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    鯉博『蕩ける甘さを知っていて』
    チョコレートを食べる2人の話です

    蕩ける甘さを知っていて 就業時間を示すチャイムがロドスに鳴り響く。ドクターは未だ終わらぬ業務に内心頭を抱えつつ、一先ず休憩を取ろうとチェアに背を預けた。
     チャイムが鳴り終わって暫くした後、執務室のドアが何者かによって開かれる。高い背で窮屈そうに入ってきたのは龍の男だった。

    「時間ぴったりだ」
    「休憩はしっかりと取って貰わないと」
    「……またアーミヤに何か言われたのか」
    「ええ、先日ここに残しておいた菓子がとても美味しかったと言われました」

     あなたの生活習慣については心配していませんでしたよ、とリーは告げ、足早に執務室のキッチンスペースへと歩を進める。
     ドクターはあの子うさぎを心配させることに罪悪感を抱いている。ドクターは残業過多のワーカホリックであり、それらが共通認識として出回る程の業務量を抱えていることも事実だ。
     しかし子供ゆえの心配というものは、どうやっても止められないことを身をもって理解しているので、リーはこの時間に執務室を訪れるようにしていた。

    「今日も寒いですねえ、ちょいと熱めに淹れますよ」
    「……丁度暖かいものが飲みたかったんだ」

     茶を淹れて話し相手をしてやれば、自然とドクターは休憩の姿勢に入る。続けて一気に業務をするよりも、多少なりとも休みを取った方が身体的に良い、とリーは考えていた。

     ドクターはチェアから休憩用のソファへと移動する。その最中、何かを思い出したかのように止まり、デスクの上に置かれた紙袋を手に取った。

    「ああ、……そういえばチョコレートを貰ったんだ」

     黒色に金のラベルが印字された紙袋の中には、同じ系統のデザインがあしらわれた箱が入っている。包装を開けば小粒のチョコレートが仕切られた空間に詰められていた。ひとつひとつ異なる造形に目を輝かせた頃、茶の用意を終えたリーはドクターの隣に腰掛け、同じようにしてチョコレートを見やる。

    「良いですねえ、おれも幾つか頂きたい」
    「勿論」

     口にひとつ放り込んだリーを横目に、ドクターは箱に納められていた紙を見た。小さな2つ折りはどうやらそれぞれのフレーバーがどのような材料から作られているのかを説明するもののようで、勿論先程リーが食べたチョコレートの味も示されている。
    “このアソートにはアルコールが含まれています”、という文字が目に入った頃には既に遅かった。忠告しようと隣を見れば、とろんとした表情の龍と目が合う。

     ――

     リーは絡みつかせた尾をそのままにドクターの肩を抱く。ドクターの背を回って腹を包み込む尾は苦しさを感じさせぬ絶妙な力加減であった。
     意図せずアルコールを摂取してしまったリーは見事に酔っ払い、今は横に腰掛けるドクターにぴったりと身体を密着させている。酒に弱いと聞いてはいたが、まさかここまでとは。
     身体が暖まってしまったが故に、淹れられた茶はすっかり冷めてしまっていた。それでも己を逃がさんとする男にドクターは微笑みを返す。龍はきょとん、と目を丸くした後嬉しそうに頬を緩ませ、正面から抱きつくようにしてドクターの胸に顔を預けた。

    「随分と甘えたがりなんだな」
    「……酒のせいです、これは不可抗力なんですよ」

     暖かな静寂の中、細い指先がリーの角を撫で、金糸混じりの髪を梳かすようにして触れる。彼が更に身を預けようとした所で、ドクターが口を開いた。

    「君の可愛いところが見られて嬉しい」
    「へ?」

     唐突に声色が変えられたものだから、リーは驚いたように顔を上げた。

    「このチョコレートは、アから手土産として渡されたものだ」

     ドクターは撫でる手を止めずに、ゆっくりと微笑んでから話を続ける。

    「彼は先日、一時的に龍門へ帰っていたね、研究に使う医薬品の調達をしたらしい」
    「そうなんですか、知りませんでしたよ……あいつも一言言ってくれりゃあいいのに」
    「……、バレンタインの時期だから龍門の百貨店はたいそう賑わっていた事だろうし、チョコレートも美味しいものを選べただろう」

     例えばこれのように、とドクターはチョコレートを摘み、口に放り込む。

    「何が言いたいんです?確かにバレンタインの時期で店はチョコレートまみれでしたけど、アはそんな行事に興味を示さないでしょう」
    「ああ……だから直接百貨店に向かったのは違う者なのだろうな、探偵事務所の者たちなら、人混みを潜り抜けることは容易そうだ」
    「……言いたいことは、ちゃんとした言葉で言ってくださいよ」
    「まあ、若者の独り言だと思って聞いてくれ」

     ドクターはまるで幼子に語りかけるようにリーへと言葉を紡ぐ。しかし、いつもとは様子が違った。ひとつひとつ丁寧に、確かな嬉しさを孕む声だった。

    「百貨店に向かった“その人物”は、チョコレートを購入した後アに渡したんだ、丁度戻ってきた彼なら、ロドスに戻って手土産としてチョコレートを渡すことができる、“その人物”が直々に買って贈ったものだとバレずにね」

     手が一度離れ、デスクの上に置かれた箱へと伸びる。摘んだひとつを口の中に放り込み咀嚼を終えると、えらを撫でられる心地よい感覚をリーは味わった。

    「君は昨日のオフに何をしていたんだ?」

     リーはドクターの目を見たまま、気まずそうに身を強ばらせる。ドクターといえば心底嬉しそうな様子を隠さず、百点満点の微笑みを湛えて琥珀の双眸を捉えていた。

    「私は嬉しいよ、君が私とスキンシップをする名目として策を講じてくれるだなんて」

     瞳には、策を暴かれた哀れな龍が1匹映っている。

    「確かに、酒に酔ったフリをすれば物理的な距離を近付けることは用意だ、……しかし君が私と会えるのは業務中の、合間の休憩時間しかない、流石に1人だけ飲酒して酔っ払うのも露骨だろう」

    「だから、君はお酒入りのチョコレートで酔ったフリをすることにした」

    「美味しいチョコレートと素敵な体験をありがとう、リー、でも今度からは直接言ってほしい、“いちゃいちゃ”したい……と」

     リーは再び胸元に顔を埋めると、やがて大きく重い溜息を吐いた。頭上の人間がにこにこと音が出そうな程の微笑みを絶やしていないことは、見なくても分かる。

    「ばれちまったなら、大人しく甘えさせてくださいよ」

     龍は賢人に屈した。返事は無いものの、代わりに両手で頬を包み込まれ口つけられる。やはりこの人間は賢い、リーが密かに飢えていたことや密かな策略を巡らせていたことを悟って、1番欲しいものを与えてくれる。

    「ところで何故推理できたんです?証拠は残していなかった筈ですが」
    「アが教えてくれたんだ」
    「へ?」
    「“これから言うことは俺の独り言だけどよ”ってね」
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