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    大大大好きな夢主が幼児化していたので職場に連れて来た日車先生の話

    #幼児化
    infantilization
    #日車寛見
    japaneseCarKanzumi
    #夢小説
    dreamNovel
    #じゅじゅプラス
    longevityBonus

    大大大好きな夢主が幼児化していたので職場に連れて来た日車先生の話「ウ、ワ……」

     その日、勤務先のドアを開けた瞬間に思考が停止した。

    「んー、やーあ」
    「本当に可愛いなkitty、こっちのペンで絵でも描くか?」

     ドアを開ければ、いつも勤務開始30分前には席についている上司兼雇い主、日車寛見のデスクの上に年端も行かない少女が座っていた。
     少女と言ってもまだ言葉もままならないところを見るとまだ2歳くらいだろうか。
     淡々と背筋を伸ばして実務をこなす彼は今はデスクに頬杖をつき、外国人のお客さん相手でもないのに無駄に綺麗な発音でその子供を”kitty”と呼び、それはもううっとりした顔をしてグイグイと前髪を引っ張られていた。

    「ひッひひひひ日車さーん!?」
    「……なんだ、大きな声を出して。彼女が驚くだろう」
    「彼女!? いやお子さんできたんですか!? あ、それとも姪っ子さん!? いや孫!?」

     タイムカードは切ったのか、と彼はデスクの書類に手を伸ばそうとするその子を抱き上げると膝へと抱いた。よしよし、と頭を撫でて額にキスをしているのを横目で見ながらタイムカードを切る。シートを逆に入れたせいでビ、とエラー音が鳴って紙が突き返されたがもうそれどころではなかった。
     まさか隠し子ですか、と震える声で伺うと、彼が乱れた前髪を直しながらこちらを向いた。

    「……いや、彼女だが」
    「彼女って……まさかあの”陽だまりさん”ですか」

     “陽だまりさん”というのは彼が休憩がてら立ち寄る喫茶店で出会った交際相手の女性を称していた呼び名だった。わざわざ呼び名をつけていたのは彼が彼女の名前も知らなかった為なのだがそれはまた別の話である。
     しかし偶に事務所へと顔を出すその子の柔らかな立ち姿、そして花のようにはにかむ姿を見れば、確かに”陽だまり”のように思わなくもない。そう呼びたくなるのも分かる愛嬌のある女性だった。
     自分のタイプの女性を花に例える人は見た事があったが、この恋愛に疎そうな上司の中に女性を太陽に例える感性があるというのは今でもなんとなく信じられない。
     しかし彼女は確かに”陽だまりさん”だった。彼女が昼間に来ると、窓の隙間から日が差すのだ。どんなに酷い雨が降っていても途端に勢いが収まるのだからそれはもう凄かった。
     晴れ女って訳じゃないんですけど、と照れ笑うその子に、明日友達とハイキングするんだけどついて来てくれないかなあ、とこそこそ耳打ちしていると、彼女を体良く使わないでくれ、とサーッと出口まで連れて行かてしまった事もある。

    「……だから、この子は彼女だ。君も何度か話したこともあるだろう」
    「いや、でも、あの子普通に成人してましたよね、その子は見たところめちゃくちゃ子供ですけど……」
    「起きたらこうなってた」
    「そんな事あります!?」

     しかし言われてみると、その顔にはどことなく面影があるような、ないような。

    「エエ……そんな、えーッ」
    「……ほら、ご挨拶できるか?」

     半信半疑で女の子を四方八方から見ていると、彼がその子の体をこちらに向けて抱き直した。幼児独特の白目の比率の少ないくりくりとした目がこちらを見る。

    「……ん、ゆ」
    「はァ!? えっ! ウワ……」
    「なんだ変な声を出して……」
    「いや、私めちゃくちゃ子供好きなんですよ……」

     ドキドキしながら見ていると、少女が少し困ったような顔をしてちら、と彼の方を見た。し、み、ず、とゆっくり自分の名前を教える彼を見るとつい吹き出してしまいそうだったがなんとか堪える。
     しみゆ、しみず、しむゆ、しみず、と何度か二人の間で小声で小さくやりとりをしてから、少女がもう一度こちらを見た。
     
    「……し、みず…たん」

    「ハァッ!!!!」

     ……絶叫した。
     うう、とあまりの愛らしさに自分の身体を抱いてウゴウゴともがいているとハー、と彼の方も椅子にのけぞっていた。……人の背骨はそんなに柔らかいものだったか。

    「早く結婚したい……絶対結婚する」
    「いや日車さん、今のままだと犯罪になっちゃいますよ」
    「もう犯罪でもいい……」
    「貴方弁護士ですよね!?」

