Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 102

    meepoJlo

    ☆quiet follow

    君だけに「お願いします」

    声にして唯が構えれば、口元をネッグウォーマーで隠した狗巻先輩は微かに頷いた。ジャージにラフなTシャツ。笑顔はなく、その眼光は鋭く唯を見る。

    静かな屋内の武道場だった。
    夕方の傾きかけた陽射しがやんわりと差し込んで、影になった畳を照らす。


    唯は一度呼吸を整えて、相手の出方や様子を見ながらも走って間合いを詰めた。
    迷いなく真っ直ぐに進み、まずは上段蹴りでその頭上を狙う。右足を振り上げるが、一歩引いた先輩に難なく交わされてしまった。
    地面に着いた右足を軸にして回転を加え、左足で回し蹴りを入れるが、先輩は当然のようにひらりと交わして体制を低く持って行く。

    足だ。
    と、すぐに気付く。

    小柄な狗巻先輩はよく、相手の足元を狙う。
    警戒して瞬時にその足元を注視すれば、やはり狗巻先輩の足が伸びた。

    ーー早い。

    理解はしていてもスピードが追い付かずにギリギリで飛び上がって交わすと、体勢が崩れて倒れ込みそうになる。それを寸前で踏ん張って立て直すが。

    顔を上げると、狗巻先輩は微かに笑っていた。

    あ。これはダメなヤツだ。

    分かってはいてもその手を伸ばした。
    着地に失敗しているので上手く伸ばせないが、実戦だったら文字通り「終わり」だから。

    首を狙って手刀を出すが、それはやはり狗巻先輩の片手で阻止される。空いた手で唯の手首をぎゅっと握られて、力一杯引っ張られた。
    声もなく前に倒れ込む唯の身体を支えつつ、背中に周る狗巻先輩は。

    「高菜」

    唯の耳元で小さく呟く。
    首に軽く触れた狗巻先輩は、唯を覗き込む。

    「………っ?!」

    掠れた低い男性の声に、唯の意識は一瞬でそちらに向かう。振り返り見るとすぐ隣にある狗巻先輩の顔。目が合ったが、愉しげに笑ういつもの揶揄いまじりの笑顔はない。

    「ツナマヨ」

    もう一度耳元で囁かれれば、唯はその静かな吐息に顔に熱が昇るのを感じた。
    足の力が抜けてゆるゆるとその場に座り込む。真っ赤になる顔を隠して耳を抑える。

    「唯の負けだな」

    控えていた真希先輩が告げる。

    「足に注目したのは良かったと思うぞ。スピードが追い付いてないけどな。唯は普段から棘の事よく見てる」

    息を切らす唯に、余裕のある狗巻先輩。
    普段から見ているのは正解だ。体格が似ている狗巻先輩の体術を盗みたくてよく見ていた。

    …が、今はそれ所ではない。
    鼓動が早いのはたぶん、身体を動かしたからだけではないだろう。

    狗巻先輩はへたり込む唯の後ろで、ネッグウォーマーを掴んで鼻先まで顔を隠していた。唯を見る。

    「最後のはセクハラだな、棘」
    「何言ったかは聞こえんかったけど、女の子を揶揄うと嫌われるんだぞ」

    真っ赤になってうずくまる唯に、パンダ先輩と真希先輩は呆れたように声を上げる。

    「おかかぁ」

    狗巻先輩は直立で、先輩たちに向けて不満そうに抗議する。
    しゃがんで唯の顔を覗き込んだ。

    「こんぶ?」

    目線を合わせて首を傾げる狗巻先輩。
    大丈夫か尋ねられているんだと思うけれど。大丈夫な訳もなく、その顔に声も出ない唯は真っ赤な顔を隠すように目を逸らす。
    そんな唯の耳元にまた、狗巻先輩は近付く。耳元を隠すように抑えた唯の手を握って外し、向こうに居る先輩たちには聞こえないくらいに小さく囁いた。

    「高菜」

    恥ずかしくて頭が真っ白で。目尻には微かに涙が浮かぶ。

    「……か、揶揄わないで、ください…」

    その目線に耐え切れずにいると、狗巻先輩は唯の頭に手を伸ばした。ぽんぽんっと軽く唯の頭を叩く。

    「ツナマヨ」

    真っ赤な顔を上げると、目が合った先輩は唯を見て笑った。頑張ったね、と目元が細くなる。

    「…狗巻先輩…?」

    「ツナツナ、明太子。しゃけ」

    ジェスチャー交じりに笑う先輩は、先までの事を気にする風もなく普通に体術を褒めてくれた。
    以前よりはスピードも上がってはいるそうで。判断は割と早いから、成長はしている、と。
    そのいつも通りの言葉にホッとして、唯も明るく笑顔を咲かせる。

    狗巻先輩はしゃがんでいた腰を上げて立ち上がる。唯に手を差し出した。

    「いくら」

    思わず手を出すが、ふと我に返って僅かに逡巡しその手を止める。今更だけど、体術のそれとは違う狗巻先輩の掌。また鼓動が脈打って、顔が熱くなる。

    固まる唯には構わず、狗巻先輩はその手をとった。大きな男性の掌に包み込まれる唯の小さな手。
    狗巻先輩が片手に力を入れて、唯を引っ張り上げると、

    「……っ、あっ」

    お互いのタイミングが合わずにバランスを崩した唯の腰を、空いていた片方の手で狗巻先輩が支えて受け止める。

    「………っっ?!」

    心臓が煩く鳴る。
    ドキドキとその心音が伝わるくらいのその距離に、気付いた唯は慌てふためくが、動くことも出来ず。

    「こんぶ」

    「……っだ、だ大丈夫です」

    唯は身体を立て直して一歩引く。腰にあった手はすぐに離れて行ったが、繋がれた手は離されずそのままで、唯を引きずるように真希先輩たちのいる壁際に向かって歩き出す。

    「…狗巻先輩?……??」


    「棘、その辺にしとけよ」
    「おかかー」

    唯困ってるぞ、と真希先輩に言われたが、狗巻先輩が見たのは唯の同級生である1年生がいる方だった。
    虎杖くんと伏黒くんの目線が狗巻先輩に行く。きょとんとする虎杖くん。伏黒くんはやや面倒そうに、すぐに目線を外した。野薔薇ちゃんも2人を見ている。

    唯はそのまま手を引かれ、2年生のいる壁際まで来る。ようやく解かれた手。その温もりにまだドキドキと心臓を鳴らしながら、狗巻先輩の隣に収まる。
    特別何をする訳でもないが、そこに2人で座って道場を見た。真希先輩の指示で次はパンダ先輩と伏黒くんが組むらしい。

    あまり思考回路が働かず、ぼんやりと組手を眺めながらその原因をちらりと盗み見れば。
    視線に気付いたのか、狗巻先輩も唯を見た。先輩は唯に、軽く笑いかける。
    そっとネッグウォーマーをずらして、呪印の見える口元をゆっくりと動かした。



    “ す き ”


    笑って人差し指を口元に立てる狗巻先輩に。
    唯はまた、頬を染める。








    End***






    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works