キスの日 2『キスして欲しいの?』
「今日はキスの日なんだって」
と、言った唯は膝を三角に折って座り、隣の彼を見る。何気なく、さっき野薔薇に言われた事を思い出しただけなんだけど。
制服はとうに投げ捨てて、ラフなTシャツにジャージの部屋着、黒のマスクを着けている。動画を見ていたスマホから目を離して、棘は顔を上げた。
小首を傾げて唯を見る。
「ツナ?」
棘の目はニヤリと悪戯に笑う。
スマホをローテーブルに投げ出して、空いたその手でマスクを摘んでズラす。普段は隠れている口元の呪印。僅かに目を細めて、口元を緩めた。
「ツナマヨ?」
キスして欲しいの?と、何となく伝わるその言葉に、唯は赤くなった顔を隠して視線を逸らす。
「…そ、そう言う、意味じゃなくて…!さっき野薔薇ちゃんに言われただけで…」
恥ずかしくて、三角に折った足を抱え込む。蹲って、膝に頭を置いた。
否…、キスしたくない訳じゃないけど。
「おかか?」
棘はゆっくりと唯の耳元に唇を寄せる。
「ツナマヨ?」
優しく、いつもよりもちょっとだけ低い掠れた声で呟いた。
耳に掛かる唯の髪を掻き上げるように掬って持ち上げ、露わになった首元にそっと口付ける。
「………っ?!」
思わず顔を上げれば、棘の綺麗な瞳がすぐ目の前にあって。悪戯に微笑んだ彼の顔が、唯の唇を噛み付くように奪っていった。
「ツナ」
棘は真っ赤になって固まる唯に、満足そうに笑んで。ペロリと舌を出して見せる。
ズラしたマスクの紐を片指で摘んで外し、ローテーブルに置いて。その手で唯の手を絡め取った。反対側の手が、唯の頬に触れて。
「ツナマヨ?」
悪戯に笑う棘は、もう一度同じ質問をする。
“ キスして欲しいの? ”
End***