一幕日も落ち、エンジェルズシェアも客足が増えてくる頃。バーテンダーが風邪を引いたとの事で急遽ディルックはカウンターに立っていた。
足繁く通う馴染みの客たちは今日もいつもの定位置で酒盛りを始める。
あの客はよく飲む客、あの客はあまり飲まないが長居する客。
さらに他の客にも気を遣い、酒等を提供していく。
また一人、新たな客が顔を見せる。
「…なんだ。」
「なんだとは失礼じゃないか?」
ニコニコと笑顔を向けながらガイアはディルックの前のカウンター席に座る。さっさと飲んで帰ってくれと言うと釣れないなぁと言いながら出されたグラスに手をつける。
「で、僕をからかいに来たのか?」
「ディルックの旦那は手厳しい、単に仕事に疲れて飲みに来ただけさ」
旦那だってあるだろ?と言うと、ふん、とディルックはそっぽを向いてしまう。
飲まないのをわかってて言っているだろうと講義をしながら、つまみになる料理を出す。
「そう言いながらサービスしてくれるじゃあないか」
「客だからな。」
で?と言うと、まあ他にも用はあるにはあるとガイアは言う。
「空が、たまに妹さんの話をするからたまには顔を出そうかと思ったわけだ。」
「毎日顔を出しているのにか?」
「それはそれ、これはこれ。」
終始笑顔を絶やさずそんな話を続けている。以前よりは旅人が来てから、コミュニケーションは取れるようにはなったようには思える。
だがまだ、以前のようにとはいかない。
あの兄妹の話を聞いていると、もう少し歩み寄って見ようかと言う気持ちは少しだけ芽生えてきた。
「まあ、少しくらいなら僕も話に付き合っても…」
「そうかそうか、じゃあ面倒事があるんだが…」
前言撤回。作っていたカクテルに旅人から貰った絶雲の唐辛子の粉末を大量に入れ、ガイアの前に出す。
流石のガイアも気づいて避けようとするが、そのさあ飲めと目の笑っていない笑顔を向ける。
「あれぇ?何してるの?」
「お、ちょうどいい所に。」
そこにウェンティが来たのだ。これは好機とガイアはその酒を渡し…あとは想像通りだ。
少しだけ冗談を言うようにはなったかもしれない。旅人には感謝をしている。いつか妹と再会できた時には、ここで食事を振舞ってやりたいとは思ってはいる。
もう少し、この平和な世を眺めていたいと思うのであった。