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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    🔞

    我が儘スマホを見れば、既読の付いたメッセージ。
    その送り主に胸が高鳴った。最近はいくらかやりとりがあってもう見慣れたその人の名前。

    [ 遅くにごめん
    今から会える? ]

    狗巻先輩は今日の夕練に参加していなかった。単独の任務で朝から出ていると、真希さんから話を聞いていた。

    [ おかえりなさい
    お部屋ですか? ]

    [ もうすぐ寮に着くよ ]

    時刻はもう20時を過ぎた所。
    遅いと言えば遅い時間だが、まだ眠るには幾分か早い。明日は土曜で学校も休みだし、狗巻先輩に会えるのなら、と。僅かに頬を染めて、唯はスマホひとつを手に共同の玄関先で彼を待った。

    [ 夕ごはんですか?]

    聞いてそのまま、既読が付いただけだった。
    何の用事かは正直よくわからないけれど。唯を選んでメッセージをくれた事が、素直に嬉しかった。

    一言、お疲れさまですって言って。

    共同キッチンに置いたままのココアでも淹れて、一緒に飲んで。
    少しだけお話出来たらーー
    なんて。


    ぎゅっとスマホを握って画面をオフにする。
    歴史を感じられる古びれた寮の廊下を照らす明かりは、心許無く小さく光る蛍光灯と、満月に満た無い月明かり。寮生が少ないからか、普段から人とすれ違う事も少ない。今日もそこはとても静かで。僅かに遠くから人の声が響くのみだった。
    廊下の窓は所々開いていて、時折気持ち良い夜風が頬を撫でていく。



    カタン、と物音が聞こえて。
    唯は顔を上げる。淡い明かりの中、寮の扉を開く狗巻先輩。唯に気付いて軽く手を上げてくれた。

    「おかえりなさい」

    靴を履きかえる先輩に近付いて、笑顔で声を掛ける。見た所怪我もなさそうでほっとした。
    けれど、静かに足元を見る狗巻先輩の、纏った空気の重さに僅かな不安が胸を過る。

    「ツナ」

    狗巻先輩はただいま、と短く答えて顔を上げる。
    あ、と小さく唯の声が漏れた。

    「…お疲れさまです」

    僅かに目を細め、紫の瞳が唯を見た。薄い月明かりが先輩の瞳に反射して映る。それはとても綺麗で。
    でも、いつも優しく笑ってくれる瞳が、今日はすこしだ冷たく見えた気がした。

    「狗巻先輩…?」

    不思議そうに呟く唯に、狗巻先輩は不服そうな顔を見せる。

    「…おかか」

    言われて唯は目を瞬いた。
    おかか、と言われたけれど。その意図が上手く読み取れなくて。

    「先輩?…何か、」

     ーーあったんですか?

    尋ねようとしたその言葉は、狗巻先輩の唇に塞がれて途中で消える。
    片手でズラしたネックウォーマーから覗く蛇の目の呪印。噛み付くように触れた柔らかな感触に、唯は大きく目を見開いた。
    頭が真っ白になって何も考えられなくなる。

    「…………っ?」

    軽く触れただけの唇はすぐに離れていくが、吐息混じりの呼吸が唯の耳に響く。
    胸がひとつ、大きな鼓動を打った。

    先輩は、ゆっくりとネックウォーマーのチャックを開いていく。静かに、小さく口を開いて。

    ゆっくりと伸ばされた腕が、唯の顔にかかる。状況が飲み込めずに固まって動けない唯に、微かに口の端を上げて…、笑った気がした。
    唯のそれよりもひと回り大きな彼の手が、頬を僅かに掠めて耳元に触れる。ぎゅっと唯の耳を塞いだ。
    はくはくと、彼の口元が動く。

    “ ダ メ だ よ ”

    と。
    耳を塞がれて、上手く聞き取れない声が小さく響く。ほんの僅かに眉を顰めて、困ったような表情で唯を見た。

    “ こんな時間に、
     男性の誘いにのっちゃ、ダメ ”

    唇の動きだけでは上手く読み取れなくて。
    ただ、何かを否定された事は理解出来た。

    「…だから、」

    ふわりと、耳元から塞がれた手が離れていく。
    その手は唯の髪を掻き上げるように掬い、頭に触れる。すぐ目の前にあった狗巻先輩の顔が近付いて。僅かに腰を屈めて首を傾け、もう一度唯の唇に自身の唇を重ねた。
    触れた唇から、少し開いた唯の口元に舌先がねじ込まれる。ぬるりとしたその感触に、背筋が泡立つのを感じた。

    「…………んっ」

    固く目を閉じて、逃れるように唯は狗巻先輩の胸元の掴んだ。感じた事のない感覚に耐えながら、掴んだ制服を力一杯押して抵抗の意を伝えてみる。

    「…………ゃ、…っ」

    狗巻先輩の腕に力が入る。あまり身長差もない小柄な身体は、押してもびくとも動かない。何も考える事が出来ずに、ぎゅっと先輩の制服を握り締めた。
    息が出来ないくらいの苦しさに頭がくらくらする。微かに震える唯の手に、狗巻先輩の片手がそっと触れた。
    不意に解放された唇に、離れていく舌先は糸を引いて。唯は肩で息をしながら、真っ赤になって俯く。

