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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    meepoJlo

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    雨宿り今日の天気は晴れだった。綺麗な青空が広がっていたはず。


    校内の資料室で調べ物をしていたら、こんな時間になってしまった。言ってもまだ時刻は16時。暗くなるには少し早いが、窓の外は急速に曇り始めて景色を変えていく。
    もうすぐ雨が降る。

    傘もないし、慌てて荷物を片付けて校舎を出たが、幾分も行かない内にやはり大粒の雨が落ち始めた。ほんの数分で激しく降り始める。

    「何でなの…」

    たくさんの建物が入り組んだ学校内の施設は、まだ立ち寄った事のない建物も少なくはない。
    唯はUターンして一番近い施設で足を止める。
    寮まではさほどの距離もないが、この雨の中走るには少し辛い距離だった。肩で息をして立ち止まり、持っていたハンカチで濡れた顔を拭う。






    そこは大きな御堂のような建物だった。
    社寺仏閣のそれによく似ていて、御堂の周りを回廊がぐるりと一周しているように見える。裏側には渡り廊下があり、おそらく校舎に繋がっているのだろう。正直、唯にはよくわからない建物だ。わざと分からなくしてあるのかもしれない。
    御堂の出入り口には手すりの付いた階段があり、唯はそこで雨を凌ぐ。一応御堂の前には賽銭箱もあった。校内で、誰かお金を入れるんだろうか。

    階段に座り、項垂れてただ外を見た。
    見上げた空は暗く、雨が止む気配はない。
    唯は重い溜息を吐く。鞄も制服も濡れてしまった。生憎今日はジャージも持っていない。

    少しだけ時間を潰して、止まなかったら走って帰ろう。そんな事を考えながら唯は静かに座り込む。

    辺りを見れば誰もいない、静かな場所だった。雨の音だけがうるさく響く。

    濡れた制服が冷たくて重い。
    唯は制服を脱いで、濡れた鞄の上に置いた。Tシャツを着ているから問題はないけれど、雨で気温も下がったのか少し冷える。膝を三角に折って抱え込むようにうずくまった。

    「ツイてないなぁー」

    このまま雨が止まなかったら、制服で雨を凌いで走るか。寮までは歩いても数分。それまでに少しでも雨が小降りになればーー…



    「………っ?!!」


    バサバサと音が耳に響いて、急に視界が真っ暗になる。

    「…ぅ、ああぁぁぁあっ?!」

    思わず変な声が出てしまった。

    唯は慌てて手を伸ばす。
    布の感触だ。たぶん、黒い布。
    ふわりと香るその香には、微かに覚えがあった…気がした。浮かぶその顔に、頭が真っ白になる。

    思考回路が追い付かずに、空をかいたその手に、温かい人肌が触れた。手首を掴まれたかと思うとその手はするりと滑り唯の掌を握る。
    握った手は、唯の手を包み込むくらいに大きく骨張った男性の手。

    たぶん、先輩の手だ。

    唯の心臓が跳ねて、緊張で身体の動きを止める。布は小さな音を立てて、足元に落ちた。

    目を見張れば、すぐ隣にはやはりその顔があった。首を傾げて唯を覗き込むその深い色の瞳。

    「ツナマヨ」

    握られた手をそのままに子どものように笑う狗巻先輩。ネッグウォーマーの中の口元が想像に容易い。
    唯は真っ赤になって顔を逸らす。

    「何するんですか…狗巻先輩…」
    「いくら」

    握った唯の手を離して、狗巻先輩は落ちた黒い布を拾った。ーー否、黒い布はたぶん狗巻先輩の制服だ。先輩は黒の半袖のTシャツを着ていた。ネッグウォーマーだけ首元に巻いている。
    唯は制服を拾う姿を座って見ていると、狗巻先輩は立ち上がって3回程はたいた。
    唯に向き直ると、制服を広げて肩にそっと掛け直す。先と同じ香りがふわりと漂うと、唯は顔は再び赤くなった。

    「ツナ」

    狗巻先輩は笑って唯を見た。

    「ダメです…!そんな、お借り出来ません。私はもう濡れてるので、気にしないで下さいっ」

    制服に手を掛けると、その手を取られて静止される。

    「おかか」
    「でも、先輩が寒いですから…」

    「おかか」

    「…でもっ」

    「おかかー!」

    言い掛けたその言葉を、狗巻先輩の人差し指が唯の唇を指して止める。触れそうで触れないその距離に。思わず唯は口を噤む。
    声を出したら触れてしまいそうで。ドキドキと胸が煩く鳴っていた。

