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    炎博『再会は薄陽とともに』
    ハロウィン遅刻、死ネタ

    再会は薄陽とともに「何奴も此奴も口を揃えて、お前は死んだと言うんだ」
    「うん、でも、確かに私は死んだよ」
    「無責任に放り捨てられておいて、みなお前の事など居ないように振る舞う」
    「そうだな、それがあるべき形なのだから、それがいい」

     私はもう居ないんだ。その一言を言いかけて、ドクターは思わず息を止めた。暗い私室に寝転がる男はまるで死んでいるような有様だった。男だけではない、律儀に毎月破いていたカレンダーも、窓際に置かれた鉢植えも、あの時から手を加えられず朽ちかけている。

     端からドクターの声は聞こえていないのだから、気を遣ってやる必要はない。しかし、目の前で這う男をどうしても1人にしてやりたくなかった。以前見たときから少し痩せた頬を撫でる。透けた指では触れることすら叶わないが。
     年に一度、現世と来世を隔てる境界が弱くなる日。しかし実際は壁に穴ができる程度で、やってきた死人を生きた者は認識できない。ドクターは人より広い世界を見てきたつもりだが、やはり死人というものは冷たく動かないものだった。死人が見えないし触れられもしないのなら、生前幽霊とやらに出会ったことがなかったのも頷ける。
     大まかな予測ができていたことであっても、穴の隙間から彼の元へ走ったのは生前放っておけなかったからだろう。ある意味自分を生きる糧としている彼が、自分亡き後どうしているのか、気になってしまったのだ。
     そうして見たものは今現在も変わらない。荒れた部屋で動く気力もなく倒れ込み、時折口を開いてはドクターへの恨み言を呟く、廃人の姿だった。

    「お前の痕跡はあちこちに生きている、まだ、お前は生きている」
    「いいや、君の論理は破綻している」
    「何が“グリーフケア”だ、何が“依存からの立ち直り”だ、お前がいなければ、何も始まらないというのに」

     お前、として指す人間はもう存在しない。しかし彼は頻りにお前は、お前が、と呟く。誰もいない1人の空間で、いるのかも分からない人物に向けて。
     そこに確信めいたものはない。どうかそこにいてくれ、に全てを賭けた、愚かしいものだった。

     ドクターは長らく使われていないベッドに腰掛ける。立ち尽くしたままでも痛みは感じなかったものの、困難な問題に向き合う時はまず座ってみるものだ。
     しかし、1日の始まりにやってきて、あと数分で日が変わる今まで見ていたものの、彼はそうしたままだった。

    「お前は死んでいない」
    「死んだよ、死体を運んだのは君だ」

     あと少しで日が変わる。その後にドクターが存在している保証はない。ついに途方に暮れて、ベッドから立ち上がる。軋む音はなかった。
     ぼそぼそとうわ言を繰り返す男へ寄り添うように、ドクターも同じように寝転がった。近くで見ると窶れた様子がよく視認できる。
     君はいつもそうだった、強い振りをして、暗闇に弱みを隠して、どうにもならなくなった時誰にも縋れないんだ。

    「まるで、愛していたみたいじゃないか」

     這う彼を抱き締めてやる。拘束力もなければ伝わることもない行為であるが、生きている者特有の温かさは酷く安心した。
     床は硬い。こんな所に寝転がったままでは身体を痛める一方だろう。祈るばかりだった。これ以上彼がドクターに縛られぬように、乱れた髪を撫でる。
     ふと、指先に髪が当たる感触がした。一瞬の事だが、彼もびくりと身を強ばらせる。やがて口が開く。

    「そこに、いるのか」

     ああ、なんて酷い顔をしているんだ。
     今にも泣き出しそうな表情は傭兵に似つかわしくない。少なくとも、ドクターの知る彼はこんな顔をする男ではなかった。しかし、それで良かった。気付いてくれたのなら、これ以上のことはない。

    「ああ」

     そう告げるよりも前に、腰に手が回る。寝転がったまま、痛みがあれば悶え苦しんでいたであろう強さで抱き締められた。それでも涙を流せないのは既に尽きてしまったからか、そもそもやり方を知らないのか。
     彼から自分がどう見えているのかは分からない。しかし、この温さを共有できているらしいことが嬉しかった。

     彼の明日以降が素晴らしいものとなることを、祈るしかない。次第に薄れる感覚に続いて、空気に溶けるような心地がした。足掻くもそれは止められない。勢い良く引かれると共に時刻は11月を指す。最後の最後で口から悲鳴じみた声が出た。

     君を愛してる。

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