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    mayura_BL

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    mayura_BL

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    唐突なエルメロイⅡ世×ライネス嬢です。昔書いたものの中でたぶん一番気に入っている話。Ⅱライ好きなんですよね。今年も終わりだし上げておきますね。事後表現があるためお気を付けください。

    あなたと私の感情論「レディ……」
    「どうした我が兄?」

     授業が終わり、それなりにまともな一日だった、と思いながら、それでもうるさい同僚や馬鹿騒ぎをする生徒たち、という、それなりに面倒な一日だったとも思う。つまるところは平坦な日常を終えてフラットに戻ったロード・エルメロイⅡ世にとって、この光景はもう何度目か知れないが、何度見ても慣れるということがない。

    「君はなぜ私のベッドにいる」
    「見て分からないのか?本を読んでいるんだ」
    「分かるに決まっているだろう!クソッ、また彼女から鍵を奪ったのか!確かに今日はいなかったが!!??」
    「奪ったとは失礼な。私はグレイをお茶に誘って、ちょうどいいからそのまま泊まっていくと良い、兄の世話は私がやっておこうと言っただけのことだ」

     この口上を聞くのももう何度目か知れない。内弟子がこの悪魔のような義妹にまんまと騙されてフラットの鍵を明け渡してしまうのだ。鍵を使って入っているのだからこれは合法なのだとライネスに言われた時は、さすがの彼もめまいがしたが。

    「では重ねて聞くがねレディ、男性の家でその恰好はなんだ」
    「それも見て分からないのか?ネグリジェだ。帰りがあまりに遅いから先にシャワーを浴びてしまってね。堅苦しいドレスなど着ているものではないだろう?」

     悪びれもしない返答ののちに、ライネスはぽすぽすとベッドの空いているところを叩いた。

    「さあ兄上、お疲れだろう?早く休まれると良い」
    「レディ……というかライネス」
    「なんだい?」
    「お・ま・え・は!?仮にもエルメロイ家の次期当主で!」
    「うん?」
    「私は男だということを分かっていてやっているんだろうな!?」
    「は?」

     いつも通りため息をついて死んだような目で二人分の夕食を作りに取り掛かると思った義兄は、そのままずんずんとベッドに近づいてきてどんと空いているところ、要は先ほどライネスが示した彼女のすぐ隣に手をついた。

    「分かっていてやっているなら私にも考えがある」
    「ちょ、変だぞ、我が兄よ?本当に疲れているのかい?可愛い妹を前に熱でも出てきたかい?」
    「ああそうだ。熱が出た。ちょうどいいお前が相手をしろ」
    「は…い…?」
    「教育的指導、というやつだ」


     疲れていた。
     そうだ。頭におがくずが詰まった同僚、聞き分けの悪い生徒たち、うるさい教室、君主同士の策謀。そうして今日はフラットに内弟子はいない。
     繰り返す。
     疲れていた。
     代わりにフラットにいたのは半裸と言っても差し支えのない義妹。
     しかもこれは一度や二度の話ではない。もう体に教えるしかないと思った。思っただけだ。本気になる気なんてなかった。本当だ。まさか妹が受け入れると思わなかった。

     というような言い訳を、エルメロイⅡ世は先ほどから三十分ほど頭を抱えて考えていた。狭いベッドの隣ですやすや眠る義妹を抱いたという現実から逃避したいが、それは事実であり現実だった。
     葉巻に手を伸ばそうと思ったが、たとえ事故のような内容とは言え、その相手が隣で寝ているのに葉巻を吸うなどということができるほど、彼は図太い心根を持ってはいなかった。

    「あー、空がきれいだなあ」

     空など見えるはずもなく、彼は天井のシミを数えながらもはや世界の終わりを夢想していた。

     悪魔に心臓を売った、明日の朝日が見たい、天井のシミすら綺麗な夜空に見える。

     おおよそ彼の思考回路はこのぐらいにはめちゃくちゃになっていた。

     そう思ったところで、もぞもぞと隣のライネスが寝返りを打つ。その金糸のような前髪を、エルメロイは軽く撫でた。

    「悪かったな」

     寝ているのは知っていたし、自分のやったことの重大さも分かっているから、この謝罪が適切ではないのは分かっていた。だけれど、確かに自分を受け入れたライネスという血の繋がらない妹に、自分が劣情を抱いて、それを妹も嫌がることなく受けいれた。それがどうしようもない感覚を彼にもたらしていた。

     まだあどけなさの残る肢体。顔立ち。
     だけれど彼女は自分よりはるかに優秀な魔術師で、いずれエルメロイ家の君主として立ち、そうして正しい血統の誰かを迎える。
     そう思うと感じる寂寞は、身近な家族の、妹というカテゴリの存在に感じる寂寞だろうか。
     それとも、ただただ手の届かない少女を、端から繋ぎ止めることさえできない自分への嘲りだろうか。

     そんな不毛なことを考えていたら眠気に襲われた。何かの魔術のようだ、なんてどうでもいいことを考えた。

    「お休み、レディ……ライネス」

     大切な妹、と言って彼はその小さな体を緩く抱いた。



     自分を抱いて、空がきれいだとのたまい始めた兄に、本当のところを言うと呵々大笑してやりたかったのだが、ライネスはそのあとに続いた言葉に寝ているふりを続けてしまった。

    「悪かったな」

     つぶやくように兄は言った。
     魔術師にとっての性行為なんて、なんてことないことなのに。
     いや、自分たちは兄妹か、なんて思ったら、妙に脳が冷えた。

     大切にされている。だっていずれは君主になるから。そのために魔術刻印だって。

     たくさんのことを思いながら、ああ、私はこの兄を繋ぎ止めることが出来ないのだとライネスは思った。
     どんなに頑張っても、どんな策を弄しても、彼はいつかすり抜けていなくなってしまう。そんな予感が、した。

     だからもし、自分が夫を迎えるとして、それで彼が君主を退くとして、それなら身体だけの関係で律義な彼を繋ぎ止める好機なのではないかとこのベッドで思ったのは確かだった。
     だけれど違う。彼は本当に、自分を妹として扱っている。

     レディ・ライネス、大切な妹。

     だけれどその心とは裏腹に、言われた言葉と彼の暖かな腕の温度が妙に心地好かった。
     もうきっと引き留めることなど不可能だと分かったからかもしれない。
     今この瞬間だけは、彼が自分の隣で、自分を抱きしめて、引き留めているのだと思えた。

    「それだけで十分なんだ」

     だって私は誰も信じてはいけなかったのだから。
     誰かの腕の中で眠ることなど、生涯できないはずだったのだから。
     だから、こうして安寧を与えるように緩く抱きしめる兄に今だけは縋っていよう。
     今だけは、彼を繋ぎ止めよう。

    「おやすみなさい、大切な我が兄」

     愛しているとは、言えないけれど。
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