    「おかか」

    満足そうに笑った狗巻先輩は、その人差し指で唯の額を小突いた。
    唯は額を抑えて目線を逸らす。顔が熱い。

    「………っ」

    額を抑えたままちらりと狗巻先輩を盗み見れば、こちらを見て悪戯に笑う。尚も余裕のある先輩の笑みに、何だか負けた気がする。

    唯は足元を見た。
    狗巻先輩は小柄だが、こうして制服を着てみるとやはり唯よりも大きい事を改めて実感する。袖は通ってないけれど、肩幅は広く取られていて唯の身体では制服はぶかぶかだった。
    温かい。


    「ツナ?」

    呼び掛けられて顔を上げると、目の前に握られた手を差し出された。相変わらず楽しそうな狗巻先輩に、唯も笑顔になる。

    「明太子っ」

    ぱっと掌を開くと、小分けされた袋の飴が一粒。

    「…のど飴、ですか?」
    「しゃけ」

    黄色い色の包み紙。はちみつとりんごののど飴だ。

    「くれるんですか?」
    「しゃけ」

    一瞬戸惑ったが、唯はそれを素直に受け取る。

    「ありがとうございます」

    お礼を言うと、狗巻先輩は笑って頷いてくれた。年上だけどその笑顔はやっぱり可愛い。任務の時とは違う優しい顔が、大好きだった。
    唯はのど飴の袋を見た。袋を開けて早速それを頬張ると、口には甘いりんごの味が広がる。

    「美味しいです」

    言って振り返ると、狗巻先輩は隣で目を細めて唯を見ていた。
    目が合うと、恥ずかしくてつい目を逸らしてしまう。

    「ツナマヨ」




    雨は止まない。少し小降りにはなっただろうか。
    曇天のせいで既に薄暗いが、もうすぐ陽も沈む時刻だ。

    「いくら」

    狗巻先輩は立ち上がると、御堂の向こう側、回廊の先の渡り廊下を指差した。

    「あ、あっちは校舎ですよね」

    そう言えば、狗巻先輩は何をしていたんだろう。

    「しゃけ。ツナツナ」

    唯の濡れた鞄と制服を手に取り、着いてくるように言って、歩き出す狗巻先輩。唯は靴を脱いで慌てて着いていく。鞄と制服に手を伸ばすが、おかかと軽く避けられる。

    「ツナ、明太子」

    このまま教室に向かうらしい。
    荷物を取りに行って、帰る。

    「教室…。あ、傘!傘あるんですね!」
    「しゃけ〜!憂太、明太子」

    言ってにこやかに笑った。
    ん?憂太、は確か乙骨先輩の事だ。今は海外にいるらしい。

    「って、…乙骨先輩のですか?!」
    「しゃけ!」
    「いいんですか…」
    「すじこ!」

    狗巻先輩は明後日の方を向いて笑う。













    日下部先生に呼び出されて資料の整理を手伝った。次の任務に関わる資料だった。

    こんな所にも資料室があったのか、と。棘も初めて入った部屋だった。やっと終わって通い慣れない廊下を進むと、雨の中渡り廊下の向こうの建物に人影が見えた。

    ーー唯だ。

    シルエットが分かるくらいには近い距離の渡り廊下を棘は廊下から逸れてそちらへ進む。



    回廊の階段で座り込む唯の後ろ姿。

    「ツナー…?」

    声を掛けようとして息を呑む。
    濡れた制服を脱いで白いTシャツの彼女。その背中には、透ける模様が浮かんでいた。

    「…………っ!」

    慌てて辺りを見回すが、誰もいない。
    ホッと息を吐くと、同時に心臓が大きく鳴った。やり場に困った視線を唯から逸らす。たぶん…水色。

    棘は左胸の渦巻き柄のボタンに手を掛けた。制服を脱いで唯に近付く。
    雨の音が大きいからか、唯は全くこちらに気付く様子もない。呪術師としては、少し心配になるが。

    静かに唯に近付いた棘は、その制服を手放し唯に頭から被せた。

    「…ぅ、ああぁぁぁあっ?!」

    すっとんきょうな声に慌てふためく唯の手が空を舞う。
    フッと思わず笑みが溢れて、棘はその手首を掴んだ。棘よりもひと回り小さな彼女の手を、ぎゅっと握る。

    冷たくなったその唯の手を。







    誰にもあげない。

    誰にも見せたくない、と。



    首を傾げて彼女の顔を覗き込み、笑う。

    「ツナマヨ」







    End***








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