あまいあまいベッドに座って壁にもたれ掛かる狗巻先輩をちらりと見ると。制服を脱いでTシャツのラフな格好。ゲームなのかY0uTubeなのか、何やらスマホを見ているようだった。
唯はカーペットの敷かれた床に座り、ベッドを背にして、ローテーブルに置いてあるお菓子をひとつ食べる。
暇だなぁ。
甘いお菓子をつまみ口へ運ぶと、さくっと音がした。
視線を向ければ、相変わらずスマホを見る狗巻先輩。
可愛い顔してるのに。
少し俯き加減で長い睫毛が影になる。
紫がかった瞳が綺麗で。
髪の毛はサラサラで。
色白なのも羨ましい。
スマホを触る手は、
男性なのに指は細くて長くて。
唯よりもひと回り大きいその身体で、いつも優しく包み込んでくれる。
ぎゅってして、撫でてくれる。
その顔は…。
「……」
視線に気付いたのか、狗巻先輩が顔を上げた。唯を見る。
「ツナ?」
少し首を傾げて、不思議そうに尋ねる。
「何でもない、です」
急に恥ずかしくなって目を逸らす。
あんなにガン見していれば、普通気付くよね。
狗巻先輩はスマホを放り出して、ベッドの端まで来て縁に座る。
「ツナマヨ?」
目を逸らす唯の顔を覗き込む。
狗巻先輩は唯を見て笑う。告げるその言葉に深く意味は持たないけれど、それはとても楽しそうで。
「何でもないですってば」
恥ずかしくて顔を上げる事が出来ない。
先輩にぎゅうってしてもらいたいな、なんて。
目を逸らして袋の空いたお菓子を見た。狗巻先輩はそんな唯をじっと見ていた。
ややあって、狗巻先輩が唯の手を取る。
その手元を見れば、唯の手の平を狗巻先輩の細くて長い指がくすぐるように文字を描く。
み て た
「何でもないです」
「おかか」
顔に熱が一気に昇って。
真っ赤になるのが自分でもわかる。
唯はふるふると首を振ったけれど、
「おかかー」
狗巻先輩はもう一度、否定する。そのまま小さく首を傾げてこちらを見るのは、どうするのか聞かれていると言う事だろう。
真っ赤な顔で狗巻先輩を見ると。
少しイタズラな笑顔で唯を見ていた。
唯は少し俯いて。
戸惑いながら狗巻先輩に手を伸ばすと。
狗巻先輩が、両手を広げる。
その口がゆっくりと動いて。
“ お い で ”
声音を乗せずに呟く。
立膝を付いて、その首筋に手を回してぎゅっと抱きつくと。応えるように唯の背中に触れる狗巻先輩。優しく髪に触れて、撫でてくれた。
その首元に顔を埋める。
嬉しくて。
…嬉しくて。
恥ずかしくて、少しくすぐったい。
「すき」
思わず唯が呟くと。
表情はわからないが狗巻先輩が微かに笑う気配がした。
End***