきりの休日。お気に入りの服を着て浮かない気分を彩ってみる。
    する事もなく落ち着かない感情を抱えて、唯は資料室へ向かった。一般の学校で言う図書室と言った所だろうか。図書室と名が付かないのは、普通の本と共に古い貴重な文献なども揃うからだろう。こちらは閉架として保管されていて許可が無いと閲覧出来ない物も多い。


    戦況はわからない。逐一こちらへ伝わる訳でもないし、部外者に観覧が許される場でもない。
    唯はスマホを気にしつつも、資料を探す。連絡は勿論誰からも入らない。


    資料室は呪術関連の書が多く取り揃えられて、歴史的な物から現代呪術に関する怪しげな資料まで、一般の図書室にあればいかにもと言ったタイトルが並んでいる。

    家入の言う通り、茗荷に関する記述はすぐに見つかった。家系図などが見つからないのは閉架図書となっているからだろうか。
    いくつか資料を持ち出して簡単に目を通すが、実家で所有されている文献は全て頭に入っていたし、置いてあるそれは唯の知識以上の情報はやはりなかった。

    陽の光をなるべく避けた北向きの作り。窓も少なめで、昼間だと言うのにカーテンも閉じられていて、蛍光灯で照らされた少し暗い部屋。
    唯は静かに机に伏せた。
    何度目かスマホを持ち上げるが、画面に変化はない。

    「棘くん、今頃何してるんだろ」

    姉妹校交流戦ってそもそも何なんだろう。出場経験がないからか、知識で知っていても想像が付かない。

    「みんな早く帰って来ないかなぁ」

    通知の来ない画面に独り言ちた。
    時折遠くで爆発音や何かの音が聞こえる。そんなに遠くない場所で人が闘っているんだと、その度に頭が理解する。

    何も出来ない。


    唯はそのまま目を閉じた。






    ーー……っ?!


    轟音と共に地面が揺れる。

    唯は目を見開いて周りを確認した。整頓された資料が音を立てて落ちていく。

    立ち上がって辺りを見回すが、その場の景色はそれ以上には何も変わらない。変わったのは多分、その場の空気。唯にも分かるくらいの濃い気配だった。

    何かがいる。何かがあった。

    ある程度以上の者は確実に何かを感じたであろう空気に、唯は冷や汗が流れる。
    任務でなら感じた事のある、濃い呪い。強い呪霊がいる。

    荷物を放置して、唯は資料室から駆け出した。









    校舎入り口に着く頃には、学生や術師が数人集まり施設内は混乱していた。
    唯は辺りを見回すと、見知った顔はいくつかあったが、同級生や後輩はいないようだった。状況を把握している人も少ないように見える。

    唯は駆け出すが、顔に傷のある巫女装束の女性に制止された。

    「危ないから下がって。怪我人がいるかもしれない。校舎で待機して、上の指示を仰ぐように」

    「…でもっ」

    声を上げるが。

    「大丈夫。これ以上学生を危険に晒す訳には行かないわ。全員助けるから、貴女は救護に回って」

    唯の声を遮って言うと、彼女は迷いなく走り出した。唯もそれを追うように足を踏み出すが、そこで立ち止まる。


    躊躇ためらって、しまった。


    どくんと、胸が嫌な響きを鳴らす。


    我に返り顔を上げるともう、そこには誰も居なかった。
    ぎゅっと拳を握る。走って行った所で足手纏いになるのは分かっている。きっと私は何の役にも立たないと。

    何も出来ない、と。


    見上げた先は黒く、空を、景色を飲み込んで行く。
    もう一歩、前に踏み込むが。
    それ以上は、足が震えて動く事が出来なかった。


    どうしよう。

    どうしたらいい?




    それをただ空を見上げて反復する。


    どうしよう。


    ……怖い。

    私はたぶん、何も出来ない。




    「茗荷?」

    言われて振り返れば、白衣に着替えた家入がいた。

    「…家入さんっ」

    「もたもたしてる暇はないぞ。私は救護に回る。茗荷はここに残って他の術師や学生とトリアージを。助かる見込みのある重傷者から運んで欲しい。これから人手が足りなくなるはずだ」

    その言葉に唯は息を呑む。
    “助かる見込みのある重傷者”。

    それはつまり…。

    「大丈夫」

    唯は俯き、静かに頷いてから他の学生の元へ向かった。









    幾分も経たない内に怪我人は増えて行った。増えたと言ってもそんなに多い数ではないが、救護する側に人手が足りていない。

    何処から運ばれて来るのか、唯たち学生は二人一組になって怪我人の応急処置に当たる。
    学科の特殊性からトリアージは1年で習う基礎の基礎だ。唯たちは重傷者を施設内に運び、軽症者を手当する。


