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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    meepoJlo

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    君のひだりがわ好きな人がいる。

    初めは言葉が噛み合わなくて、怖いなぁと思っていたけれど。

    コミュニケーションが取れるようになってくると、その優しさに気付いてしまった。


    棘は1年生の頃から単独の任務に出ていた。
    制服に血を付けて帰ってくる事も多くて。
    心配で。私なんかが心配しても、変わらないし、そう言う世界なんだと頭では理解はしているけれど。
    だからせめて、任務の後は「おかえり」と。
    無事で良かったと「おかえり」に載せて伝えてみた。
    いつも彼は目を細めて、優しく笑って返してくれた。




    真希もパンダもいない放課後。
    唯はしっかりと準備体操をしてからグラウンドを走っていた。本当は体育は嫌いだ。この特殊な学校に入る前は、5段階評価の3だった。限りなく2に近い3。呪力があっても確実に体力が足りない。
    放課後は真希たち同級生に稽古をつけてもらったりもしているが、毎日お願いする訳にも行かないので、週に何日かはこうしてひとりでグラウンドにいる。
    お陰で10周くらいなら余裕が出てきた。

    今日も10周走り切った所で徐々にペースを落とし、ゆっくりと歩き出す。
    肩で息をして立ち止まると、背後から人の気配を感じた。振り向けば、ネッグウォーマーを目深に被る同級生の姿。

    「ツナマヨ」

    差し出されたペットボトルが頬に当たる。冷たくて気持ちがいい。

    「…ありがとう」

    少し驚いたけれど、唯は素直にペットボトルを受け取った。

    やっぱり優しい。





    端の階段に座って休憩をとる。
    学生は少ないのにやたらと広いグラウンド。
    陽が傾きかけ、建物の影が伸びたその場所には、棘と唯の2人しかいなかった。

    もらったスポーツ飲料を飲んで、ちらりと隣の棘を見れば、ネッグウォーマーをズラして彼もペットボトルのお茶を飲んでいた。


    「ツナ」

    言われて呼びかけられる。
    棘は体勢を変えないで、目線だけこちらに向けた。

    「……」

    けれど言葉は続かない。
    棘の言葉にはハッキリした意味がない。ニュアンスで何となく聞いているけれど、今の短い言葉と視線だけでは、正直よくわからなかった。
    何か物言いた気に迷っている…とは、思うのだけど。

    少しだけ待って、唯が口を開いた。

    「知ってたんだね。私が此処にいたの」

    ペットボトルはスポーツ飲料だった。対して、棘が持っているのはお茶。
    たぶんそれは、グラウンドを走る唯を見掛けて用意してくれたんだと思うけれど。唯は誰にもグラウンドに来る事を告げてはいない。

    「しゃけ」

    頷いて笑ってくれた。
    棘は唯の顔を覗き込む。
    恥ずかしくて目を逸らすと。

    「ツナマヨ〜」

    腕を伸ばして、唯の頭にぽんぽんっと軽く触れた。
    まるで子どもを褒めるみたいだ。

    「そんな褒められる事でもないよ。週に何日か走ってるだけだし。なんか恥ずかしいから、みんなには内緒にしてたんだけど。棘くんにバレちゃった」
    「ツナ」
    「また今度。体術教えてね」
    「しゃけしゃけ〜」

    ピースして笑う棘。
    こうしていつも人を気に掛けてくれて。唯を、励ましてくれる。でもそれを、あまり表には出さない。

    やっぱり、棘くんは優しい。


    「ねぇ、棘くんは、その…」

    唯はもらったペットボトルをぎゅっと握った。その印刷されたラベルを見る。

    「好きな子とか付き合ってる子とか、いないの?」

    言ったその手が、微かに震えていた。

    棘と出会って半年以上が過ぎたけど。こう言う話には触れていいのか分からなくて。
    …いると言われるのが怖くて、聞けずにいた。

    しゃけ。おかか。
    そんな風に軽く返ってくると思っていたけど。


    「……」

    隣で、息を呑む気配を感じて。
    唯は顔を上げる。ゆっくりと棘を見れば、明らかに動揺して狼狽える彼の顔があった。
    目を大きく見開いて、その瞳が揺れていた。

    唯は目を逸らす。


    好きな人、いるんだ。
    簡単に聞いちゃいけなかった。


    「…ごめん」

    力なく呟くことしか出来なかった。
    唯はその場に立ち上がる。

    持っていたペットボトルを力いっぱい握りしめて、溢れそうになる涙を堪えた。

    「ごめん、私。無神経な事、聞いちゃって…」

    声が震えているのが自分でもわかる。

    情ない。
    最低だ、私。


    一度言ってしまった言葉は取り消せない。
    それはたぶん、彼が一番知っている。

    後ろから溜息にも似た息遣いが聞こえて。
    また、涙が溢れそうになる。目元を袖で拭った。

    「私、部屋に…、」

    戻るね。
    と、言い掛けた言葉は、そこで止まる。

    「おかか」

    後ろで立ち上がる気配がして。

    「いくら、明太子っ!」

    とんっと軽く階段を降りるように駆ける棘に、手を引かれた。
    「ツナツナ」と、数段の階段の下を指差した。

    「……?」

    戸惑う唯の腕を軽く引っ張る。
    唯はペットボトルを階段に置いて、素直にそれに従って階段を降りた。

    階段を降りると、棘は唯の手を離して砂地の地面にしゃがみ込んだ。
    人差し指で、ゆっくりと、迷いながら何かを書いている。

    「棘くん?」

    「…ツナマヨ」

    座ったまま振り向く棘に、笑顔はなくて。
    ネッグウォーマーを握って、目元近くまでいっぱいに顔を隠していた。
    少しだけ動いて、目線で地面を指す。


     “ 唯 が 好 き ”



    その言葉に、唯は真っ赤になる顔を覆った。

    「………っ」

    堪えていた涙が溢れる。
    それは次から次へと溢れて、止まらなくて。

    「…こんぶ…?ツナ…ッ、お、おかか?」

    棘が慌てて立ち上がり、困ったように唯を覗き込む。

    「こんぶ?たかなっ」

    ごめんと謝る棘に、唯は首を振った。ふるふると何度も首を振る。

    「…違う。違うの…。嬉、しくて…っ」

    唯は袖で涙を拭った。

    「私も、棘くんが、好き…」

    歪む視界を真っ直ぐに棘に向ければ。
    やはり驚いた顔でこちらを見ていた。
    眉を顰めて。泣きそうにも見える揺らぐ瞳が。

    「…しゃけ?」

    小さく息を吐いて、唯を見る。
    唯が頷くと、目深に被っていたネッグウォーマーをズラして、優しく笑った。

    涙が止まらない。

    棘の両手がゆっくりと伸びて、唯の背中に周る。唯よりもひと回り大きな身体が、ぎゅっと包み込む。唯は棘に身体を預けた。
    片腕が、そっと唯の頭に触れた。さっきみたいな子どもにするとは違う感触。
    静かに唯の頭を撫でた。

    棘の口元がゆっくりと動く。


     す き 。


    微かに揺れるその声が、聞こえた気がした。









    End***





















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