きみのてのひら【洋三】きみのてのひら
固く結ばれたその拳が、自分に向かって優しく綻ぶ日が来るなんて、思ってもみなかった。
「三井さん」
指先から、そっと俺の頬に伸びてくる水戸の手。
まるで繊細なガラス細工でも触るかのように、そっと遠慮がちに触れてくる。
喧嘩に明け暮れて人を殴りまくってる水戸の拳の内側は、少し体温が低くてかさついていて、思いのほか、【働き者のてのひら】をしている。
桜木や軍団のヤツらの話では、いくつも掛け持ちでバイトに行っているらしい。
不良然としていて、殴り合いもするけれど、そのてのひらがとてつもなく優しくて、俺をこの上もなく安心させてくれることを知ってしまった。
「水戸・・・・」
「あ、ごめん、痛かった?」
離れようとする水戸の手を自分の頬と自分の手で挟み込んで逃げられないようにする。
1936