    「ん、ひろみ、く、」
    「なんだどうした」

     少女がくいくいとシャツを引っ張ると彼はバッと弾かれたように起き上がった。そして何かに気づいたように鞄からごそごそと何かを大量に取り出し始める。
     
    「日車さん、なんですかそれ」
    「どうぶつさんビスケットバニラ味にココア味、まぜまぜまぜルンにぷちぷちグミにチョコパイとやさしいミルク飴。そして田村屋のお揚げ蕎麦だな」

     勿論最後のは俺が食う。
     お腹が空いたら可哀想だろう、と真剣な顔をして両手に余る程のお菓子を少女の前へと几帳面にまっすぐ揃えて並べていく様はもう笑っていいのか駄目なのか分からなかった。
     朝早くのスーパーで、スーツ姿のままこの量のお菓子を買ったんだろうか。
     ……それはちょっとだけ見てみたい。
     大量のカラフルな袋を並べられ、少女はぺたぺたと袋を触っていたがどれもなんだかぼーっとした顔で見比べていた。そしてビスケットを掴んだものの、すぐに飽きたのか手を離してしまう。
     カサ、と机に包装が落とされた瞬間、ヒュッと小さく息を呑む音が聞こえた。
     そっと伺うと、彼の顔が小さく引き攣っていた。気性の荒い依頼人から怒鳴られても、どんな判決が出ても、基本的には感情が出ない人なのに。
     ……相当ショックだったのかもしれない。
     少女はそんな彼を他所にこしこしと小さな手で目を擦っていた。小さな口がぷぁ、とあくびをする。
     
    「……もしかして眠いんじゃないですか?」
    「……そっちか」

     彼がまたサッと鞄に手を伸ばす。また何かを取り出すつもりなんだろうか。
     見守っているとそこからはずるりとオレンジ色のブランケットが出て来た。
     そんなに大きな鞄という訳ではないのに、大きな手にズルズルと引っ張り出されたそれは大人の腰丈くらいなら簡単に覆えそうな程の大きさがあった。
     ……どうやって限られたスペースにそれだけの量を収納したんだろうか。
     少女の世話をする為のアイテムを次々と鞄から出してくる様はまるでどこかの猫型ロボットのようだった。
     マジシャンのようにバッと布を広げると、それは向日葵の絵柄をしていた。彼女さんの名前がフチに金色の糸で刺繍されているところを見るとそれは少女、もとい彼女さんの私物らしい。
     布が広がると、ふわりと花のような香りがした。柔軟剤とも香水とも違う不思議な香りだった。

    「ん……、ひろみく、」
    「顔を上げて、そういい子だ」

     手際良くクルクルと布を小さな身体へ巻きつけ、片手に抱えるようにして彼が少女を抱き直す。そして胸の中へ優しく抱くとデスクを立った。

    「今日はアポも無いから誰か来るまでソファで寝るか?」
    「そあー」
    「”ソファー”」
    「そぁ、あ、ふ」

     ぷぁ、とまた少女があくびをする。ころんとソファーに横に寝かされると長いまつ毛が眠そうにゆっくりと伏せられた。

    「…………清水」
    「は、はい」

     彼がソファーの横で膝を折り、うとうとした少女を見つめながら話しかけてくる。どんな資料を見る時よりも真剣な顔をしていて、思わず背筋を正した。

    「……大人から、いや、親から幼児へのキスは一般的に虫歯のリスクがあるとされている」
    「……はあ」

     ……一気に気が抜けた。何を言い出すんだこの人は。

    「しかし俺は彼女の親でも無い。彼女のご両親が知ったら児童への”強制わいせつ”をしたとして訴えられる可能性もある。だが、俺は彼女と心的交流を重ねての交際を真剣に続けてきた」
    「あの、つまり何が言いたいんですかね」
    「……おやすみのキスがしたい」

    ……私は何を聞かれているんだろうか。
     好きにしたらいいんじゃないですか、と答えるとすぐにチュ、と小さく音がした。

     いや早すぎる、行動が。

     朝から慌ただしくすまないな、と立ち上がると彼は本棚から分厚いファイルを取り出してデスクに戻ると、ビッと机に広げる。
     そしてパソコンの電源を入れるとそのまま静かにキーボードを打ち始めた。

    「……いや、切り替え!!」

     思わず叫ぶと、彼女が起きる、と小さな声で注意された。
     その後お昼休みに2人してアルバム3冊分は写真を撮って、帰り際に写真館の予約を入れようとした所で応接スペースから彼女さんの悲鳴が上がり、最寄りの服屋へ着替えを買いに走ったのはもう少し後の話だった。

     後日、撮った写真を彼女に消されてしまったと死んだ顔で漏らす彼に、ネットに自動保存されてると思いますよ、と端末に備わったクラウドサービスを伝えた所、週末には少しいいお店でお酒を奢ってくれた。

     少しストイックすぎる部分もあるが、やはり彼は本当にいい上司である。たぶん。
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