小さなお星さまの話教団に住んでいるコタマには、素敵なお姉ちゃんがたくさんいる。
ちょっと前に大好きな姉さまは一人だけになってしまったけれど……世話役をしてくれる代理人形達はたくさんいて、そのうちの明るく笑うけどどこか氷みたいなマグネは可愛い。
真っ黒な着物におかっぱの髪を揺らしてる時、その水晶みたいな眼が固くてどこを見ているか分からない事は怖くなるけれど、きゃらきゃら笑う姿を見せてくれる日はとっても珍しくて、少しだけ心がほっこりするのだ。
そんなマグネが大好きで、コタマも大好きな、いっとう綺麗な代理人形が居る。
作り物らしく整いすぎていて作り物みたいだけれど、絵本の中の雪みたいにきらきらした銀色の髪は夢の世界を教えてくれた妖精さんのようで、コタマが大事な宝物にしている一番上の姉さまがずっと昔にくれたおっきな翡翠と同じ色の眼もとても綺麗。
そんなナトリは、あまり表情筋というのが働いてないとかでいつも同じような顔をしてる。
無表情とはちょっと違う、何か悲しくなるような笑顔だ。
「ねえナトリ、コタマとおしゃべりするのはつまらない?」
「いいえ、何故ですかコタマ様」
おままごとをしていた手を止めてふとそんな事を聞くと、翡翠みたいなきらきら光る眼が大きく瞬いた。
部屋の灯りに照らされるそれはお星様みたいで、やっぱり凄く綺麗なのだ。
だからこそ、胸がきゅうとなるような、ナトリお姉ちゃんの笑顔がどこか苦しい。
「だってナトリ、コタマと居ても全然笑わないんだもん」
「残念ですがコタマ様、これは地顔というものです。姫さまのせいじゃありませんよ?」
「でもマグネはいっつも笑ってるよ?」
「……あの子は明るいというか奔放と言いますか、まあおかしいだけなのであまりお気になさいませんように」
はあと溜息を吐いて首を横に振る。
その、どこか困ったような仕草は最近見るようになった。
そうしてずっと前に、同じ質問をした頃には見なかった、棘が少なくなった空気が――なんだか嬉しくて、おもわずコタマは口元を緩めてしまった。
今もナトリはあんまり笑わない。
だけど、それは最近は表だけのことで、ともすると父さまと一緒にいるときの銀色のお姉ちゃんは愉しそうで、小さく笑っている時も増えた気がする。
大好きな父さまを思い出すと、きゃらきゃらと、張りぼての小さな太鼓を鳴らすみたいな、軽い笑い声が零れてしまった。
「もう、今日はどこかご機嫌ですね、コタマ様?」
「うん、ナトリが可愛いから今日は素敵な日なのっ」
「……っ もう、どこでそんな言葉を覚えて来られるのでしょうか。まさかアクタ様ですか?」
「ううん、村の子が教えてくれるんだよっ 友達を元気にできる呪文なんだって!」
「……そ、そうですか」
きっとコタマと同じ年頃の子を叱るのは、良くないと気まずくなったのだろう。
頬の端っこを少しだけ赤くしたナトリを見て、ああ。
明日もまたこんなお星さまみたいなお姉ちゃんは笑っていてくれそうだと思えて、コタマはどこか嬉しくなった。
小さな、お星様が今は毎日、たくさん見られる。
こんな日がずっと、ずうっと続きますように。
そう、願う。