    目の前にいるのは見知った補助監督の男性だった。何処だかの建物の倒壊に巻き込まれたらしい。応急処置をして包帯を巻き、ひと段落すると唯は立ち上がる。
    その時に、一瞬影が唯を覆った気がした。鳥の影が通ったような。見上げれば、高くない位置に箒に乗った少女がいた。それから、見知ったシルエットの男性。

    「………棘くん?!」

    箒にまたがる彼女は、男性をふたり抱えているようだった。唯は折れた男性の首に目を見開く。

    「棘くんっ!!」

    叫ぶ唯に気付いたのか、彼女はこちらへと進路を変えて向かってくれた。
    近くで見れば、彼女もかなり疲弊しているようだった。ゆっくりと言うよりも、よろよろと着地してそのまま座り込む。

    「…棘くん…っ」

    唯は思わず棘に手を伸ばす。
    頼むわ、と短く告げた彼女が抱えていた棘の身体を受け取るように抱き止める。ずしりとその体重が唯に伸し掛かった。同時に、胸にはぬるりとした生温かい嫌な感触。

    ーー…血だ。

    …ゲホゲホッと、咳き込む棘の口元は血で染まり、まだ流れ出ているようにも見える。ネッグウォーマーも制服も黒で分かりにくいが、血で濡れていた。

    「……ヅ…、な…?」

    微かに声が聞こえた。
    掠れた小さな声に、棘は僅かに顔を上げる。

    「…棘くん?」

    「……ヅナ、まよ…」

    棘は薄らと瞳を開けて唯を見た。呼吸が上手く出来ないのか、苦し気に肩で息をしているが、普段は見えない口元が小さく動き、唯に向かって口角を上げる。

    「……とげ、く…っ」

    唯の目元にはいつの間にか涙が浮かぶ。
    胸が押し潰されそうな気分だった。目を逸らしたい現実に、心臓が激しく動く。苦しくて、苦しくて。

    「………。駄目、だよ。しゃべっちゃ、駄目」

    唯は袖で涙を拭った。
    自分に言い聞かせるように棘に告げる。
    泣いちゃ駄目だ。

    深呼吸を一度して、極力冷静に棘を見た。すぐ近くの担架に横向きに寝かせ軌道を確保する。
    唯には判断が付かないが、おそらくは術式の反動。外傷はあまり見られない。隣の男性の方は意識もなく、頭に外傷があって重傷に見える。
    唯は手を上げて助けを呼び、2人を大人に託した。

    「貴女も、奥でゆっくり休んで下さい」

    隣にいた箒の彼女にも声をかける。京都校の人だろうか。首元にうずまきのボタンがある。彼女は唯を見た。

    「ありがとう、棘くんを助けてくれて。もう1人のあの人もたぶん、大丈夫です。家入さんがきっと、治してくれます」

    小さく頷く彼女に笑い掛けて、羽織っていた血の着いた上着を一枚脱ぎ唯は救護に戻った。


    しばらくすると、真希、伏黒、パンダも合流した。真希と伏黒は奥の施設へ。パンダは一緒に救護に加わる。それ以外にもあちこちから怪我人が運ばれて、そのまま混乱はしばらく続いた。










    日が沈み、辺りが暗くなる頃。
    唯たち学生は寮に戻るように告げられた。何があったのかは結局分からない。

    「唯さん、これ良かったらどうぞ」

    後で合流した野薔薇がジャージの一着を差し出す。

    「いいよ。汚れちゃう」

    血の着いた上着は脱いだが、唯の胸元は他人が気付く程度には血で汚れていた。今日は本来なら休日なので黒の制服ではない私服のそれがよく目立つ。大分乾いてはいるが。

    「気にしないで下さい。上着しかないので隠す事しか出来ませんが…。このまま、狗巻先輩の所に行きますよね?」

    野薔薇は唯の肩にジャージを掛けた。

    「ありがとう。……?
     あれ…、え?…ぁー、うん。行く…けど…」

    言いながらジャージに袖を通す。
    …何故知っているんだろう。同様で変な返事になってしまった。

    「狗巻先輩待ってますよ。きっと」

    野薔薇は笑った。







    ジャージを見ながら唯は廊下を歩く。
    可愛くて女の子らしいジャージだ。乾いているとは言え、こんな血だらけの唯が着たジャージはやはり返せない。

    「…お店で新しいの買って返そうかな」

    目に入るのは乾いた赤の色だった。
    一枚脱いだ上着も、この服も、たぶんもう洗濯しても元には戻らない。

    ほとんどが棘の血だった。

    恐怖で身がすくむ。
    棘くんが。
    真希ちゃんが、パンダくんが。
    みんながいなくなってしまったら。

    唯はそれを指でなぞる。



    …私はまた、何も出来なかった。








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