    「…せん、ぱ……っ?」

    唯は狗巻先輩の胸を押して離れようと一歩下がる。まだ乱れた息を整えながら顔を上げれば、余裕なく見た事のない先輩の顔。
    一瞬、月明かりに光ったように見えたその紫の瞳は揺れて。触れていた唯の手首を掴んで引く。
    とん、と背中に冷たい壁が当たった。唯の腕は壁に縫い付けられる。
    狗巻先輩は、唯の首元にそっと顔を埋めた。ちゅっと、軽いリップ音が辺りに響く。

    「高菜」

    呟いて顔を上げ、唯にふと笑い掛ける。

    「ツナマヨ」

    唯の手首を掴み、握っていた狗巻先輩の手は力を無くして開いていく。ぎゅっと力んで拳を握っていた唯の手を包み込んだ。くすぐるように指先を滑らせて掌を重ねれば、長い指先を絡ませて優しく握った。

    唯の顔を覗き込むのは、いつもの狗巻先輩。
    でも、握られたその手の感触は、初めて感じるのものだった。煩く鳴る心臓は鳴り止む事もない。

    「…狗巻、先輩……?」

    その名前に、先輩は目を伏せて息を吐く。綺麗な顔が月明かりに照らされて、長い睫毛が影を作った。
    唯は声もなく、ただそれを見ている事しか出来ない。

    もう一度腰を折る狗巻先輩は、Tシャツの上から唯の胸元にひとつ、唇を落とした。軽く触れて悪戯に唯を見上げると、静かに離れていく。
    もう殆ど力もなく拘束されていた訳でもない掌から先輩の指が離れていった。

    離れた指先から、僅かに広がる寂しさと。
    そんな気持ちから来る羞恥心に、赤くなる頬を隠してその場で俯く。

    「いくら」

    そんな唯の頭に触れて。優しく撫でる狗巻先輩の大きな掌。
    ーーさっきまで唯に触れていたその手がまた、離れていく。

    顔を上げた唯に、先輩はまたゆっくりと唇を動かした。音の乗らない先輩の声。


    “ お や す み ”


    薄く微笑んで紫の瞳を唯から逸らし、そのまま踵を返した。振り返る事もなく、背を向けて何も無かったように歩き出す。

    「……………」

    お互い言葉はなく静かで。
    狗巻先輩の後ろ姿が離れていく。

    唯は握られていた手を持ち上げた。ほんの少し震える掌。大好きな狗巻先輩のぬくもりがまだ、そこにあるようで。
    あんな風にされたのに。キスされて、少し怖かったけど。

    まるで胸にぽっかりと穴が空いたようで。

    ーー寂しくて。



    唯は思わず、その手を伸ばした。
    想像よりも広い彼の背中の、制服の裾を遠慮がちに握り締める。
    小さく口を開くが、震える唇からは上手く言葉が出ない。

    「ツナ?」

    狗巻先輩はその場で足を止めた。唯は耳まで真っ赤になる顔を隠して自分の足元を見る。

    思わず引き止めてしまったけれど、

    ーーそれはつまり。


    その意味に、裾を握った手にぎゅっと力が入った。
    羞恥に涙が滲む。ドクドクと煩く鳴り響く心臓。唯は唇を噛んだ。

    「明太子?」

    わかっている癖に、どうしたのと尋ねて。ふっと小さく笑う気配がすぐ側にあった。

    「…意地悪、言わないで…ください…」

    俯く唯に、狗巻先輩は向き直る。握っていた裾から思わず手が離れていった。

    「明太子」

    もう一度、どうしたのと尋ねて、伸ばした手で唯の首筋に触れた。
    思わず身体が跳ねて、疼く感覚に胸を押さえる。

    「…ズルいです…。その気にさせておいて…」

    こぼれ落ちそうな涙を堪える。
    そんな唯の頬にその手を添えて、狗巻先輩が耳元に顔を寄せた。


    「 お い で 」



    唯にしか届かない小さな小さな声で呟いて。

    唯の手を取る。
    その言葉は呪いかもしれないけれど。
    たぶん、それは唯の意思。

    ゆっくりと顔を上げて、絡まる視線の先には優しく笑ういつもの狗巻先輩。緊張の糸が少しだけ解けていく。

    唯はその手を握り返した。
    それ以外の選択肢は、たぶんないから。













    窓から入る光が眩しく朝を告げる。
    朝は苦手だ。
    時刻はもうすぐ9時になる。土曜日は何もなければアラームも消しているから、9時に自ら目が覚めるのはまだ早い方だった。

    棘は身体を起こして隣を振り返る。
    規則正しく揺れる彼女の肩。白い首筋や背中には、いくつかの赤い痕。
    棘はゆっくりと温かなその頬に触れる。微かに身じろぐ唯。

    こうなることを望んで。
    断る術を絶って。
    彼女の優しさに、その気持ちにつけ込んで、
    仕向けたのは自分。

    「ごめんね」

    と、小さく呟く。

    「大好きだよ」



    告げた言葉はきっと、彼女には届かない。
    それがもどかしくて。
    もう一度、唇を落とした。

    その頬に。首筋に。耳元に。
    自分のものだと、痕跡を刻んで。







    End***







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